512 二人の札付き
なんでこの人らがこんなところに……??
顔を隠してるってことは知られたら不味いことなんだろうけど。
「どうしたの?」
「さあ?」
首をかしげてるのはエコーさん。
【紫蘭之団】でアイリスの部下に当たる人だ。
まぁ、部下だとは思ってはないんだけど、一応、僕が隊長だから……。
前に見たときのレベルはエコーさんは622。隣のローゲンさんは597。
今は……ちょっと上がってるか。
▶名前:エコー
▶レベル:624
▶種族:分血の森守人
▶名前:ローゲン
▶レベル:602
▶種族:暗黒森の番人
「──それにしてもさあ!」
ステータスボード越しに近づいてきて、うぉ、と思わず身を引いた。
「キミ強いね! 何してる人?」
「ぼ、冒険者を……」
「おー! 冒険者! ランクは……白金等級かあ」
「白金等級なのによくそこまで戦えるものだ」
「ねー。僕らが冒険者してたときより強いや」
普通に話をする二人を警戒するように半歩後ろに下がった。
あの時、アイリスとして話した二人の印象とは異なる。
敵意はそこまで感じられないが、この二人がフーシェンと繋がっているなら戦いは避けられない。
「警戒してるな。まぁ、当然のことだろう」
「まーねー。こっちは戦うつもりなんてないんだけどねー。情報さえ持ってたらの話だけど」
情報……?
「君さ。分血の森守人と暗黒森の番人の知り合いっている? いたら紹介して欲しいんだよねー」
「ハーフエルフとダークエルフの知り合いですか?」
「そー。誰かいない?」
知り合いにそんな人いたか?
分血の森守人……いなかった気がする。
そもそも交流関係が少ないのだ。ティナ先生は……小人か。
暗黒森の番人で知ってるのはログリオさんと麻央さんだけど、会わせるほどの関係はないし。
「分血の暗黒森人ならいますけど」
「分血の暗黒森人? 珍しいな」
「会ってみる?」
「そうだな」
「それはどこにいるやつだ? すぐ会えるか?」
「まぁ、すぐに。──アン」
「はい、ここに」
目の前に現れたアンを見て、2人は少し驚いていた。
「分血の暗黒森人のアンです」
「ほお。久しい顔だな」
「闘技場の子だよね。不堕姫」
「ああ」
そういうと少し渋そうな顔を浮かべて話し込んでる。
アンじゃあ不満っていうのか。ちょっとこっちおいで。アルマも。
三人で固まってジィと睨んでいると、話しが終わったらしく。
「不堕姫。お前、分血の森守人と暗黒森の番人がどこにいるかは知らないか?」
「知らん」
「やっぱりそうだよなぁ~……」
「では、話し合いは終わりか」
「だね~。それに、不堕姫がいるってことは──そこのメガネちゃんはレコードホルダーでしょ?」
バチッと目が合った。
その時に確信をした。
(珍しい二人組だと思ってたけど……そういうことか)
──ダダ漏れになった、敵意。
「じゃあ、そいつを殺せば多少なりとも有名にはなれるか」
「さっきのヤツは逃がしたから、ここにいるってことは伝わってるだろうしね」
「じゃあ、遠慮なく殺せるな」
僕がデュアラル王国のギルドで見た、指名手配犯の中にいたダークエルフとハーフエルフの札付き。
力狂ノ重装騎士。懸賞金、1000万ウォル
忿怒ノ吟遊詩人。懸賞金、1340万ウォル
あれが、この人たちだったのだ。
二人組で行動をしていて種族も書かれていた情報通りの見た目。
ローゲンは重装備に身を包み、明らかに前衛といった姿。
エコーは軽装とまではいかない民族衣装のような服を着ている。
そして、姿を隠してわざと人を逃がし、有名になろうとしている。
懸賞金も納得の圧が感じられる。
「ごめんねー、なんの恨みもないけどさあ」
エコーはそう言いながら、舌をペロッと出した。
「──《吹き飛べ》」
「──二人共! 全力防御!」
咄嗟に身構えると、防御なんてお構いなしに体が持ち上がっていく。
最初はつま先が浮き、足全体が浮き、次の瞬間には腹を下から殴られたほどの衝撃が加わった。
「ぐっ──!!?」
先程のフーシェンから受けた攻撃なんか比べ物にならないほどの衝撃が僕たち三人の体を持ち上げた。
その衝撃により、僕たちの体は遥か上空に浮かぶ。
──明確な敵意。殺意。
でも、悪い気はしなかった。
「そうか、そうか……そうきたか……!」
なんのめぐり合わせだろうか。
こんな場所で僕の──アイリスの隊員達と出会うなんて。
それも、仲良くなれなさそうだった二人と!
あのお団子先輩は言っていた。
隊員たちとは仲良くしておけよ、と。
だったら、そうだよな。仲良くしておかないとダメだよな!
僕は空中で姿勢を整える。口角は緩やかに上がっていた。
「ハッハ!」
追撃を図ろうとするエコー、それを護るローゲン。
いいコンビだ。
札付きの二人組。当初の予想では転生者かと思ってたけど、そうじゃなかった。
だけど、部下だ。仲間となる予定の二人組だ。
だったら戦う理由なんてない。
ない、けど!
「お前らが札付きなら、丁度いいッ!!」
部隊長として2人の実力も見ておきたかった。
愛想が悪い部下の実力を確かめるにはいい機会だ。
「アンッ! 佳奈! 手は出さないでいいからね!!」
なんでこんなにテンションが上がってるんだろう。
フーシェンと戦ったときよりも、体がワクワクしているのが分かる。
腹の底からグツグツと活力が生まれてくる感覚。
玩具を買ってもらい、車の中でどうやって遊ぼうかとワクワクしてるあの感覚。
いろいろなことを考えなくて良くて、自分の本気を出せる戦い。
──殺せる用意をしておいてくださいね。
殺すことはできないだろうけど、ちょっとくらいなら良いよな。
だって、札付きだし、殺そうとしてきてるんだからさ。
良いよな、良いよね。良いはずだよ。
じゃあ、やろう。
「あの2人は僕がぶっ飛ばすから──ッ!」
ほんのりと右手が熱くなる感覚を残して、僕は短剣を取り出した。




