505 転生者の同盟
「なかま……ですか?」
「ああ。仲間だ。あの時に言ったろ? お前には期待をしてんだって」
「あ」
あの日、あの時、湖畔の時の記憶。
僕は最弱から最強になると言った。
そんな夢物語のような言葉をムロさんは受け止めてくれた。
──お前が言った夢は大体の大人が聞けば鼻で笑って流すことだ。だがな、俺はお前に期待してんだ──
あの時から、この人は何も変わっていない。
ムロさんは……僕に期待をしてくれているのだ。
「あと、付け加えていいなら、もう世話をしなくても良くなったからだな」
「……?」
「クラディスはここ最近死んではいないってことかな?」
「ああ。本当にクラディスはすぐに死ぬからな~。何回繰り返したか分からねぇ。バレねぇようにするの大変だったんだぜ?」
「え、ぼく……そんなに死んで……?」
「……数え切れないほど」
「ええええっ……!!」
たしかに僕、なんで生きてるんだろうって思う場面は多かった。
最初のソフィアウルフに襲われた時から、訓練中とかは特に。
僕、めっちゃ運良いじゃん! と思ってたけど、さすがにそうか……。
「……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「なに謝ってんだ?」
「いえ、だって、何回も死んだってことはその度に時間を戻して調整やらなにやらとか……ほんと、すみませんでした」
そう言うとムロさんは眉間にシワを寄せていた。
「いや、約束したろ? 強くなるための環境を整えてやるってよ」
「……? 言ってくれましたけど」
「だから、お前が謝る必要はないだろ」
「…………?」
どういうことだ?
環境を整える……何回も死んだ。環境──って。
「え!? えっ、あれって、そのっ、そこまでの言葉だったんですか!?」
「当たり前だろ。責任持つって言った。男が立てた約束だ。嘘はつかねぇさ」
弱い転生者がどうなるかなんてムロさんは良く知ってる。
だから、冒険者組合で訓練をしてもらえるように手配をしてくれた。
それに加えて、死んでしまわないようにスキルで見守ってくれていた。
僕が死なずに最短で強くなるための環境を──ムロさんは整えてくれたのだ。
あの日の湖畔で約束をしたから。
期待をしてくれてるから。
「……うっ」
やば、涙がまた出てきた。
「ぐすっ。うぇ……っ」
ほんと、この人、なんなんだよおぉっ……。
なんで、こんな、かっこいいんだ。
「また泣いてら」ってレヴィさんと笑ってるのも今回ばかりは聞かなかったことにしておこう。
「で、それももう十分みたいだったからこうして話しかけたんだ。当然、お前が死ぬ度にお前がどんなことをして、どんなことに挑戦をして、どんな目にあったかを聞いた。大変だったな、ホント」
ぽふ、と頭に手を置かれたのでゆっくりとムロさんを見上げた。
「お前が生きてて良かったよ」
「……うぐっ」
視界が潤んで、ムロさんの顔がぼやけてみえる。
やがて自然と上がってきた口角で目が閉じて、一気に涙が溢れてきた。
「いきてて、よかった……です?」
「ああ。生きてて嬉しいよ。な、レヴィ?」
「そうだとも。死なれたら泣いてしまうからな」
「確かになー、あんな思いはもう二度としたくないし」
ああ、ほんとうに、ズルい。
なんでこんなに格好良いんだろう。
ぼくなんかは真似できない、かっこいい大人の姿。
そんな人が仲間と呼んでくれたのだ。
「う、う、う、うわあああああああんっ!!」
「ばっ、抱きつくな! ばかっ! おいっ、こらっ!」
「やだ! やだっ! やだあっ! もう格好良いことばっかりいうから! 感情がぐちゃぐちゃになるんだあ! 黙ってください! もう!」
「ああん!? なんだよソレ!!」
涙を流しながらタックルをかまし、ムロさんにグイグイッと引っ張られる。それを見ながらニコニコしてるレヴィさん。
ああ! もう! なんだ! もう! 嬉しい! なんでこんなに嬉しいんだチクショウ! おかしくなる! おかしくなっちゃうじゃないか!!
