509 売られた喧嘩を買えるくらいには強くなった
武冠者。
ノアや王都に魔族を送り込んできた魔司者とは異なる武闘派の上位魔族のことだ。
言ってしまえば、魔司者が賢者で、武冠者が勇者だ。
もちろん、彼らも称号Ⅰ持ちになる。
「で、なんでそんなスゴイのが一緒にいるの?」
「わかんない。1回、本気で怒った時に契約してくれたんだ」
「へー……」
なんで?
「それでめちゃめちゃ強くてね」
まぁ、強いだろうけどさ。
アルマは魔族だけど多分下位魔族……だよな?
「失礼するね、ちょっと」
人を鑑定するのはあまり好きじゃないけど……。
名前:アルマ・ハイドレンジ
レベル:312
「うん。レベルがあの時からそんなに変わってはないね。312か」
「おにーちゃんとアンちゃんは?」
「わたしはー……553だな」
「僕は……ああ、ちょうど500だね」
もう少しレベルが上がってるものかと思ってたけど、そこまでの変化はないか。
でも、僕はレベルはただの数字だっていうことも知っている。
……なんて思ってもちょっと凹む部分はあるけどさー。ムロさんと大体300くらい離れてるのかぁ。
「あれ、アンちゃんの方が高いんだ。おにーちゃんも頑張らないとだね~」
「お前が一番頑張れ雑魚」
(このアメっていう魔族のレベルは……見ることができるか……?)
▶名前:天穿
▶レベル:832(死霊術により術者のレベルに依存)-312
▶種族:魔族
▶称号
――称号Ⅰ:武冠者
――称号Ⅱ:首切り 物理攻撃無効 魔法攻撃無効 精神攻撃無効 ウェポンマスター スロースターター 服従無効 魔族殺し 人間殺し
「ぶふっ……!!!?」
やばっ、むせた。
ちょっ……とんでもない化け物だぞ、コレッ……!!?
「大丈夫ですか!?」
「げほっ……ぶっ……う、うん……ちょっと……」
久々にステータスでびっくりした……っていうか、ここまでびっくりしたのは初めてかも。なんだこのステータス……おかしいだろ。
物理攻撃無効、魔法攻撃無効、精神攻撃無効って……。
こういうのをチートって言うんだろうなぁ。
「あー、やだやだ。僕が弱いことを再確認しちゃった、あーあー」
「どうしたの? もしかしてアメちゃんのステータスみた?」
「まーね。ちょっと、強すぎるから」
こんなヤバイのを世に出していいのか……?
ってか、こんな強いのと戦いながら皆を逃がした覇軍の皆さんってめちゃめちゃ強いな。
こんなのがたくさん出てきて一斉に襲われて、理由を調べたら転生者が悪いって、そりゃあブチギレる。
「逆にこんな強い人でも死んじゃったんだ」
そう思うと、上には上がいるんだなと思う。
ヴェールを被っているような姿のアメに僕は手を伸ばすと、その大きな手を重ねてくれた。
「喋ることはない……か」
「ボルル君は喋るんだけどねー……うーん。そこらの仕組みもちょっと」
「そっか。まぁ、今はいいや。妹をよろしくね、アメさん」
言葉は伝わっているらしく、頷かれたような気がした。
上位魔族って聞くともっと我が強いようなイメージがあったけど、そこはさすがに死霊か。
(なんでアルマに従ってくれてるんだろう)
この世界の上位種と下位種の差は圧倒的であり、埋めることなどできやしない。
だから、この子は不思議だ。まるでアルマが上位種であると思っているような……。
そもそも、アルマって理外者という特殊な個体だと聞く。
魔族という枠組みの中でも、吸血鬼や龍種みたいな種族のうちの一つと認識していいのかしら。
(上位種への昇華条件がレベルなら、アルマのレベルは300と少し。まだまだ上がる気配はない)
うーん。分からないことが多いな。
あの時、ノアも不思議そうな感じにしてたし、魔族側からしても不思議な存在なんだろうな。
「…………んっ」
そんなことを思っていると、アルマが小さく反応をして振り返った。
「どうしたの?」
「……一人やられた……? いや、二人、三人……」
やられた?
魔素感知の範囲には誰もいない。
これでもかなり広範囲を感知をしてたはずなんだけど……。
「モンスター?」
「ん、わかんない。けど、ちょっと離れた所で──」
その時、足の裏からピリピリという感覚が走ってきた。
地面が──揺れてる……?
そして、肌に突き刺さったのは敵意。
「ああ」なんだ、ようやくか。「ふたりとも、僕の後ろに──」
アンとアルマを背中に後ろにおいて、一瞬気配がした方へ手を向ける。
すると、轟音が響き渡った。
平面から立体へ。
目の前にあった木々が上に地面ごと持ち上げられていく。
(まるで津波だな)
「ようやく来ましたか。遅かったですね」
「ねー。こそこそなにか準備をしてたのかもしれない」
「じゃあ、久々の喧嘩でもしましょうか」
「喧嘩かー、物騒だねー」
「あるじ、にやけてますよ?」
「いやいや、アンさんだって」
まぁ、これで殺すつもりはないんだろうな。
じゃあ、まずは視界を確保しようか。
「衝撃──」
隆起する地面に壁を張ったところで意味はない。
効果的なのは、それらを消し去ることだ。
よって、シンプルな物量勝負に出ることにした。
「──多重詠唱」
空間一杯に広がる小さな魔法陣から斉射を命じる。
「でも、喧嘩なら買わなきゃね」
もっと魔法を展開しろ。
もっと、もっと。物量で攻めきれ。
覆いかぶさる地面の大津波に僕の魔法が突き刺さっていく。
「売られた喧嘩を買えるくらいの実力にはなったからさ」
「返り討ちにしてやりましょう」
僕とアンは悪そうに笑って、攻撃を仕掛けることにした。




