519 フーシェンの後処理
有名人に合わせてあげましょうなんて言ったが、その前に事後処理がある。
見られたらマズイのを見られすぎた。
「フーシェンの人らはどう?」
「全員気絶させて一箇所にまとめておきました」
「ありがと」
さすがの手際の良さ。
対人戦闘はやっぱりアンに任せるべきだな。後半は僕のサポートに回ろうとしてくれたみたいだし。
「それで、あるじ、そいつらと仲良しになられたのですね」
アンはついと僕の後ろにいるローゲンとエコーを見やる。
「仲良しというか」
「そうだぜ、不堕姫。俺とコイツは仲良しだ」
「仲は悪くないな」
「…………」
距離感の詰め方おかしくないですか。まぁいいけど。
気絶して地面に投げられてるフーシェン達の近くに行って座り込んだ。
「コイツら、殺すのか?」
「殺すと思います?」
「戦闘狂の貴様なら殺すと思う」
「僕は戦闘狂じゃありません」
「なんだ、そうか」
「じゃあどうするの?」
「色々と見られたらマズいのを見られたので、記憶を抹消してやりたいんですが……。あ、エコーさんってそういうのできないですか?」
「ソレ禁術だよ」
「さっきの止まれ! みたいなやつで、忘れろ! っていうのは」
「ボクの魔法をなんだと思ってるんだい……」
なんだ、できないのか。ちょっと期待してたんだけど。
じゃあえーと、種族スキルでそういうの出来るか調べてみるか。
(下位種統治ですよますたー!)
(あ、エリル先生。待ってました)
(呼ばれて飛び出てぱんぱかぱーん!──えーとですね)テンションの振り幅エグいなぁ。(下位種統治は自身の種族より下のものを完全に支配できる。自身よりも高レベル、または耐性が強い者には効きにくいため、弱らせる必要がある……です!)
教本を上からなぞって読んだみたいな解説アリガト。
(ってことは、下位種統治をして記憶の末梢やら喋らせないようにすることが出来るってことかな?)
(そうですね。先程までますたーの記憶を遡ってたんですが、レヴィさんができると言っていた口外禁止の魔法みたいなのができますし、記憶自体を消すことができます。耐性を削る必要が有るんですが、この状況なら行けそうですね)
(前々からそんなのできたっけ……?)
(ますたーが契約をコンプリートしたからですね。ステータスはご覧になってます?)
契約コンプリート……? 全部の契約はやったけど。
(あれがなにか影響してるの?)
(なにかお知らせみたいなの来ませんでした? 亜人の種族値が解放された〜とか)
(いや──)って言ってみたけど、あの時になにか他のボードも表示されていたことを思い出した。(あー、……確認せずに消したのが一つ)
(それですね。従者を増やせばその分亜人は強くなりますけど、その上限があって。アンさんのレベル+契約のコンプリートの結果、そっち方面で上がる種族値がマックスになったようです。こまめにステータスは確認しないとですよ?)
(うぐ……でも、ステータスばっかり見てたら数字にこだわっちゃいそうで)
(それでもです!)
(はい……)
なんだか知らない間に上限に行ってたらしい。
従者を増やしたら増やしただけ無限に強くなる奴がいたら手に負えないもんな。
上限か。だから、急に強くなった気がするのかな。
(ふむ……)
とまれ、帰ったらステータスを確認してみるとして、今はこっちだ。
「じゃあ、統治してみようか。やり方わかんないけど」
種族スキルはパッシブスキルがほとんど。常時発動をしていると言って良い。
だから、使うときは指向性を与えてやると上手く使える。
なんか解説口調になったけど、実際そうなので試しにやってみよう。
「──ここであったこと、見たこと、経験したことを忘れろ。そして、今後僕たちの仲間を傷つけること、傷つけようとすること、しようと画策すること、しようと提案することを禁ずる。破った場合は……自害しろ」
「……」
出来るかどうか分からなかった種族スキルだったけど、言った内容がステータスボードとして出現した。
【──上記の文章を、対象に刻みます。よろしいですか? YES/NO】
「はい」
承諾するとステータスボードが消え、意識を失っているフーシェン達の頭上にそれらのマークが現れた。そして、
【主従契約が受諾されました:主従契約Ⅱ】
現れたのは新たなボード。
「うげ……主従契約になるのか……」
まぁ、下位種統治、統治だもんな。命令を下せる間柄ってことで従者になる訳か。
