515 これは俺の闘争だ
「────…………」
やっぱり、コイツ、そうなんだな。
──魔族の闘争本能が、僕の体を侵食しようとしているんだ。
ティナ先生の時に感じたアレと一緒だ。
コイツは、僕の体を乗っ取ろうとしている。
意思はなくとも魔素が──魔族の中で蓄積された本能が──僕に戦えと言っているのだ。
「──《貫け》」
上からエコーの攻撃。
「──終いだ」
下からはローゲンの攻撃。
「……」
落下していく体。
燃えるように熱くなった右腕。
状況は悪い。
コレを打破するには、力の種を使う必要がある────……。
「黙れ」
避けるために僕は衝撃で自分の体を真横に吹き飛ばし、黒い魔素で羽を生やして飛翔した。
「いい加減にしろよ……くそったれ」
変なタイミングで興奮したり。
変なタイミングで高揚感を覚えたり。
魔族の本能だろうが。
亜人の本能だろうが。
いい加減、ソレに体を自由にされるのが腹が立ってたんだ。
「僕の体は僕のものだ……これは俺の──闘争だ」
宙に留まっているエコーを視界の端で捉え、そちらに向けて斬撃を飛ばした。
ハートレイさんの技である、魔素を使わずに使う斬撃。
威力は大したことはないが、数を出しやすい。無視できない攻撃っていうのはそれだけで相手の行動を縛ることが出来る。
案の定、エコーはそれを避けるので、最後の一撃に合わせて羽を羽ばたかせた。
バン、バン──バンッ────バンッ──────!
加速をしたままエコーに短剣で切りかかる。
「──ッ!? はっや──」
エコーも使えるのはユニークスキルだけじゃないらしい。
しっかりと空中戦に対応をしてくるが、その速度は知れている。
魔法使いは近づかれたら何もできないのだ。
その対処をするのが面倒なため、魔法使いというのは近接戦闘職の人間とパーティーを組む。
「《吹き飛べ》」
スキルを使われた瞬間、僕は斜め下に体を落とした。
「それの対象はお前の正面限定だろ」
「ぐっ……!? 《つらぬ──」
「近くに来たら露骨に弱くなるんだな……落ちろ」
そのまま肩に向けて足を振り下ろし、地面に向けて叩き落とした。
下にいるローゲンにキャッチをされるだろう。
「わざわざ下に叩き落としたんだ。ちゃんと連携取って攻撃しろよ──ッ」
そして再び斬撃を加えていく。
空中にある魔素を切ると同時に固めて放出。
イメージとしてはアイスクリーム屋さんがアイスを掬い取る感じ。それを剣でするのだ。野球の玉を打ち返す感覚とは違うから最初は難しかったが、イメージさえつかめば案外出来る。
その斬撃を空中から地面の彼らに向けて放っていると、青白い何かが見えた。
「……おお」
それは盾。
それも普通の盾じゃない。魔法剣と対をなす存在である──魔法盾だ。
黒くて紋様のあるところから左右に均等に青白い盾が放出されている。
ファンタジーというよりかはSFの世界に有りそうな武器だ。
(持っていた四角柱は魔法盾だったのか。なるほど。攻防をソレでまかなってるんだ)
今まで見たことがないタイプの戦闘スタイル。
さすにがタダじゃやられないか。じゃあ、こっちも出そうか。
僕は双剣を擦り合わせ、握る力を強めた。
付与術。魔法攻撃と物理攻撃との合せ技。
「耐えろよ、札付き」
魔素を纏った双剣を振り抜き、魔素と飛ぶ斬撃を合わせる。
魔法盾の原理は魔法剣と同じく、魔素を流し込むと刻印されている魔法が現れるようになっている。だから、一般的に防御魔法に対する攻略法を出せば──貫通する。
「ッ──!?」
ローゲンの持っていた魔法盾を貫き、肩と足を切り傷をつけた。
「行くぞ。そっちが始めた喧嘩だ」
双剣の良いところはその攻撃回数と速度。
それらに全て付与術で魔素を纏わせ、魔法を付けると──僕が思い描いていた戦闘スタイルが出来上がる。
麻央さんの時は魔素の剣でコレをしていたが、普通の剣でも出来るようになった。こっちの方が魔素消費が少なくて良い。
王国を襲撃した魔族の時も近いことをしてたか。まぁ、あの時に付与術が出てきたからそうか。あの時は魔素消費量はエグかったなぁ。白い魔素しか使えなかったから威力も弱かったし。
(ってことは、いくらか、強くはなってるらしい)
羽を解除し、自由落下をしながら双剣での攻撃を繰り出していく。
そして、ローゲンとかちあった。エコーも傷が治っている。
治癒魔法が使えるのか? なにはともあれ──
「死なないようにな」
双剣での物理攻撃。
放出する黒い魔素での物理攻撃。
自分が放つ魔法攻撃。
武器に纏わせた魔素での魔法攻撃。
黒い魔素を消費して発動する魔法攻撃。
「グッ──!?」
ローゲンが展開する魔法盾を貫通する物理魔法攻撃。
エコーが距離を取ろうと「《吹き飛べ》」とスキルを使う。
僕の体が持ち上げられるが、黒い魔素を近くの岩場に引っ掛け、飛ばされる勢いを使って、守られているエコーの首を狙って双剣を振り抜いた。
「なんだよ、ソレッ!」
「同じ技ばかりだからな!! 慣れもする!」
辛うじて避けられたが、反動を消すために反対方向に衝撃を放ち──短剣を投げつけた。
それを避ける二人だったが、その短剣には魔素が繋がっている。
「──無属性爆発」
数ある攻撃の一つだと思ってただ避けた二人の中心で短剣が爆発し、地面に大穴が出来上がった。
衝撃波によって吹き飛んだエコーとローゲンは木に背中からぶつかって苦しそうな声を上げている。
「簡略化したのに魔素の消費量エグい……ハートレイさんの技使えるようになっててよかった」
まだ残ってる。こんなに魔素あったっけ? 黒い魔素を使えるようになったからその分効率も良くなったのかな。
総量も結構増えてる気がする。あれ、結構どころじゃないな。最近なにかしたっけ……。まぁいいか。
(隊員たちの実力も分かったし……そろそろ切り上げるか?)
──殺す、という選択肢を取れるように。
──右手が疼く。
そんな感覚やら感情をため息で吐き出した。
(まぁ、この二人はさすがに殺せない……無力化だな)
無力化、無力化か。
……魔素が余ってるし、試しにやってみてもいいかな。




