511 カッコいいのは真似をしたい
時間を稼いでくれたおかげで場所の把握ができた。
その場所を地上で接敵しているアンに伝えるためには──
ポケットの中に入れておいた紙を出してみる。
(魔素消費は大きいけど)
魔法陣の中でユラさん宛だった箇所を、アンへと指定する。
指定する方法は簡単だ。冬山のみんなと連絡をするようなやり方ですれば良い。
アンとは主従契約を結んでるからそっちでも出来るんだけど、せっかくならこっちを試してみたい。
目の前に魔法陣を展開し、魔素を込める。
「──アン」
《わっ、びっくりしました! 声が聞こえます!》
うん、思ったよりも魔素が持っていかれるな。これは早めに情報共有をしなければ。
「敵は全員で17人。4人ずつ固まってて、1人は偵察。場所はさっきまで僕らがいたところから北に──」
《それは今倒したやつだと思います!》
「じゃあ、そのまま東に進んでもらえば敵とかち合うからよろしくね」
アンの魔素を感じながらの指示。一瞬、東ってどっちだっけと悩んでるのが愛らしい。咄嗟に言われても分からないよね、そこは後々修正しておかないと。
「おにーちゃん、私はなにをしたら」
「戦わなくて良いよ。この人ら、僕たちをずっと着けてきてた人らだし」
「着けてきてた?」
「うん」
《フーシェンですね。入墨がある》
アンの声が聞こえる魔法陣をチョイチョイと指す。
「ふーしぇん……いれずみ……」
アルマはフーシェンのことを知らない気がしたけど、今は省こう。
なんとなく雰囲気でわかってもらいたい。
「まぁ、ちょっと面倒な人たち。倒しても誰も文句は言ってこないよ」
ロバート邸の時に本格的に開始するって言ってたし、この街にやってきた辺りからなんか着けられてるなーとは思ってた。
麻央さんが命を懸けてまで「お前たちの都合の良い鉾になる」と言った側から、彼女の大事な娘を殺そうとしてくる……人じゃねぇな。
「それに────僕のほうが魔法の扱いは上手そうだ」
口端に笑みを湛えながら僕はアルマに魔素を繋いだまま外に出ていった。
一歩、二歩、三歩、と。宙を踏みながら、目下の風景を視界に収める。
「え、お兄ちゃんッ!?」
当然、馬鹿みたいに出てきた僕に向けて魔法が放たれた。
格好の的だ。
それを、アイツの技を参考にして作った魔法を放ってみることにした。
「還れ」
放たれていた魔法が僕に触れる寸前で止まり、そのまま術者に跳ね返っていく。
どれも単調な魔法だからこそ出来る芸当だけどな。アイツの使う魔法の方がもっと精度が高かった。
──ケトスの使う写ス者っていう魔法の劣化版。
ケトスの部屋でアイリスの姿になる練習の時に、たまたま机の上に置かれてたのを見ちゃったんだよな。
写ス者はケトスが作ったオリジナルの戦闘補助魔法だ。敵の攻撃を跳ね返し、自分と同じ分身体を作り出す。それが、どんな原理で反射して、どんな原理で分身体を作り出すのかが紙にはなぐり書きにされてあった。
(まだ、ケトスほどの実力はないけど。これだけでも十分だろう)
カッコよかったから真似してみたかったってのがある。
本人に言うとちょっとニヤニヤされそうだから言わないけどさ。
「で、追撃だ」
転移魔法を学習したおかげで座標指定がしやすくなってるんだ。
「──追撃した魔法の座標を指定」
久々にやるな、これ。
地面に網目が広がっていくこの感覚。
アルマの死靈がいる場所の微量な魔素に照準を合わせる。
「座標指定鉄槍・渦巻く水檻」
……うん。
体を鉄の槍で拘束。そして、魔法詠唱をさせないように水で覆った。
唱えなくても魔法を出せるけど、それよりも先に濃い魔素を混ぜた水の中で魔素操作がうまくいくとも思えないし。下手したら魔障になっちゃうかもしれないけど……まぁ、それはそれで。
「……とりあえずは、無力化完了だ」
魔素の糸を切って、僕とアルマはゆっくりと地面に降りていく。
直接フーシェンを見ることはなかったけど、ゆっくり事情を聞いていけばいいか。
《あるじの魔法ですか!?》
「そうだねー。場所が分かったから拘束させてもらった」
最近は近接戦闘ばっかり頑張ってたから、こうやって魔法使うの新鮮でいいかも。
「じゃあ、あとの処理なんだけど──」
──ピリッ。
「!」
これ、この気配……。
「アン、警戒。佳奈。護りを固めて」
魔素を隠さずに堂々と歩いてきてる。
それに、この魔素の量。とんでもなく強い。
森の奥から足音が聞こえてくる。
2つ。重装備1人、軽装1人。二人組か?
フーシェン……? いや、この感じは……。
「おいおい、警戒し過ぎだぞ」
まだ姿が見えていないというのに、敵意を感じ取ったのか。
感知系の能力も高い。こっちが気づいていることに気づいてる。
それで、これほど堂々とやってくるってことは……負けるとは微塵にも思わないほどの自信、経験があるということ。
そして、その二人は姿を表した。
「すげぇな、お前、同業者か?」
黒い装束に身を包んでいる巨漢。
「やるねー。ちょっと見てたよ~?」
翠と白色の装束に身を包んでいる細身の男性。
二人共顔が見えないようにしていて、その素性が分からないようになってる。
──でも、鑑定はソレを貫通するのだ。
「げっ」
だから、僕は警戒をしていた紐が一瞬だけ緩んでしまった。
(……この2人、【紫蘭之団】の……)
そう、この2人は僕が知っている二人組。
愛想が悪い部下である、エコーさんとローゲンさんだった。