でもなぁ、フーシェンの人らと主従契約を結ぶのもなぁ。
「嫌なら殺しましょうか?」
「うーん……今更殺すのもなぁって感じ」
「コイツら鑑定士がいる場所に自由に出入りしますよ。その時に見られたらあるじのことを知られてしまいます」
「たしかに、そうか。殺しておいた方がいいのかなー」
それを危惧して、エヴァーチェはロベル王国から引っ越しをしてくれたんだ。
ここでフーシェンを逃がしたらソレが問題になる。
「なぁ、もしかしてアンタ転生者か?」
「だとしたら?」
「いや、色々と納得をしただけ。ボク達は別に転生者のことはどうだって良い。ボク等も同じ犯罪者だしな。まぁ、ボク達よりもヤバイ犯罪者とあえて興奮してる」
「自害しろだなんてエグイことをする」
「殺しにきた相手に慈悲をかけるほど無責任な人間じゃないよ。親に正しく教育されなかったんだから、しちゃダメなことを誰かが教えてあげないと」
「……おっかない」
「その顔で言って良いことじゃあないな」
「おにいちゃんこわすぎ」
「あるじの言葉には痺れるものがある」
『ママ、ボクのことも怒る?』
「ううん。デイジーは特別だから。約束を守ってくれるもんね?」
『うん!』
「おーよしよし、いい子だあ」
デイジーを撫でていると他の人達からの視線が痛かった。
「じゃあ、犯罪者仲間として何か意見はある?」
「そいつ等がフーシェンに戻るのが問題なんだろう? じゃあ、それをしなかったら良い。冒険者ってのはいつ、どこで死んでもおかしくない職業だろう?」
「何か依頼でも受けさせて殺すと?」
「そう。例えば、領土戦争の先遣隊に混ぜさせるとか」
「人目につかない場所で始末する、か。まぁ、なくもないか」
手っ取り早いのはソレだろうけど、何か他に方法があると思うんだよな。
何かいい方法……うーん。
「……ん。いや、いい案がある。人手不足の人にもらってもらうんだ」
たしかあの人、人手が足りてないって言ってたよな。
だったら、もらってもらおう。
ポケットから紙を取り出して、それを宙に描いていく。
「……あ、もしもし、ユラさんですか?」
《あら、こんなに早く連絡が来るなんて》
僕の連絡の相手はユラさん。
──最近、人手が足りずに研究が追いついていないので
って言ってたのを思い出したのだ。
「まだ完成はしてないんですけど、ちょっとご相談がありまして」
《完成していない……? 連絡ができていますが》
「まぁ、それはまた追々で。それで、時間とかいま大丈夫ですか?」
《大丈夫ですよ。どうされましたか?》
そこでユラさんに説明をしていった。
色々な話をしていると、後ろの二人の表情が段々と強張っていっていく。
《なるほど。まさか、わたしの人手不足を解消してくれるとは》
「こちらとしても困っているので、預かってくれると助かります。全員が魔導士ですのでなにかの役には立つかと」
《ちなみに、今やろうとしていることは奴隷化、もしくは人身売買ですが、大丈夫なのですか?》
「大丈夫ですよ。僕は人の命に価値をつけないので、これはただの僕を殺そうとしてきた人たちの後処理です」
《さすがです。では、そちらへ向かいますね》
通信魔法が切られると、森の奥からユラさんが現れた。
座標は通信魔法の転移魔法を使ったのか。会釈をされたので会釈をし返す。
「クラディス様。この二人は?」
「問題児だけど悪い人達じゃないよ」
「そうですか」
というと興味がなくなったのか、視線を外してフーシェンの元へ歩み寄る。
そして、アルマの方を見て首を傾げていた。
「……クラディス様。この方は?」
「僕の妹です。初めてましてでしたっけ?」
「ええ。はじめまして。ユラと申します。クラディス様とは親交があり、仲良くさせてもらっています」
「は、はじめまして」
ユラさんの独特な雰囲気にアルマもたじたじ。
白い手袋に日傘。目がほとんど隠れる前髪と肩よりも下に伸びる紫がかった長髪。
初めて会うタイプの人だから反応に困るのは分かる。
「……やはり、この方……魔族ですか? 独特な気が出ています」
「わ、わたしは、普通の人です!」
「本当ですか?……本当です?」
僕を見られても。アルマと話をしてくださいな。
「不思議な人ですね。では、普通の人として接させていただきます」
視線を切り、アンに頭を下げ、フーシェンの人たちに向けて手を伸ばした。
手を左から右へスライドさせると転移が成功。
……本当にやばいな、この人は。
でも、これでフーシェンの処理は完了だな。




