12章 恋の終わりに
夏休みが目前に控えた月曜日の昼休み。
いつもの教室の隅で、俺と静奈ちゃんが机を挟んで向かい合って座っている。
「あの後、私、タカシくんに謝ってから別れちゃった。ワガママだったって気がついたの」
静奈ちゃんはいつもより優しい顔に見えた。
「実は私もリョウくんと別れちゃった。ケンカしたわけじゃないんだけど、お互いもう一度最初からやり直そうって」
俺がそう言った瞬間、静奈ちゃんの目が光った気がした。
「そう、リョウくんと別れたんだ……リョウくん、カッコいいよね……」
◇
俺は部屋に戻りベッドに横たわった。
全てはスタートラインに戻った。タカシは何を思っているのだろう、同一人物であるはずの俺でさえ、もはやタカシの心はわからない。ただ、タカシが幸せになって欲しい、それだけが俺の願いだ。
ふと思う。俺が死んだ日、あの天使に会った時から俺の響としての美少女人生が始まった。天使は全人類の中からの12000人に選ばれた幸運なのだと言ったが、心が男のままの俺が男と恋愛出来ると思えない。そういった趣味や性癖の人もいるが俺は違う。結局、俺はこの世界でまた孤独で終わってしまうのだろうか?
結局、美少女に生まれ変わったって、本当に幸せになれるのだろうか?死ぬ間際に男に生まれて失敗した、女、それも美少女ならなおさら素晴らしい人生が送れると思ったが、何か間違えていたのではないかと感じる。
まぁ、同じ孤独な人生なら非モテの男より美少女の方がいいが……
せっかく美少女に生まれ変わったのだ、やはり何かした方がいいのかな……あの暗い人生をやり直すチャンスが巡ってきたのだ。自分の2回目の人生を輝かせる何かを考えてみよう。
そんな事を思っていると、天井が光り輝き、あの時の天使が俺の前に現れた。
「久しぶりです!」見ると天使はあちこちに包帯やバンドエイドが貼ってあり傷だらけだった。
「神様にメチャ怒られました……過去に戻してあなたを美少女に生まれ変わらせたのは良かったのですが、元のあなたを消し忘れました。さらに、あなたの記憶をそのまま響として人生を過ごす女の子の体の中に入れてしまい男であったあなたの人格を女の子の体に残してしまった。これじゃー男の子と付き合えませんよね、男だもんね、本当にごめんなさい。」
俺は事態が飲み込めず呆然としていた。
「とにかく、この世界のバグを修正します。具体的に言うと、タカシを消します。それからあなたの前世の記憶も消します。美少女、響としての人生を楽しんでください。これなら男の子と恋をして結婚もして幸せな一生を終えられるでしょう」
前世の俺の記憶がなくなるとは、俺は死ぬのと変わらないのでは?そんな俺の頭の中を天使は読み取った。
「そうですよ、だってあなたはもう死んでるんだから。だけどちゃんと美少女で生まれ変わったんだから良いじゃないですか」
(そんなもんなのか……)
「バグ修正の実行日時ですが、システムの再構築には1ヶ月ほどかかります。何と言っても、今度また間違えたら私、本当に神様に地獄へ堕とされるんで、めちゃくちゃ慎重にやります。キリがいいのでこの夏休みの最後の夜にしましょう。夜9時ごろにドカンとやります」
夏休み最後の夜に、タカシは消え俺の記憶もなくなり、ただの普通の美少女響として生きてゆくのか。
「では、そんなわけでよろしくお願いします。残りの1ヶ月、せっかくの美少女体験ですので思い残すことのないように是非楽しんでください」
そう言うと天使は眩い光とともに消えていった。
俺はこの響の体を使って残された日々をどう過ごすか、そして俺の頭には静奈ちゃんと別れたタカシが浮かんできた、アイツもあと1ヶ月ほどで消えてしまう。この事をアイツは知らないのだ。
◇
次の日の昼休み、俺はタカシを人気のない階段の踊り場へ連れ出した。
「静奈ちゃんのことなんだけど」
「静奈ちゃんからお別れしようと言われました。仕方がないです」
「仕方がないって、夏休みはどう過ごすの?」俺はつい語気が強くなってしまう。
「別に、いつものように一人で過ごします」
「じゃあさ、私と遊ぼうよ、ナナミちゃんも誘うから! 服装だけはちゃんとしてね」
俺はそう言い放つと走り去った。有無を言わせぬよう長い話はしない。
教室へ戻る途中、隣のクラスにはリョウがいる。静奈ちゃんがリョウに何やら話をしているのが見えた。静奈ちゃんはリョウにアタックを開始したに違いない。
もうすぐ夏休み、あと1ヶ月ちょっと、いったいどう過ごすか。タカシとナナミちゃんが付き合ってくれるといいのだが……。




