11章 ダブルデート
月曜日、いつものお昼休みに教室の片隅。
今日は微妙な関係だった静奈ちゃんが俺の前に座っている。
「お互い、内緒話はなしで、はっきりさせようよ」静奈ちゃんから強い意思を感じる。
「私、ダーリンとまた付き合うことになったの」
理想はナナミちゃんだが可能性が低すぎる。これでいい、俺はすっかり笑顔になった。
「いいと思うよ、二人はお似合いだよ……実は私はリョウくんと付き合うことになったの」
「響ちゃん、実はダーリンのことが好きって噂があるけどどうなの?」
「タカシくんとはアニメ仲間なだけだよ。何にもないし、タカシくんは私とは合わないって思ってるよ」
「本当に?」静奈ちゃんはなかなか信じられないようだ……
その時、静奈ちゃんの目がキラリと光ったように感じた。
「今度の日曜日、ダブルデートしようよ! 朝くっさのお花やしきで遊園地デートはどお?」
静奈ちゃんの前でリョウと付き合っているところを見せないと納得してないだろう、リョウの部活大丈夫かな? タカシも俺がリョウと付き合っているとわかれば俺に気をつかうこともなくなるだろう。
静奈ちゃん、なかなかいい案だぞ!
俺はリョウに確認すると午後からで良ければ大丈夫と言ってきた。リョウにもお礼に少しはいい思い出を作ってやらなきゃな……
◇
日曜日のお昼すぎ、俺はお花やしきの入口で待っていた。
前回のトラウマがあるので俺は過激な服装を封印していた。今日はなるべく足を出さないロングスカートだ。動きづらいが安心だ。下に合わせてシックなシャツを着てきた。全体に地味だが、この地味加減が俺の可愛さを引き立ててしまった。俺にはお嬢様のような気品もただよわせる可愛さを持っている。通り過ぎる外国人がアジアの美しさに驚愕して勝手に俺を写メで取っていた。
リョウは練習試合が終わってから駆けつけるのでもうすぐ来るはずだ。待っていると、遠くから地雷系ファッションの静奈ちゃんがまた全身黒に戻ったタカシと一緒にやって来た。タカシは日傘を持って静奈ちゃんを日光から守っていた。
「ダーリン、暑いから飲み物ちょうだい」
「はい、姫様」そう言ってタカシはカバンからペットボトルを取り出し静奈ちゃんに渡した。
「ダーリン、チケット払って!」
「はい、姫様」タカシは二人分のチケットを買った。
「チケット買ってくるのが遅いから日光に当たったじゃない、なにやってるのよ!役立たず!」
「すみません、姫様」タカシは汗びっしょりだった。
静奈ちゃん、ヤバいな……タカシ大丈夫か? 静奈ちゃんの姫っぷりに心配しているとリョウが走ってやってきた。
「ゴメンね遅くなっちゃって、部活の運動着が汚れちゃったから着替えてきたんだ。俺の家、すぐそこだから」
俺たち4人はお花やしきに入った。
遊園地は楽しかったが静奈ちゃんがホラー好きでお化け屋敷に行きたがるのが俺を困らせた。俺はこの手のホラーが苦手だった。俺が泣き叫ぶたびにリョウは俺を抱いて守ってくれた。静奈ちゃんはタカシに前を歩かせタカシが驚くとお尻を蹴っていた。
ジェットコースターも俺の大の苦手だ。よく考えたら高所恐怖症で閉所恐怖症の俺は遊園地に向いていなかった。コーヒーカップでは目が回って吐きそうになってしまった。今日はリョウに彼女を味わわせてやろうと思ったが完全に助けられてばかりだった。そんな俺を嫌な顔一つ見せずに笑顔で、リョウ、やっぱりおまえイイ奴だな……俺が女だったらどれだけ良かったか……お前イケメンだよ……
逆に静奈ちゃんの姫っぷりは凄かった。タカシは奴隷のように静奈ちゃんの命令を聞いていた。
常に静奈ちゃんのために走り回り、それに対してありがとうの一言も言わず当然の顔をしてタカシを叱り飛ばしていた。
夕方になり、だいたいの乗り物も乗ってしまった。そろそろ帰ろうかというとき静奈ちゃんがタカシのカバンから首輪を取り出しタカシにつけた。
「じゃあ、そろそろ帰ろう。行くよポチ!」といいタカシを蹴っ飛ばした。
ついに見かねてリョウが静奈に説教を始めた。
「静奈ちゃん、タカシくんは犬じゃないよ。君の彼氏じゃないか! 君はもっと優しい娘のはずだ、そんなワガママな姿は君らしくない。そんな行為はもうやめたまえ!」
静奈ちゃんは首輪を持ったまま呆然とリョウの説教を聴いていた。
「ご、ごめんなさい……私、そんなにワガママだった……」
静奈ちゃんは打たれ弱かった。人から説教をされた事がなかったので、リョウの説教は心に深く響いた。
「あ、あなたが言うなら……私、素直になります……」
頬を赤らめ静奈ちゃんはタカシの首輪をはずし、タカシが持っていた自分の荷物を自分で持った。
明らかに目がリョウに対してハートマークになっていた。イケメンビームが炸裂したのだった。
タカシはどうしたらよいかわからずただオロオロしていた。リョウとタカシの違いに俺は頭がクラクラしてきた。そのせいか、ロングスカートの裾を踏んでしまい階段から落ちそうになった。
「危ない!」リョウが俺をジャンピングキャッチした。
ドスンと音がしてリョウが俺の下敷きになった。俺に怪我はなかったが、リョウは腕を擦りむいてしまい血だらけになってしまった。
ダブルデートはここまでにして、リョウは一人で帰れると言ったが、さすがに悪いので俺はリョウの荷物を持ってリョウの自宅に付き合った。
◇
リョウの部屋で俺はリョウの腕にバンドエイドと包帯をまいてやった。リョウは俺に怪我がなくて良かったと笑っていた。リョウは俺を駅まで送るよと言った。
リョウのイケメンぶりと対照に首輪をつけられたタカシ、つまり俺の姿が頭から離れない。あの情けない俺の姿。その瞬間、俺にまた悪魔的な考えが蘇ってきた。
リョウよ! やはりお前は地獄へ行ってもらう。情けない非モテは何をしても勝てないよ、その恨みお前が受けてもらう! 非モテは最低だ! 最低なんだよ! 最低が出来ることはこれぐらいなんだよ!
