14章 二人の夏休みの思い出
夏休みも中盤、8月も半ばお盆の時期だ。
お盆とくれば夏祭りだ。俺はタカシとナナミちゃんを盆踊りに誘った。
女の子になったら一度は浴衣を着てみたい、そしてナナミちゃんの浴衣姿も見てみたい。
浴衣姿は歩きづらいが、俺は外国人がみたら卒倒してしまうほど可愛かった。
タカシに帯を引かせ「よいではないか」「あれ~お殿様~」をやってみたい衝動を抑え、俺は会場に向かった。
ナナミちゃんの浴衣姿は可愛すぎた。タカシも黒の浴衣がなかなか似合っていた。最近のタカシは以前と比べてずいぶん良くなった。これならナナミちゃんとつき合ってもそこまで落差はないだろう。
出店も沢山出ていた。俺たちは焼きそばやリンゴ飴を食べたり、輪投げをしたりして遊んだ。あと2週間ほどで俺もタカシもいなくなるのだ。せっかくだから、今のうちにたくさん遊んでおこう。気のせいかナナミちゃんとタカシの関係もだいぶ良くなっている気がする。二人が笑顔で話しているのを見ると俺は孤独だった高校生活を思い出してしまう、そして心の中で「良かったなタカシ」と満足してつい笑顔になってしまう。
盆踊りが始まった。下手なりに俺とタカシが踊ると二人のシンクロ率が凄かった。同じ人間なので当たり前ではあるのだが……
しばらく踊っているとナナミちゃんが太鼓を叩くと言い出した。小学校のときに町内会で習っていたのだと言っていた。櫓に登るとナナミちゃんが太鼓を叩き出した。ときおりバチを放り投げたりナナミちゃんはカッコ良かった。残された俺たちは異常なシンクロをしながら櫓の周りを何周も踊った。時折、タカシと目が合うと、お互い必死に踊っている姿に笑ってしまった。
ナナミちゃんが櫓からなかなか降りてこないので俺たちは二人でずっと踊り続けていた。
盆踊りなど来たことがなかったがやってみると楽しかった。
◇
8月ももうすぐ終わるある日。
俺はナナミちゃんとタカシを図書館に誘った。夏休みの宿題を終わらせるためだ。
と、言うのは口実で俺の最後の計画のためだった。
優等生のナナミちゃんがいると宿題はあっという間に片付いていった。宿題は終わり、夕方になり俺たちはぜニーズで食事をした。タカシと先に別れたあと、二人になったので、俺はナナミちゃんを公園の片隅に連れだした。
公園に連れて行かれたナナミちゃんは「どうしたの?」と言った顔をした。
俺はカバンから2枚のチケットを出した。それはネズミーランドのチケットだった。
「ナナミちゃん、一生のお願いがあるんだけど。8月の最終日にタカシくんとデートをしてほしいの」
「えっ!?」っとナナミちゃんは驚いた顔をしていた。
「タカシくんね、ナナミちゃんのことが好きなんだ。でも別に恋人になってくれって訳じゃないから」
流石に夏休み中にタカシとナナミちゃんをつき合せるのは無理だった。だからせめて俺はタカシとナナミちゃん二人で最後にデートをさせてやりたかった。
「ごめん、無理言ってるのはわかるんだけど、一日だけつき合ってあげてほしいの」
ナナミちゃんは黙ったままだ……
「お願い……なんでもお礼するから……」
手を合わせて涙目でお願いをする俺をナナミちゃんが見て、口を開いた。
「ごめんね、無理なんだ……」
「そこをなんとか……」
「絶対無理……だって『ストーム』の解散コンサートがあるんだもん」
「へっ!?……」
「だから、『ストーム』の解散コンサートの配信を観なきゃいけないから、私、親が死んでも大地震が起きても絶対こっちが優先なの……」
アイドルグループ『ストーム』が解散するのはニュースで知ってたが、ナナミちゃんがそんなにファンだったとは……
俺はそれでも粘ったがナナミちゃんの意思は固く、俺のお願いを一切受け付けてくれなかった。
そして、話をしている途中で俺を置いて帰ってしまった。
俺は仕方なく残されたチケットをカバンにしまい、スマホを取り出すとタカシをネズミーランドへ誘った。
残念だが最後にナナミちゃんとデートさせる計画は失敗した。こうなったらタカシよ、最後に最高の普通のデートをさせてやるよ。
普通ってなんだろうと思いながら俺は家へ向かった。今夜は星が綺麗だった。




