507 二人の札付き
ハートレイ公爵領の南西・ペネロ王国領の北部に位置する森林地帯。
クラカタの森と呼ばれ、迷宮を有さないことから駆け出しの冒険者や鍛冶師だけでも比較的安全に立ち入れる場所と言われている。
森林と鉱山が融合をしていて、資源が豊富なのに弱いモンスターばかりだからペネロ王国は重宝をしている土地だ。
そんな土地への出入りを鍛冶師の街に許可をすることで「武器の調達」をしている訳なのだがそれはまた別の話。
基本的に鍛冶の街にいる鍛冶師たちは「自分で材料を取ってこい」というスタンスのため、足りない金属鉱石はクラカタの森で調達をしなければならない。
そして、街で装備を作る者たちはカネに余裕があり、腕が立つものが多い。要するに名のある冒険者や傭兵達が多いという訳だ。
そんな彼らは当然、装備を新調するため、代用品やピッケルだけで森に訪れる。
名を挙げたいものにとっては格好の的だ。
──森の奥。
「なんなんだよお前らっ……!」
触れれば傷になりそうなほど鋭利な山肌が見え、足場も悪いその場所で男は代用品の武器を手に戦っていた。
金属の音が悲しく反響し、親指ほどの大きさの汗が地面に跡を作る。
荒い呼吸を肩で繰り返すが、その疲労は確実に蓄積をしていっている。
「なんだ、俺等を殺しに来た訳じゃあないのか」
「ねー、そうかと思っちゃった」
「俺等は思ったより有名じゃないらしい」
「じゃあ、もっと頑張らなきゃだね」
顔を隠している2人に追い詰められ、仲間は既に気を失わされている。
右の男は大きな四角の柱を扱う巨漢で彼の一撃で仲間の多くがやられてしまった。
左の男は武器もなにも持っておらず、巨漢の後ろで戦いを眺めているだけ。
「ふざけるなよ──ッ!」
男は代用品の剣を振りかざして走り出した。
澱み無く踏み出された足。その歩法で彼が実力者であることは見て取れる。
「俺はっ! 白金等級で、準上位血盟の──」
その攻撃に合わせて動く巨漢の男だったが、ピタ、と動きを止められた。
男のスキルに依るものだ。
使える回数は限られているものの、使うタイミングさえ間違わなければ最強クラスの魔法の一つ。
男が白金等級にまで上り詰め、準上位血盟の一員という実力者になることができた技だ。
巨漢は硬い。ならば、今はその後ろの何も持っていない男を狙った方が良い。
──と考えているのだろう。
巨漢は動かぬ体を興味深そうに確かめつつ、横に並んだ男に声をかけた。
「おい、殺すなよ」
「ああ。《近寄るな》」
「──ッ!?」
声が聞こえると、武器を握っていた男の体を浮遊感が包みこんだ。
まるで薄い膜が下からぶつかってくるような圧力が加わり、コンマ数秒事に肥大していくソレに男は体が持ち上げられたのだ。
「なんっ、だコレ──ッ!!?」
浮遊感は斬り伏せることができず、みるみる内に膨らんでいく。
足も地面につかず、踏ん張りが効かない体。
彼に残された攻撃手段は武器を投げることしかなかった。
体を回転させながら持っていた代用品の武器を投げつける。
武器も何も持たぬ男にソレが触れる瞬間。
「──《飛んでいくと良い》」
目の前の空間に粒子が広がって、上に持ち上がっていく。
それは岩であり、石であり、砂であり、雨水であり、空気の粒だった。その中に投げつけたばかりの剣も浮かんでいた。
一秒にも満たないそれが記憶に刻みつけられたのは、それが酷く美しく思えたからだろう。
そして、雨が降り続ける夜の一瞬を切り抜いたようなその光景は、すぐさま男の体を運ぶ衝撃へと姿を変えた。
「ぶっ──」
不安定だった体へ加わる横への衝撃波。
木々を木端へと変え、鋭利だった山肌すらを削り取っていく。
周囲の空間ごと抉って飛ばすほどの技に巻き込まれた男の体は、遥か後方の大岩に体を打ちつけられ、気を失ってしまった。
同時、巨漢を止めていた魔法が解けた。
「面白い技だったな。動きを止める魔法か」
と塵を払いながら呟くと横からしかめっ面の男が割り込んできた。
「あんなのボクでも出来るよ」
「なんで対抗心燃やしてるんだよ」
「あっちを褒めるからだよ」
「だからやりすぎたのか」
「殺してはないって。大丈夫だよ」
「どーだか」
「生かしておかないと、ボクらを有名人にしてくれないからね。生き証人は多いほうが良い」
なんて言いながら吹き飛んでいった男を睨み──顔は特殊加工のカーテンによって遮られているが──巨漢の男に担がれた。
「うお」
「行くぞ。どうせ放っておいても殺されはしないだろ」
「おろせよーーーー」
「歩くのが遅いからな」
だらんと下がる腕で巨漢のオトコのお尻をぺちぺちと叩くと、バチンッとやり返されて「ヒギィ!?」と無様な声を上げた。
彼らは鍛冶の街で噂をされていていた強者を狙う者達。
そして、同時に札付きの賞金首でもある。
力狂ノ重装騎士:脅威度A──懸賞金、1000万ウォル
忿怒ノ吟遊詩人:脅威度A+──懸賞金、1340万ウォル
「ん? あ、また誰か森に入ってきたみたいだよ」
「分かった」
本日は獲物が大量だね、なんて会話をしながら彼らは森の入口に向かっていった。




