528 完成! 通信魔法!
転移は大きさによって使用魔素量が変化し、小さければ小さいほど少なくて済む。
魔法陣に刻まれている転移する魔素は明らかに魔素を多く見積もられている。
(……多い? いや、これが普通か)
虚霊質を知らないと魔素に命令を与えるにしても細かく命令をすることが不可能。
体の使い方を知ってる人と知らない人のようなものだ。
一概に「肩」と言っても三角筋や菱形筋や僧帽筋と分かれ、そこから更に前や中、後ろと細かく分かれたりするのを知ってる人の動かし方と、知らない人の動かし方では差がでてくる。
要するに、対象が広く、動かさなくても良いトコロまで動かしてる。
となれば……。
「ここに書くには場所が足りない」
僕は魔法陣の横に空の魔法陣を作り出してみた。
そこに文字を刻んでいく。
流転、円環、まずは全体、そこから詳細に行き着く。
だが、これはあくまで補填の円環だ。
「何かに気づいたんだね」
「ええ、ちょっと、待っててくださいね」
魔素が記録をするんじゃない、虚霊質が積み重なって魔素となる。
だから、1虚霊質がどれだけの情報を積み込めるのかというのがキモになる。
今までは魔素というぼんやりとした余白の有り余っている空間に1単語だけ詰め込んで転移をしていたようなもの。
言い換えれば、田舎で人通りが少ないところでバスの運行数を増やしていた訳だ。
それをしないためには、規定量に達してから送るようにする。……もしくは、箱を小さくする必要がある。
(くそ、理解したつもりだったのに……時間経過で送ってたんだ。そりゃあこんなにざっくりとした魔素計算になる訳だ……)
一般の人が使えるように白い魔素の段階ならどうなる。
単語が区切られる間。句読点の度に相手方にパンパンに情報を詰め込んだ魔素を送る方が良いか。
だったら──…………。
「こんな……感じ……?」
気がつけば、魔法陣は二つどころではなく周囲に小さな円環が増えてしまい、中央の魔法陣の他に計五つの円環がくっついているような見た目になってしまった。
「これで魔素の消費量は抑えられるはず。かけてみていいですか?」
「いいよー」
僕は少し離れて魔法を起動してみる。
先程まで作り上げた魔法陣が展開した。
「聞こえますか?」
《うん。聞こえるよ。魔素の消費はどうかな》
「全然気にならないです」
これはすごい。転移魔法を使っているというのに軽く、体への負担も少ない。
《……お、通信魔法を飛ばした側が相手方の魔素も肩代わりするのか》
「そうです。だから、魔法の原理を知らない人にも通信を飛ばすことができます」
《ほお、それは便利だ》
魔法陣を消して、席に戻って一息ついた。
これでユラさんからもらった課題がクリアだ。人の手を借りちゃったけど、偶然ってことで良しとしよう。後で連絡を入れておかないとな。
「君はすごいんだね、若いのにさ」
「ああー……そんなことないですよ。全然、ほんと」
「いや! すごいよ! 若いのに偉いんだねー」
「いやいやそんな──」
って。
あれっ。
いま、ぼく、普通に人の目の前で魔法を構築した?
あんな上級に分類される技術をふんだんに使った魔法を?
「いやっ、ほんと、たまたま上手くいったなあ!」
まずい! まずいまずい!!
何も考えずに魔法使っちゃった!!
これ、どうしよう。この人……転生者……だろうけど、それでも怪しまれたら!!
「外の人はすごいんだなー……」
……あれ?
思ったより……なんか、そんな変な感じじゃない?
それに言い方が気になる。
「外の人っていうのは……?」
「え? ああ、ごめんね。ちょっと変な言い方だったかな?」
フィヨルさんはへたくそな笑みを浮かべ、栗色の髪で瞳を隠した。
「私はこの街から出たことがないんだ。だから、外の世界を知らない」
そう話すフィヨルさんは少し小さく見えた。
元々去勢を張っていた訳ではないだろう。
だが、余裕や自信がなくなった彼女はひどく小さく見える。
(この人は転生者なのに……何も知らないのか……?)
聞いてみるか……?
「……じゃあ、フィヨルさんは何を知ってるんですか?」
「なんだい!? 無知に見えるかい!?」鼻をフンッと鳴らしたフィヨルさんは指折りで数えていく「道具の作り方、人との喋り方なら知ってるとも。外で人と話すこともあるけど、外は危険がたくさんって聞くし。映像記録で見せてもらう敵なんて身震いするよ」
「じゃあ今、また戦争をしそうなことは?」
「それは皆から聞いた。だから武器を作ってるんだろう? でも、詳しくは知らない。話してくれないんだ。仕事に集中させたいからなのかもしれないけど。まっ、ここにいたらご飯も出てくるし好きな研究も出来る……」
と流し目で奥の方の部屋を見つめていた。
「でも寂しかった……から、さっきは呼んだんだ。……鉱人の皆とは仲良くしてるけど、人間の同性と話すのなんてあんまりないからさ」
「…………」
この人は……ずっとここで暮らしていて、世界がどうなってるのかを知らない。
鉱人の人たちは転生者のことを知らないわけじゃなかった。
じゃあ、フィヨルさんをこの街から出さず、情報を統制している理由は?
「……フィヨルさんは──」
──コンコンッ。
「おい、他のモンが帰るらしいど。そろそろ帰してやれぃ」
音のなる方を振り向くとマレウスさんが扉をノックしていた。
「あ」というフィヨルさんは目を大きくして、だけどそれもすぐに萎むように小さくなった「うん、分かったよ。じゃあね、使い方は教えた通りだから」
「……はい、ありがとうございます」
転生者の生き残り方は一つだけだと思っていた。
でも、それのやり方はたくさんあった。
ムロさんのように周りとともに強くなって目立たずに強くなる方法。
麻央さんのように扱いやすい戦力として地位を確立する方法。
そして、フィヨルさんのように戦闘分野以外で才能を発揮し、外界との接触をしない方法。
「魔法、教えてくれてありがとうね」
大人びた表情で、それでも少し悲哀が滲む笑顔で手を振ってくる。
──どれが正解で、どれが幸せなのかは分からない。
少なくとも、彼女は幸せそうには見える。ただ、孤独だ。
酷く、孤独だ。
「はい。フィヨルさんもがんばってくださいね」
「ああ、次の魔導具は音声も含めるように頑張るよ」
転生者としての生き方が一つじゃないというのは、僕にとって少しの希望と選択の余地があることを示してくれる。
あとは自分がどうしたいか、か。
ムロさん、麻央さん、フィヨルさんと同じ道を歩むのか。それとも別の道か。
「……」
──フィヨルさんは、外に出たいと思いますか?
なんて言葉が喉から出かけた。
けど、彼女はそれを求めてはいないと思った。
いま外に出てしまったら、彼女は一発で殺されてしまうだろうし。
怖いことがたくさんあるだろうから。
「…………最近、こういうのを考えることが多いな」
いつまでも子どものままでは居られない。
僕も自分の道を選ぶ時が近づいてきてるんだろうな。




