513 最近のお兄ちゃん、変だ
あるじに命令されたとあれば、わたし達が出る幕ではない。
それに……あんなに楽しそうに笑ってらっしゃる。
わたしの試みはまた今度にしておこう。
「おい、アルマ。わたしたちはフーシェンの漏れがないかの確認だ」
「ぶぅ」
「なんだその頬は、駄肉が詰まってるのか」
「違うもん~。……おにーちゃん、私が戦うのが見たいって言ってたのにさ~」
「仕方ないだろう。あるじもなにかお考えのようだし」
「うぐぅ……ふーんだ! いいもーん!」
アルマは落下する体勢を取る。何か策でもあるのか?
まぁ、死んでも死なないのだ。心配するだけ無駄か。
わたしはわたしで落ちる寸前に下に大砲を撃てば着地はできるか。
「でも、お兄ちゃんの顔、嬉しそうだけど、ちょっと変だ」
ふ、と隣で落下してるアルマを見やると、あるじの姿を見て目を細めていた。
わたしもそのお姿を見て、たしかに、と思った。
あるじはよく笑うお方だ。でも、あの笑みは少し……。
「……不思議だよね、お兄ちゃんってさ」
「何がだ?」
「ここ最近さ、別人に変わったみたい」
ピクッと瞼が痙攣した。
(別人に変わった?)
アイリスという別の姿になることはあるが……そのことではないのだろう。
妹だからこそ分かる変化なのだろうか。
いや、わたしだってあるじとは長いお付き合いなのだ。
コイツが分かって、わたしが分からない訳がない。
「アンちゃんもそう思わない?」
「うんー…………うん」
「だよね! やっぱりそうだよね!」
どこがどう変わったのだろうか。
あるじが変わったところといえば……少し積極性が出てきた気はする。
以前のあるじは優しいが、慎重すぎるところがあった。でも、やるときはやるし、かっこいいところもある。
では最近のあるじは?
(…………時折、思い悩むような顔をする回数が多くなった気はする)
それ以外にはあるか?
「お兄ちゃんは腰抜けなのだ」
「貴様、あるじに向かって……」
「そういう意味じゃなくてさ。優しくて、かっこよくて、強かったんだけど……あんな顔で笑うことはなかったんだ」
と悠長に言ってるアルマはそのまま地面に「ブゲェッ!?」と落下していた。
わたしは予定通り、大砲を打ち込んでふわっと着地。
足首や首があらぬ方向に曲がっていたアルマはギュルンと姿を元に戻して、ペッと血を吐いていた。化け物め。
「あるじはたくさんの敵と戦ってきた。それで心境に変化でもあったんじゃないか?」
「うん……そうだと思うけどさ」
「なんだ」
「……優しいお兄ちゃんがどこかに行っちゃう気がしてさ。ちょっと、さみしいんだ」
「……」
「なにかした方がいいのかな」
アルマの言いたいことは分かるような気がした。
でも、それが最適解かと言われると分からない。
あるじが決めることで、わたしはそれに従うまで。
……さみしい、か。
「お前はそのままで良いんじゃないか」
「え?」
「あるじは大勢の命を預かってる。変わらないといけない部分もあるのだと思う。わたしは馬鹿だから、なにがどうとかは分からない」
けれど。
「そういうのをお前やわたしに背負いこませたくないから、あるじは頑張ってくれてるのだろう、と思う」
「なにそれ」
「直接聞いた訳ではないから分からないがな。でも、あるじは前の世界でもそうだったのだろう」
「……1人で背負い込む人だった」
「だったら、お前はそのままで行けば」
「でも、それでお兄ちゃんは潰れちゃった」
アルマは体についていた砂を払う。
払い残しはアメと呼ばれていた魔族がパッパッと払っている。
「……まぁ、どうにかしたいと思ったとしても、貴様はレベルが足りん。下位魔族なんぞ、役に立たん」
「むぅ…………強くなるためには、えーと、どうしたらいいのかな……」
「自分で考えろ。貴様のそういう頼りグセがあるじを背負いこませる性格にしたんじゃないか?」
「ぐぬ……なんとも言えない」
コイツのいいところは素直なところ。
コイツの悪いところは子どもっぽいところ。
あるじに頼りっぱなしで生きてきた弊害だろうな。まぁ、あるじと一緒に暮らしていたらダメ人間になってしまいそうなのは分かる。
わたしよりも遅く寝て、早く起きて、家のことは全部やってくださる。
……あれ、もしかして、わたしももしかしてダメ人間に……。
い、いや、そんなことはないはず。
(…………)
切り替えよう。
「とりあえずは目先の仕事を全うしろ。この森に誰も近づけさせるな、そして誰も出すな。お前のその技なら可能だろう」
「それくらい簡単さ!! 適材適所! だね!」
切り替えの早さだけは一丁前だな、ほんとうに。
わたしも見習うべきだな。
「さて、面倒事はアイツにまかせておいて」
あるじのサポートをしておこうか。必要はないかもしれないがな。




