520 お楽しみの時間
「では、確かに預かりました。状態を見るに主従契約をされたように思えますが」
「しましたけど……」
そんなことも分かるのか、すごいな。なんで分かるの……?
「あの方たちが死なれた場合はクラディス様に被害は?」
「ありません」
「では、自由に使わせてもらいますね。あと──そこのお二人について」
ついと振り返ると、ユラさんはその目尻の下がった目を嫌そうに細めた。
「私に殺意を向けていますが、本当に良い人なんですか?」
「……!」
日傘を手元でくるくるっと回しながら二人に近づく。彼らは後ずさり。
エコーさんとローゲンさんから目を離さずに、ユラさんは僕の肩に手を乗せた。
「クラディス様に何かした場合、私よりも怖い人が怒りますので。どうぞ、仲良くしてくださいね? ご約束です」
「……分かった」
「ああ」
「ユラさん……やりすぎですよ」
「いいえ。クラディス様はお嬢様の御弟子です。お嬢様は昔から自分のモノを傷つけられたり、奪われたりするのが大嫌いなので。これでも言い足りないほどです」
そう言い、ユラさんは森の奥へ歩いていって転移で姿を消した。
この雰囲気どうしようかなー……二人共ビビっちゃった。
「あ、おにーちゃん。そろそろみんなを引き上げても良い?」
「うん。ごめんね、ずっと任せちゃってて」
「いいよお~。じゃあ戻ってきて~」
アルマの命令でぞろぞろと戻ってきて、僕らを取り囲むみたいな感じになった。
表情がクールなローゲンさんがビビってる。
「アイリス弟、これは……大丈夫なやつか?」
「死霊術だけど、私のだから大丈夫だよ」
「……君の能力なのか」
「不堕姫に転生者に禁術使い……」
「ちなみに記憶の操作についても勉強中です。まだできないけど!」
「記憶操作? それって……禁術の?」
「そう! 記憶消去! 中々上手くいかなくてさー……」
ソバ先生は勉学以外の生き方については教えてくれてないのかな。
自分が、転生者、魔族、禁術の生きにくさ満点オンパレードなの知らないの?
そうほいほいと禁術使います。禁術勉強中ですって言って良いもんじゃないよ。
「いいのか、俺等にそんなの教えて」
「ん? だってお兄ちゃんの友達なんでしょ? 信頼してるから」
なんの気なしの言葉だったのだろう。
けれど、そこには得体の知れない重みがあった。
それを二人も感じ取ったのだろう。
上がり気味だった顎が緩やかに下がった。
「……ふっ。じゃあ、フーシェンの奴らは片付いた訳だし、僕らの方も契約をしておこう」
「契約……?」
「ああ。互いに見られたらマズイのばっかり見ちゃったからさ。それは信頼だけで片がつく話じゃない。から」
フーシェンの人たちにしたように、主従契約を提示する。
【クラディス・ヘイ・アルジェントから主従契約の提案がなされました】
条件:互いの秘密事項の秘匿。
条件を破った場合:気絶。二回目:死亡
秘密事項:称号Ⅰ、種族、禁術、瞳、出身地、スキル。
「どうかな?」
「これは……従魔契約みたいなものか?」
「うん。君たちはこれから僕の従者になるんだ」表情の変化を見逃さない。「君たちのことは信頼している。けど、同じ犯罪者なら……そんな甘い世界じゃないって分かるだろう?」
メガネを外して、小悪魔のような笑みを向けた。
「…………紫の瞳」
「これを受けなかったら?」
「死んでもらおうかなって」
契約の種類は片与ノ契約。魔素の20%の与える契約方法だ。
まぁ、正直、こんな得体の知れない契約なんて飲み込まない。
というか、主従契約をこういう風に使うつもりなんて無かった。
けど、致し方ない。これしか方法がないからな。
「悪いようにはしないとも。伝えた通り、僕は君等二人に手を貸したいだけだ」
「……」
──【契約が承認されました】──
思ったより悩まなかったか。
グンッと魔素が持っていかれた……この感覚、慣れないな……。
「どうした、承認したぞ」
「承認したよ~」
「これでどうなるんだ?」
魔素の抜けた体にムチを打ち、フゥと息を長く吐いた。
「僕のレベルに比例して、君たちは強くなる。少しのステータス上昇があるはずだ」
「おお。そういう恩恵もあるんだな」
「だけど、キミら二人は僕が死ねば一緒に死ぬことになった」
そういうと二人の瞳孔が開いた気がした。
だが、それも一瞬で、上がった口角により押し上げられた。
「ぷふっ、はっはっは! そりゃあ良い」
「元よりこの命なんぞに未練はない。ただあるのは同胞への思いよ」
荒くれ者特有の割り切りの早さは助かるな。
こんな人達と仲良くなる方法なんて分からないから、ちょっと強気なアピールしてるけど、こんなんで良いのかな。
「大丈夫だよ。僕は従者の言うことは聞くから」
そう言いながらメガネをかけ、アンとアルマに目を向ける。
この2人は敵じゃないという意図を含ませた視線を送る。
「じゃあ、二人の同胞について聞き込みをしたいんだけど──」
キラキラとした顔でデイジーが見てくる。
うーん……。
「やっぱり、2日くらい待ってもらって良い?」
「構わないが……どうした?」
「この子と遊びたくて。ごめんね」二人から承諾を取った後に「アン、食料ってあったっけ?」
「取ってこせさましょう。アルマの能力で」
「アンちゃーん? 私の能力を便利なアレだと思ってるでしょ〜?」
「適材適所だろ。お前は人数を稼げれるからな。そら、取ってこい」
「もー」と言いながらもアルマは死霊術で食料集めに行ってくれた。
「じゃあ、デイジー。お楽しみの時間がやってきました!」
僕はデイジーを見上げて、にやりと笑った。
「めいっぱい遊ぼう!!」
『ヤッター!!』
でも、今日だけで結構従者が増えちゃったなー……。
そんな目的じゃなかったんだけど……仕方ないか。




