3/推想
「高塚とかいう奴とは話した。随分やつれていたな」
真也が疲れからか早退し、事務所を出た所を見計らって私は話を再開した。
「アレはダメだ。手遅れだ」
「そっか、残念だね」
「それより、元は何か検討はついてるのか?」
「さぁ、何ともね。形式がまず不明だから」
大河は追加のタバコに火を付けて深く吸い込む。
「何か真也は調べてたのか?」
「うん、まぁね」
大河はデスクの引き出しを開け、一束の資料を取り出した。
「これさ。気が利くからね、真也くんは。言わずとも纏めてくれたよ」
私はその紙束をひったくるようにして手元に持ってくる。
真也は好奇心については人一倍、いや、二倍しても足りない程の物を持っていると言っていい。
そんな変態、もとい友人は調べるとなれば極端なまでに根掘り葉掘り調べる。
気が付けば墓を掘り返す勢いで。
「………何だ、これ?」
「なんて言うべきかな、ヘドロ?」
数枚の写真、地面に広がった黒く、ドロドロとした液状の物体がベッタリと写し出されていた。
「何でこんなもの」
「まぁ、続きを読めば分かるよ」
さぁ、と肩をすくめる大河は次のタバコを口に加える。
「計四箇所。そのヘドロが出現した場所ね」
「まさか、人間か?」
「───────そう。けど元人間が正しいかな。もう人間としての機能はないよ」
「血液検査や遺伝子鑑定の結果、依頼人の捜索対象と一致していた、か。わざわざこんな細かく調べるとは暇だな」
「野生動物の死体であれ、異臭を放つ不気味なモノだからね、調べない訳にはいかなかったのさ。それで、警察の見解は薬物による殺人の線らしい。まぁ、人間を溶かす薬物なんていっぱいあるし」
ふぅと煙を吐き出す大河はどこか嬉しげだった。
「やけに嬉しそうだな」
「いや?ただ、因果応報ってあるものだなって思っただけさ」
「は?」
「はは、気にしないで。こっちの話だから」
私の困惑を他所に大河はニコニコと笑いながら半ばまで吸ったタバコを灰皿に入れて潰す。
灰は広がり、圧力で火種が消えた。
「ここからは私がやるから、アイツには関わらせるなよ」
「分かっているよ。ホント優しいね」
「利害の一致ってだけだ」
私は真也のまとめた資料を片手に事務所を後にする。
オレンジ色の日差しが窓越しに目に入り、つい目を閉じてしまう。
一階の裏手に取り付けられた扉は重く、体重をかけ無かれば開けるのに労力を要する。
「─────暑いな」
吐いた息が熱を帯びる。
今夜は熱帯夜だろう。
全身を這う地面からの熱が汗を誘い、額から滲んだ。
「ああ、億劫だ」
今夜の自らの労力を考えると一歩が重くなり、自然と俯きがちになっていく。
それでも歩けば進むのだから経過というのは憎たらしい。
「まぁ、お礼はしないとだよな」
そう言葉に発して私の口元は緩んでいた。




