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私、 転生して路傍の石になっちゃいました。 ~石から始まる、底辺騎士爵の娘の受動的英雄譚。なぜか放っておいてもらえません~  作者: 大童好嬉


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第51話 秋:タツィオと遊ぶ05

領館の石壁が見えてくる頃には、背負った籠の重みが肩にじわりと食い込んでいた。

歩幅を変え、少しだけ肩を揺らしながら重さを逃がすが、それでも籠の存在は確かにそこにあり続ける。

扉をくぐると、ひんやりとした空気とともに、乾いた木の匂いが三人を包み込んだ。


足音に気づいたのか、奥から執事のカルロと、その妻で侍女のラルディが姿を現す。

だが次の瞬間、二人の表情が揃って止まった。

視線の先にあるのは、籠いっぱいに詰められた橙色の実。

「……お嬢様、それは」

ラルディが一歩寄り、目を丸くする。


「そんな食べられない柿を、どうなさったのですか?」

アルフィは肩の籠を下ろし、小さく息をついてから答える。

「ちょっと実験をね。これ、渋みが抜けたら……きっと美味しくなると思うんだ」

軽やかな口調だったが、カルロはわずかに眉を寄せたまま、柿を見つめる。

その沈黙は、はっきりとした疑いの色を帯びていた。


「ナイフと紐、貸してもらってもいい? 三人分。みんなでやってみたいの」

そう頼むと、ラルディが即座に口を挟む。

「刃物は危険です。――私が一緒という条件であれば、よろしいですよ」

「うん、お願い」

頷くと、三人はそのまま領館の脇にある倉庫へ向かった。

粗い木材で組まれた扉を開けると、乾いた藁と木の匂いが満ち、壁際には簡素な棚と作業台が据えられている。

差し込む光が埃を浮かび上がらせ、ゆらゆらと静かに漂っていた。


作業台の上に柿を並べる。手に取れば、わずかにひんやりとしている。

そこへラルディがナイフと紐を持ってきた。

アルフィは一本を手に取り、少し考えてから口を開く。


「まず、この茎は残しておくの。あとで使うから。それで皮を剥いて……この茎に紐を通す。一本に五つか六つくらい、少し間をあけて。それを軒下に吊るして干すんだ」

言葉は淀みなく続くが、手つきはどこか探るようだ。

「しばらくそのまま。たぶん……一カ月くらいかな。あ、でも鳥に食べられるかもしれないから、それは気をつけないと」

説明を終え、三人で作業に取りかかる。

だが、思っていた以上に難しい。ナイフを当てても皮は滑り、力を入れれば身まで削れてしまう。

最初の一つは不揃いで、ところどころえぐれてしまった。


背後からラルディの声が飛ぶ。

「違います、ナイフではなく柿を動かしてください!」

「刃は自分や他人に向けてはいけません!」

「ゆっくり、落ち着いて――!」

声が重なり、三人の手元に緊張が走る。それでも二つ、三つと進めるうちに、次第に動きは整っていった。


中でもリーナは際立っていた。無駄のない手つきで、皮を薄く均一に剥いでいく。

「上手だね」

アルフィが言うと、リーナは少しだけ照れたように答える。

「……お母様のお手伝い、時々してるから」

やがてすべてを剥き終える頃には、三人の指先はすっかり黒く染まっていた。


特に爪の間に入り込んだ色は、拭っても簡単には落ちない。

「とりあえず、洗おうか」

井戸で冷たい水に手をさらすが、完全には消えず、互いの手を見て小さく笑い合う。

再び倉庫に戻り、今度は紐を通す。茎に紐を差し込み、間隔をあけて結び、連なりを作る。

それを竹の棒に掛けると、橙色の実が揺れた。


昼食は簡素だった。固いパンと温かなスープ。だが作業の後には、それだけで十分だった。

それでも、アルフィの中では終わっていない。

外に出て空を見上げたとき、ふと閃きが走る。

「……鳥」

干したものは狙われる。ならば隠すべきだ。


カルロに頼み、ナタを借りる。結局一人では許されず、彼も同行することになった。

三人は村の笹藪へ向かい、自分の背丈ほどもある笹を切り出す。

青い葉が擦れ、乾いた音が耳に残る。

それを抱えて戻り、倉庫の前に差し込む。上から見えないように覆いを作るのだ。

さらにアルフィは考える。

「……黒いもの」

曖昧な記憶が形を求める。


カルロが厨房から炭を持ってくると、アルフィはそれを手に取り、壁に丸を描いた。

ただの円。だがどこか“目”を思わせる。

「こういうの……たくさんあったほうがいい気がする」

その言葉に、リーナとタツィオも加わる。丸は増え、やがて歪な鳥や大きな目のような形が壁を埋めていった。

倉庫の内側は、いつの間にか無数の“視線”に見つめられる空間へと変わる。


それを見ていたカルロは苦笑する。だが止めはしない。ただの遊びではないと、理解しているからだ。

すべてが終わる頃には、三人の手も顔も、服までもが黒く汚れていた。

最後に四人で竹を吊るす。軒下に連なる柿が風に揺れ、その光景はどこか静かな儀式のようだった。

あとは、待つだけ。


一日の作業に、体は心地よく疲れていた。やがてタツィオが帰り、リーナはそのまま領館に残る。今日は泊まりだ。

三人で裏の勝手口から中へ入ると――

そこにいたのは、腕を組み、静かに立つステラだった。

その表情は、笑っていない。


「……何か、言うことはあるのかしら?」

低く抑えられた声。

アルフィもリーナも、言葉を失う。気づけばカルロの姿はない。

その後は――長かった。


手も顔も体も徹底的に洗われ、着替えさせられ、部屋に戻されてからも説教は続く。夕食を挟んでもなお、その流れは途切れない。

夜が更け、ようやく解放された頃には、アルフィとリーナはぐったりとしていた。


そして翌日。

顔を合わせた三人は、互いに苦い顔で笑い合う。


――どうやら、タツィオの家でも、同じことが起きていたらしい。

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