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5/残響猟奇

 夜の病院は昼のような灯りを失い、泥のような湿気が漂っている。

 目の前にある鉄柵を綾は一度の跳躍で飛び越え、静かに敷地内へと降り立つ。

 昼とはまた違う気配が漂う病院の敷地内。

 肌を刺すような視線の雨。

 建物の窓の全てから降り注ぐ視線に彼女は鳥肌を覚えながら睨み返す。

 ───────二秒。

 睨み合いから二秒の時が経った頃、一つの影がゆらりと、風に揺られる稲穂のように夜闇に浮かび上がる。

 見覚えがあるカタチ。

 当然の帰結とも言うべきその有り様を嘲笑してやる。

 カタチだけの、中身を喰われた(かげ)が綾へと向かってくる。

 

「なんだ、もうそっち側か」

 

 影にしてはあまりに生々しい。

 しかし、生物にしてはあまりに取り留めのない姿へと綾は躊躇いなく近づく。

 

「真也には悪いが、邪魔だから、な」

 

 昼に空に纏わり付き始めた雲から、月光が落ちた。

 表れる世界の輪郭に、彼女のほんのりと緑色に光る瞳は馴染んでいる。

 影の足が早まる。

 ずり、ずり、ずり、とまるで骨格の無い軟体生物さながらに。

 月光に照らされる影の輪郭は、高塚蓮というモノによく似ている。

 

 ───────もう生気は無い。

 ─────────中身も無い。

 ────────────────ならば、

「お前に意味は無い」

 

 拳を握る。

 綾の目は捉えていた。

 影の中身に浮かぶ赤色を。

 目の前の影を動かす動力を見た。

 その数は増え続ける。

 眼前の影の背後、病院の壁を這うように落ちる同種の影達。

 

「よくもまぁ、たった一夜でここまで。やってくれる」

 

 眼前の影が侵入者を殺めんと地を蹴る。

 同時に、綾の拳が前傾となった影の上体に灯る赤色を刺し貫く。

 感触は無い。

 絶叫も無い。

 ただ、ある男の輪郭を切り離した影が霧散するだけ。

 

「残りは、いや、数える方が億劫か」

 

 ため息を吐く彼女は既に次の赤色を捉えていた。


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