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10/残響

「戻った」

「………………ん、ああ、おかえり、綾」

「寝てたか、起こして悪いな」


真也はソファから体を起こし、一つ欠伸を零す。

時計を見ると午前五時を指している。

どうやら私が帰って来るまで待っていたようだ。

勤勉なのか馬鹿なのかと決めあぐねつつ、ダイニングの机を見ると皿に盛られた料理が目に映る。


「やけに多いな」

「君がいなかったからね。時間あったし。残った分は昼か夜にでもしなよ」

「私が悪かったか?」

「まぁ、約束は破ったよね」


真也の少し責めるような物言いに、言い返そうと口を開くが、先に自分の気力が尽きて言葉が詰まる。


「─────────すまん」

「え、あ、うん」


私の謝罪に虚を突かれたように真也は目を点にする。


「いいよ、君に待たされるのは慣れてるから。ほら、食べようか」

「ん、ああ、腹減った」


私は大した言葉も無く、目の前に置かれた食事に手をつける。

舌に乗せた肉は冷たい。

脂は白く濁っている。


「冷たい」

「温めようか?」

「いい、時間の無駄だ」

「そっか」


和やかな時間。いつもは一人きりの食卓に、たった一人がいるだけで多少なりこの冷たい食事に火が灯っている。


「そうそう、冷蔵庫の中身だけど。あれはダメだ」

「何がだよ」

「栄養さえ取れればいいって風だけど。精神衛生的にも栄養ゼリーばかりではダメだ」

「いいだろ、別に」


水を刺されたと睨んでやるが、目の前のボンクラはまるで意に介さず箸を進めていた。

言うだけ言ってなんだと私も自分の分を口に運んでいく。


「長い散歩だったね」


食後、紅茶を卓上に置いて真也が私を見る。


「今日は随分質問するじゃないか、お前」

「まぁ。今日………いや、正確には昨日か。何だか今回の事件について気になってさ」

「珍しいな。引き受けるだけで後の事は大して関心を持たないお前が」

「何だその言い方。まるで俺が責任を持たない奴みたいじゃないか」


ムッとした顔で私の反対に座る真也はコーヒーを片手にブツクサと“自分はそんな感じに見えるのか”みたいな独り言を言い始めた。


「なぁ、お前って宮水愛梨って知ってるか?」

「ああ、うん。駅近の飲屋街で暴行に遭った子だよね。それが?」

「また、会ってやれ」

「あれ、会いに行ったなんて言ったっけ」

「お前のことだ。例の依頼に関連してるってことなら調べただろうってな」

「よく分かってるね。君の言う通りだよ」

「飲屋街での暴力事件の犯人、探してた連中なんだろ?」

「うん。依頼は依頼だから探してはいたけど、半分は警察に自首して貰うためでもあるから」

「それでか、高塚の奴がお前に報酬を渡した後に青い顔してたのは。大方、警察に自首するよう勧めたな?」

「まぁね。余計なお世話だって切られたよ」

「全くだ、ほっとけば良かったんだ」


私は残りの茶葉の浮いた紅茶を軽く吐息で揺らし、口に含む。


「……………苦」   

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