510 質と量
質より量とか、量より質とか、色々な論争があるけど個人的には質の方が好きだ。
完璧な上級魔法をうとうとすると魔素の消費量が激しくて困る。
けど、初級魔法の衝撃や──火槍なら。
「多重詠唱・火槍」
上質な魔法を大量に出すことができる。 僕が初級魔法が好きな理由がコレだ。
僕らの周りに出した火槍の数はおよそ100。それらを待機させ、次点の衝撃を放つ瞬間に同時に放つ。
質より量。量より質じゃなく。
──【質】と【量】
「佳奈。回り込まれるのだけ注意して」
「なにィ!? 聞こえないよっ!?」
「回り込まれるの注意しろとあるじは言った!」
「あ、そういったんだ! 了解! オッケー!」
これだけうるさいと聞こえないか、ごめん。
アンも長耳を抑えながらなのにごめんね。
「じゃあ、アンは温存しておいて。ちょっと楽しくなってきた」
「分かりました」
魔素の消費は少ないけど、いつまで続くんだろうかこの攻撃は。
派手なだけで、なんの脈絡もない。
でも、魔素感知に反応はないしなー。少なくとも1km以内にはいない、と。
コレ以上広げるとそっちに集中力割かれるけど……。
「あ! そうだ! 佳奈!」
「呼んだ!?」
「外の子たちでさ、これを使ってる人を探してきてよ。アメさんとボルル君はここに残してさ」
「分かったー! 多分! 聞こえた!」親指と人指し指で輪っかを作ってOKサイン。
よし、これで捕まえることができたら御の字だし、無理でも方角がわかれば良い。
「──っと」
ピリッと魔素感知。背後に一気に魔素が横方向に広がる。
──横目で確認すると、魔法陣が宙を覆っている。
「少なくとも10人以上か」
こっちの対応の仕方を真似してきたか。
さすがフーシェン。戦い慣れてるな。じゃあ、同量の魔法で打ち返そうか。
魔法陣を目視し──口角を上げた。
全部、知ってる魔法じゃないか。
「おにーちゃん! これ! たくさんいるよおお!」
「おっけー! じゃあ──」あちらの斉射に併せて、こっちは無詠唱でかち合わせた。「その場所に待機させておいて」
魔素感知は魔法感知の上位スキルだ。だから、どんな魔法なのかを知っていたらソレに合わせることが出来る。
無属性魔法と風属性魔法の衝撃と風刃には、同じ魔法を。
火属性魔法の火槍には、水属性の水槍を。
雷属性魔法の電撃には、土属性の土壁を。
水と土に関しては拘束系魔法が多いからそんなに無いな。
全面に土壁を張り、雷を通さないようにしつつ、相性の良い魔法を打ち返す。
単純なことだ。何も難しいことはない。
こんな魔法を使える人達なら少なくとも金等級以上。下手したら白金等級か。
あのパーティーに参加してる人とか来てるのかな。
スケアとか。そのお兄さんとか。でも、どうみても物理系はいなさそうだよな。あっちはもしかして、この魔法だけで片付くと思っているみたいだ。
(どういう見込みでこの人たちを送ってきたんだろう)
確かに尾行のやり方は上手かったし、技術もすごい。
けど、一味足りない気がする。
いや……これが普通の対応なのかもしれない。
ロバートの中で僕とアンは、おそらく今も銀等級の冒険者か昇級試験を終えて金等級になり立ての冒険者くらいの認識なのだろう。
ソレに対して同じ等級の冒険者を十数人用意する。別にこっちを見誤ってる訳じゃなさそうだ。むしろ、過剰なほど戦力を用意していると言って良い。
(けど……なんだか、単調でつまらない戦闘だ)
フーシェンは中間層が多い血盟だ。
人数が多いが、翠金等級以上の冒険者は極端に数が少ない。
理由はまぁ、人格的な問題やら何やらで昇級試験で弾かれるから。
だから、翠金等級以上となると組合側も認められない。中にはナクソンや他の伝手を使って上げた人もいるんだろうけど、それが毎回うまく行くとは思えない。
等級が上がらなければ、良い依頼も受けられない。
良い依頼を受けなければ、実力も上がらない。
要するに、この戦闘はこれ以上の変化がない。
(……長引くなコレ)
特別な展開があるかと思っていたが、本当に魔法を打ち込んでくるだけ。
素行の悪い人ほど、基礎スペックの高さに甘んじてる気がするんだよな。
基礎スペックが高いから序盤は調子に乗れてたけど、後半に尻すぼみになっていく感じ。
腕を磨こうとしないから、技のゴリ押しで解決をしようとする。
確かにこの技もすごいけど……まぁ、これ以上考えても無駄か。
「こっちもそろそろ動くかな」
「ですね」
「任せて良い?」
「お任せあれ」というとアンはその場から消えた。倒しに行ってくれたようだ。
頭が冷静だ。
最近色々なことがおきたから、久々の純粋な戦闘だけど日常の一部になってる。
僕って戦うのに抵抗がなくなってきたんだな。
エリルがいたら「よっ、転生者」って言ってきそう。やだやだ。
「まあ、いいか。──ちょっと、やってみたいことがあるし」
勉強はしたけど使い道が分からなかった魔法がたくさんある。
冬山は転移魔法ばっかり勉強してたから、その過程で偶然できた魔法もあるし。
相手が殺しに来てるなら、こっちもソレで良いよな。
「じゃあ、佳奈。手を」
「うぇ?」
おずおずと手を握られたから、僕は魔法での迎撃を止めた。
当然、僕が止まってもあっちが止まる訳がない。
僕たちのいた場所に向けて襲いかかる地面の津波と大量の魔法。
「え、おにーちゃんなにを──」
それが当たる寸前で、僕は覚えたての魔法の名を口にした。
「飛行」
「ぐぇええええええっ!?」
ぐんっと体が空に舞い上がった。
今までの不安定さなんてない。これは、正真正銘の空中浮遊なのだ。
飛行。本来なら中級魔導書に書かれてたことなんだけど、どうもわからないところが多かったから後回しにしてたんだ。
渡黒鴉との戦いの後に勉強した方がいいなって思ったから、一生懸命やったんだよな。
中学校で習うけど未だに良くわからない分野を勉強し直すみたいで楽しかった。
「これっ、えっ、浮かんでっ!」
「佳奈。一瞬でいいから僕を守って。あとお友達の魔素を濃くしてもらっていいかな」
うん──と言ってくれると信じていたので、先に魔素感知に集中を注ぐ。
1km、いやもっとか、2km、3km……。
魔法使いで魔素を隠されたら探すのが面倒だからな。レヴィさんほどの完璧な魔法を使う人がいないとも限らないし。
「……うん」
なるほど偵察は1人。その人が攻撃の指示をしていたのか。
「ってことは──」
目下の森林地帯の至る所が発光した。
上空を飛んでいる僕とアルマに向けられた攻撃だ。
場所を悟られぬように小細工まで施されてる。
(まだ、場所を探られていないと思っているらしい)
座標を指定してからの魔法なんか連発してしまったら消耗が激しい。だから、命中精度なんてのは犠牲にしているのだろう。……まぁ、静止している敵に向けて外すような馬鹿はいないだろうけどさ。
各々の魔法で狙われていたが、手を握っていたアルマの力がこもるのを感じた。
「ボルル君ッ!」
名前が呼ばれると僕とアルマの背後から大きな骨が現れ、肋骨が僕たちを覆った。
あのときのどんな攻撃をしても破れなかったボルル君の。
手を握っているアルマが自慢げにニコリと笑った。
「ありがと。助かったよ──じゃあ、反撃しよっか」