「リョウくん、ごめん、スカート汚れちゃったから洗ってもいい。乾燥機をかしてもらえるかな……」
リョウの家には洗濯乾燥機があった。リョウの家には今、俺たち以外誰もいない。
「スカートは水で洗えばいいから乾燥機だけ貸してもらえる……」
「い、いいけど……」リョウがちょっと困った顔をして答える。
「ありがと、じゃあ洗うからリョウくんのYシャツ借りていいかな……」リョウがびっくりしているうちに部屋にかけてあったYシャツをつかみ、流しで上着とスカートを濡らすと乾燥機に放り込んだ。そしてリョウのYシャツを着た。もちろん第一ボタンを外すのは忘れない。
「リョウくんのYシャツ大っきい……」
リョウは目のやり場に困っているようだ。俺はリョウの横に座って体育座りをした。そして包帯をした腕をさすると、
「ごめんね……私のために……痛かったでしょう……」
「だ、大丈夫だよ!これぐらい」
俺はリョウの頭を引き寄せ、額と額をつけると
「痛いの痛いの……飛んでけ!……」と呟き笑顔を作った。
「リョウくんのご両親いつ帰ってくるのかな……私、男の子のお部屋初めて入った」
「今日はデートに誘ってくれて嬉しかった。リョウくんにお礼したいな……して欲しいこと……あるかな……」
俺はリョウのベッドの上に乗り、再び体育座りをする。
「いつも、リョウくんここで寝てるんだね……」
「ずっと二人きりだと良いのにね……」
「私、リョウくんにだったら……」
(ふふふ……リョウよ、お前が俺にHなことをしようとした時がお前の最後だ! 「きゃー、やめてー、私そんなつもりじゃないのに、変態! 痴漢! 最低! 馬鹿アホマヌケ! ウジ虫、便所ムシ、インキンタムシ!鬼、悪魔、カッパ! もうリョウくんなんて嫌いよ!」
と叫んで、絶望のどん底に突き落として別れてやるよ!)
その時、リョウが不意に真っ直ぐこっちを見て向かって来た。
(ついに罠にかかったようだな……!)
そして俺のそばに立つと畳んである掛け布団をチラッとみた。
「響ちゃん、ごめんね」
リョウが俺の肩を掴んでベッドに寝かせる。俺の体は簡単にベッドに倒されてしまった。
(……あ、あれ? ちょっと待て、よく考えたらリョウはあのマッチョオタク兄弟を一瞬で気絶させてるフィジカルエリートだ!! もし本気で襲ってきたら、少女の俺の力で逃げられるわけないじゃん!! やばい、どうしよう!)
リョウが獣のような顔で俺を押さえつける、恐怖で俺は金縛りになった。俺はなにも抵抗できずにYシャツを脱がされ、強引にキスをされ、リョウの男を受け入れるしかなかった。そんな妄想が俺の脳裏によぎった瞬間、俺はミノムシのようにシーツに包まれていた。
「響ちゃん、その格好はダメだよ、しばらくそのままでいてね。そろそろ乾燥が終わる頃だから取ってくるから待っててね」
俺はシーツに包まれながら呆然としていた。助かったのか!?
しばらくするとリョウは乾いた俺のシャツとスカートを持ってきて俺に渡し部屋から出ていった。本当に、指一本触れてこない。
俺が着替え終わると部屋へ戻ってきた。
俺がありがとうとだけ言うと、
「響ちゃん、たまに俺に凄く優しい言葉をかけてくれるね……でもそれが本心じゃないって俺にはわかるんだ。どうしてそんなに優しくしてくれるのかわからないけど、無理をさせちゃったかな……ごめんね」
俺はリョウの洞察力に何もできず黙っているしかなかった。リョウのイケメン度がMAXに達し、背中から後光がさした気がした。
「この間、響ちゃんが襲われたとき、俺、つい響ちゃんに好きって言っちゃってゴメン。響ちゃんが俺のこと好きじゃないのわかってるのに、あの時はそう言うしかなかったよね。ごめん」
「今日はデートに誘ってくれてありがとう。俺、響ちゃんが好きになってくれるまで待ってるよ」
(凄い……これじゃ勝てない)
外見だけじゃない。中身の『男としての格』が俺とは次元が違いすぎる。リョウを陥れる作戦は完全に失敗した。邪悪な罠で陥れようとした自分が、とことん惨めで、汚くて、情けなくなってきた。
俺の思考は破壊され頭も心も大混乱の中、怯えた声で発した非モテの叫びと悲鳴、
「ヒィ……イ、イケメン!」
断末魔と共に俺は泣き崩れてしまった。
「響ちゃん、大丈夫!」
事態が飲めないリョウだったが俺の肩を抱き、泣き止むと駅まで送ってくれた。




