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私、 転生して路傍の石になっちゃいました。 ~石から始まる、底辺騎士爵の娘の受動的英雄譚。なぜか放っておいてもらえません~  作者: 大童好嬉


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第34話 春:散策03

春の陽がやわらかく差し込む午後、竹の子掘りで土にまみれたままの手を軽く洗い流し、アルフィたちは森の浅層へと足を向けた。

湿った土の匂いと若葉の青い香りが混じり合う中、木々の合間にぽつりと開けた空間が現れる。

そこに、丸太を組んで作られた質素だが頑丈な家――エルガミオの住まいがあった。


家の前では、すでに大きな影がゆったりと動いている。

太い腕で蔓を選り分けながら、のんびりとした手つきで束を整えていた。

「おう、来たかの」

エルガミオは顔を上げ、皺の深い目尻を緩める。

「今日は天気が良いから外でやろうと思ってのう」


庭の一角には、粗く削った木で作られた作業机が据えられていた。

その脇には、束ねられた蔓が山のように積まれ、太さや柔らかさごとに分けられている。

乾いたものと、まだ青みを残したしなやかなものが混ざり、触れればそれぞれ違う弾力を返してくる。

アルフィはその光景を眺めながら、胸の奥にわずかな既視感を覚えた。


――あれ、こういうの……

指先が、何かを知っているような感覚。だが思考に浮かび上がる前に、それはするりと逃げていく。

ほんの一瞬だけ、耳の奥で声のようなものがかすめた気がした。

――もっと優しく、添わせるのよ

誰の声か分からない。けれど、どこか落ち着いた女の声だった。


アルフィは小さく瞬きをして、視線を戻した。

「今日はな、とりあえず手に持てる花籠からじゃな」

エルガミオが蔓を一本取り上げながら言う。

「背負い籠は一日じゃ無理じゃ。通いながらで一週間はかかる。この花籠作りが気に入ったら、今度また来るとええわい」


アルフィは手にした布を見下ろし、少しだけ指に力を込めた。

「エルガミオさん……わたしたち、背負い籠を作るつもりで布を持ってきたんですけど……やっぱり、今日は使えませんか?」

言葉の最後がわずかに弱くなる。期待を押し殺したような声音だった。

リーナもタツィオも、それぞれの布を大事そうに抱えている。


エルガミオはしばらく黙って布を受け取り、指で質を確かめたあと、ゆっくりと顎を撫でた。

「ほう……悪くない布じゃな」

それから、ふっと笑う。

「それなら花籠に編み込めばよい。背負い籠ほどの大きさは無理でもな、自分で作った籠に自分の布を入れれば、それはもう立派に“自分のもの”じゃ」

その言葉に、空気が少し柔らぐ。

「やります!」

リーナがすぐに手を伸ばした。

アルフィもまた、小さく頷く。


――形に、できる

それだけで十分だった。

作業は思った以上に理にかなっていた。

太めの蔓を十字に組み、中心を押さえる。ずれればすべてが歪む。

「最初が肝心じゃ」

エルガミオの声が低く響く。

アルフィは蔓を押さえながら、慎重に巻いていく。だが少し力が入りすぎ、形がわずかに歪んだ。

「力は逃がすのじゃぞ」


その言葉と同時に――

――押さえつけちゃダメ、添わせるのよ。

また、あの声がした。

アルフィは息をひとつ整え、そっと力を抜く。

すると、蔓はすっと自然に収まった。

「……できた」

思わず小さく呟く。

それは偶然ではなかった。


どこかで、誰かが教えてくれているような感覚があった。

そのまま編み進めていく。一定のリズムで、上下交互に通しながら、形を起こしていく。

リーナは正確で美しい。

タツィオは雑だが勢いがある。

アルフィは――迷いながら、それでも丁寧に進めていく。

その途中、ふと指先に伝わる感触に、わずかな安心が混じる。


――大丈夫、ちゃんと形になるから。

声はもうはっきりとは聞こえない。

けれど、確かにそこに“いた”。

やがて籠は形を持ち、縁が整えられ、持ち手がつく。

「できたのう」

エルガミオの声で、全員の手が止まった。

三つの籠が並ぶ。


アルフィはそれを手に取り、じっと見つめた。

蔓の感触。

自分の手で作った重み。

そして――ほんのわずかに残る、誰かの気配。

アルフィはそっと籠を抱き寄せる。

言葉にはしなかったが、その胸の奥に浮かんだのは、ひとつだけだった。


――ありがとう

誰に向けたものか、自分でも分からなかった。

だが、それでよかった。


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