「う、うううっ! ムロさん好きだあ……ぼく……レヴィさんも好きですよお……大好きなんです……ほんとうに……めっちゃ好きで……好きで……」
ムロさんの服で鼻をかんだ。うぇ、もう1回。
あ、レヴィさんにも抱きつかないと。ムロさんから離れると、手を広げてくれたので遠慮なく突進して地面に押し倒した。
「ぐおっ……大きい子どもだな、まったく」
「レヴィさんのこと、たまにからかっちゃいますけど、好きだからで……嫌いにならないでくださいぃ……」
「嫌いになんてならないから安心しろ。大丈夫だって」
あの時と何も変わらない。親亀の上に子亀だ。
「……嬉しいです、ぼく……ほんと、ありがとうございます」
「ほんと、騙されやすそうな性格してるよなあクラディスは」
「うるさい! だまれ! 格好良いやつは黙ってろ!」
「どんなキレ方だよ……まぁ、でも、お前が強くなってくれて俺も嬉しいよ。だが、お前はまだまだつよくなるだろ?」
「そりゃあ強くなりますよ!」
「そうだよな、それも約束したもんな? 忘れてないだろうな、あの時の言葉を」
「あのときのことば……?」
「ああ。まさか、俺だけが約束を守るってのは嫌だぜ?」
「あの時の……言葉……湖畔の時の……あっ」
“あの時の言葉”。
それが何を指しているのか、思い出した。
「わ、忘れてなんかないです!」
「じゃあ、お前は何になるんだ? 何になりてぇんだ?」
にやにやと聞いてくるムロさんの言葉に、レヴィさんのお腹の上で胸を張った。
──この旅の最中に坊主のしたいことを聞いておきたかったんだ。
あの日の誓いを、僕は忘れてなんかいない。
「僕は……」
──どれだけ難しくても、どれだけ夢物語でも、僕ができる可能性が少しでもあるなら。
あの時の気持ちから何一つ変わっていない。
最弱の僕がなりたいのは、あの日から変わっていないのだ。
だから、僕は再びそれを口にする。
「最強になります……ッ!」
──僕は最弱なので、最強になってみせます!──
湖畔で立てた誓い。
ムロさんに向かってした約束だ。
「本当になるのか? 最強に?」
「なりますって! なりますよ! なりますとも!」
レヴィさんに言い返していると脇に手を差し込まれてグイッと持ち上げられた。
くるっと向きを変えられ、ムロさんと向き合った。
「でも、クラディスになれるかなぁ? 不安だなぁ?」
「ぼくはっ! 最強になります!! 最強の転生者に!!」
泣いてるからか、怒ってるからか、僕の顔は真っ赤だ。
笑ってるし、泣いてるし、怒ってる口をしている。
そんな顔を見て、ムロさんはクスッと笑った。
「そうだな! なってみやがれこんちくしょう!」
「なってやります! なってやりますっ……!!」
「よし、じゃあ問題ない。俺がピンチのときはちゃんと助けてくれよ? 最強の転生者候補サマ」
「任せてくださいよ。僕は強いので、強くなるので!」
「いよぉし。レヴィも聞いたな? これでやっと転生者の同盟が出来上がったんだ」
ムロさんはレヴィさんに向けて顎を動かした。立てという合図だろう。
すると、握りこぶしを突き出してきた。それに合わせると、もうちょっと詰めろとレヴィさんの意外と大きな手が押してきた。
「じゃあ、宣誓といきますか」
「私は転生者じゃないのだがな」
「同じようなもんだろ。魔導士協会の試験にも合格したらしいし」
「なんで知ってるんだ」
「さっきチラッとな?」
「え、じゃあ八之枢軸魔導編成中隊に!」
「まあ、まだだがな。正式に加入をするには協会にいかねばならない。席を確保してもらっただけだ」
「だが、ソレに入ったら一般的には賢者だ。賢者ってことは称号Ⅰ持ちだろ? ほら、一緒だよ」
「ホントですよ、すごいです……」
「調子が狂うな。……まぁ、そういうことにしておこう」
三人で笑うと、拳をこつんと合わせる。
「じゃあ俺達は同盟で、共犯だ。一生懸命生きてやろうぜ。楽しく生きて、笑って死のう」
「デカイことをするんじゃないんですか?」
「転生者は生きるだけで立派な大犯罪だからな。ちなみに、裏切って通報すれば私には多額な報酬金がもらえることになる」
ニヒッと笑うレヴィさんの腕を僕たちは鷲掴みにした。
「冗談でも言うもんじゃねぇぞ! 怖ぇ!!」
「そうですよ!」
「悪かったって」
「じゃあ、俺の目標はそういうことで。レヴィは?」
「私の夢は魔法を戦争の道具じゃなく、みなに一般的に使ってもらうことだな」
「レヴィらしい。とことん戦争の世の中じゃ馬鹿にされる考えだ」
「もっと平和な魔法があって良いと思うのだ。刃物だって果物の皮を向けるのだ。魔法だって生活の役にもっと立って良い」
優しく笑うレヴィさん。
そんな思いがあったんだ……めちゃめちゃ素敵だな。
確かにレヴィさんらしい。
「じゃあ、クラディスは? 将来は何をしたいんだ?」
「僕はもう決めてますから。バレずに最強の転生者になることです。そして、皆で楽しく暮らすんです」
「いい夢だ。頑張れよ」
「ムロさんも、レヴィさんもがんばってくださいね? 僕が一番早く叶えちゃわないように頼みますよ?」
「上等だ、クソガキ」
「調子に乗ったクラディスほど、足元を掬われそうな奴はいないな」
「な、なんですか失礼な!」
というと、二人がハハハと笑うもんだから、僕も笑ってしまった。
そうして皆の夢が出尽くしたところで、再び、拳をこつんと合わせた。
「じゃあ、頑張ろう。死なない程度に全力を尽くそう」
これはこの世界にとって好ましくない宣誓に違いない。
だけど、自分たちがしたいことをしてなにが悪いのだ。
僕たちは今もこれからも生きていく。
周りに合わせて生きるために生きるなんて勿体ない。
決して、こんな僕たちは主人公とは呼べないだろうけど。
「頑張りましょう」
「頑張ろうな」
自分の人生をどう生きるかくらいの選択権は持ってていいのだと思うから。
だったら、せめて、生きてて良かったと思えるように人生を送ろうじゃないか。




