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530 大器が成りつつある



 クラディスに渡された紙を見た瞬間、2人の脳内に巡ったのは【こんなのを渡す知り合いはどんなやつなのだ】という感想だった。

 正確無比な魔法陣。

 途中までしか埋められてはいないものの、芸術的だと思えるほどの精巧なソレ。

 芸術家の下書きを見ただけで、この作品の完成に胸が踊るような感覚がたった一つの魔法陣から感じられた。

 

「エマさん」


「気づきましたか、レヴィさん」


 二人は対して面識がないものの、魔法陣を見て深い溜め息を着いた。

 それは関心もあるし、驚きも混じったため息だ。

 

「原理は分かります?」


「一応は」


「分かっててもという話ですか」


「ええ……」


 なにがやばいかと言うと、発想がまず驚きだった。

 コレに似た原理で作られた通信魔導具は登録された道具同士を繋ぐために、各地に中継地点がある。

 A地点からB地点に行くためには各地を中継する必要があり、魔導具の消費魔素量はその分大きなモノになる。

 だが、これは直接つなぐことが可能。その方法は道具を登録するように、対象の魔素情報を登録する、というものだった。

 人間が持つ魔素はそれぞれ異なり、ステータスによってそれらは変化していく。

 だが、変化しない部分はある。

 それは名前であったり、種族であったり、性別といった部分だ。

 それらの情報だけを魔素から抽出するという鑑定士にもできないようなやり方が文字で精巧に描かれている。

 そして、その対象へ直接音声を送り届ける。これは転移魔法の応用だという。

 

「……誰がこの紙を渡したんでしょう」


「気にはなりますが、知るのが怖いって気持ちもあります」


 だが、技術の特異点とも言えるほどのその魔法陣は未完成だ。

 これが完成をしてしまうと0が1へと変化をする。

 そうなれば、多くの魔導士はそれを理解し、新たな魔法を作り出すだろう。

 そんなワクワク感が二人にはあったのだが……ふい、と目に止まった箇所で少しの安心感を得ることになった。


「ここ、魔素の消費の箇所」


「ん……ここだけかなり簡素に書かれてるな」


「ふむ……」


 そこはクラディスも行き詰まっていた部分の「魔素消費が凄まじい」というところだった。

 既存の状態だとどうしても時間が伸びれば伸びるほど魔素の消費が増えていく。

 通信魔法を繋いで無言でいたとしても無遠慮に魔素が転移されて送り届けられるようになっていたのだ。


「珍しいな。これほどの魔法陣を描ける魔導士が、ここをこれほど雑に書くとは」


「でも転移魔法ですよ。コレくらいの魔素は確保をしておかないと正確に伝わらないんじゃ」


「そうかもしれないが……これだと十数秒ですら話せれないだろう」


「わたしは数秒もきついかもです」


「そうなんですか?」


「クラディスの姉」

 

 ひょっこりとやってきたのはアルマだった。

 そこまで話をしていない3人が集まったが、気まずいというよりもその魔法陣への好奇心が勝った。一応、アルマも中級魔導書までは読んでいるが、その魔法陣のことは微塵も分からない。


「でも、クラディスくん、この魔法を20秒くらい使ってましたよ」


「え」


「はっ……?」


「戦闘中にちょっと離れてたアンちゃんにって」


 衝撃の発言に二人は顎の下に手を持っていった。

 これを20秒……? 

 目線で「できるか?」と見ると「できません」とエマから返事が返ってきた。


「その後はどうだったんだ」


「そのあと……普通に魔法で倒してました。なんか、バラバラに散ってる相手の下から鉄のなんだか良くわからないのと水の檻……かな? をつかって」


「座標指定の拘束魔法か」


「まぁ、それくらいなら……」


「一気に10人くらいにババッとしてて」


「「!!?」」

 

「いや、16人とかってなんか言ってたっけ……まぁ、そんな感じでした」


「……そんな……」


「その後も……いっぱい戦って……」アルマは気づく。あの二人と戦ったことはさすがに言ってはならないことだと「モンスターとかたくさん強いのがいて……」


「……」


 にわかには信じられない。

 この通信魔法をするだけで、魔素は枯渇するはず。

 だというのに、座標指定の拘束魔法を同時に16人にやって、その後に普通に戦闘を行ったというのか? 

 

「信じられない……」


 レヴィの頭の中には、最初の旅路のクラディスの顔が浮かんでいた。

 膝の上に乗って、少し大人びたことをいう無邪気な少年の姿だ。


「……やりかねないか」


 エマは冬山でエヴァーチェ相手に暴れまわったクラディスの姿を思い返していた。

 恐ろしいほどに強く、多くのモンスターを従える冬山の長の姿だ。


 え? と二人は顔を見合わせた。


 レヴィはクラディスがどれだけ成長をしたかを口伝えでの情報でしか知らない。

 エマはその強さを体感をした人物だ。 

 二人の中で認識の相違があるのは当然のこと。


(転生者の成長速度というのは恐ろしいと聞いていたが……)


 レヴィの想像以上の速度で成長をするクラディス。

 前を歩きながらムロ達と話している少年の姿を見て、少し怖くなった。


「というか、レヴィさん……この魔法陣さっき完成したって言ってませんでした?」


 なんてエマが言い出すものだから、驚きを通して呆れてきた。

 

「成長が早いのは良いことなんだが……」


 会っていない間にどんなことをして、どんな経験を積んだのか分からない。

 だが、今のクラディスの実力のソレは……上級冒険者に到達をしている。

 そんなことを言えば、彼は謙遜をするだろう。


「……わたし、協会行くの恥ずかしくなってきた」


「私もだ」


 数週間前に白金等級へと至った冒険者が持っていて良い実力ではない。

 だが、クラディスは自分は弱いと信じているし、彼はそれを疑うことなんてない。

 もし、レヴィ達がクラディスの実力を評価したとしても、


 ──僕なんかまだまだですって。弱っちいんですから。


 なんて心の底からそう思っているような表情で言い返してくるのは想像できる。

 つまり、本人すらも認識できないほどの速度で成長をしているのだ。


(…………大器晩成の転生者が、成熟をし始めている、か)


 頼もしく思える反面、あの日の少年とは離れていく気がして。


(……さみしいという気持ちがあるのは私だけなのだろうか)


 自分の視線が気持ち下がっていることに気づかぬまま、レヴィは歩いていた。

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