504 なんで教えてくれたんですか
「ってのが、俺と昔にいた親友の話だ」
「…………」
「悪いな、しんみりしちまって」
ムロさんから昔の話を聞いた。
かつて、ダミアンという元の世界でも親友だった転生者がいたのだと。
その人を助けるために何度も繰り返して死んで、監査庁にいた時代のリリーさんと幾度となく戦って……でも救うことはできなかったと。
僕が同じ立場だったら、立ち直ることなんてできなかっただろう。
「…………ズビッ」
あ、だめだ。泣く。我慢できない。
「うぇぇえええっ……!」
「おいおい! 泣くなよ!」
「で、でもぉ……ムロさんっ……」
「もう終わった話なんだ。お前が泣くような話じゃないだろう」
そんなことを言われながら、涙を拭かれるけどそれでも涙は止まらなくて。
「吐きそうです……」
「おいおい勘弁してくれ」
「私が寝るベッドを汚さないでくれ……」
申し訳ないです。本当に申し訳無いです。でも、つらすぎて。
救いがない話を聞くと、本当に辛くなる。心臓が痛い。
「元気になったか?」
「いえ……あの、はい……大丈夫です。うぇ……うん、はい」
鼻を啜りながら真っ赤になった目で頷く。
大丈夫じゃねぇな、と呆れられながら、座る場所を床に変えた。
「転生者の先輩の話は参考になったか?」
「参考……というか、はい」
「俺達が死ぬパターンは決まってる。誰かがバラす場合と、鑑定士に見つけるの2パターンだ」
「……僕もそう思います」
「だから、クラディスはその2つの問題をどうやってクリアするかを考える必要がある。今からでも遅くないからな」
僕も仲の良い人たちに打ち明けている。
その内、どこからか話が漏れ出て、殺される可能性はある。
それは明日かもしれないし、今日かもしれない。
「だが、あの時の俺と明確に違うところがあるとすれば、リリーさんが味方であるということだ」
「それは、本当にそう思います」
「今の姿からじゃあ想像つかねぇだろうがあの人ヤバいからな。まぁ、向こうも俺のことをヤバいって思ってるらしいが」
「何百回と突撃をしてくる奴がいたらさすがにな」
「うっせぇぞ」
リリーさんとムロさんの間に溝があるようには見えなかったけど、それは何年もかけて関係を構築していったからなのだろう。
いや、リリーさんが「人によっては問題なし」とするようになった背景にはムロさんとの戦いが関係しているのだと思う。
あの人が敵だった場合、僕はデュアラル王国に来た時点で死んでる。
「まあ、今の俺はこんな感じで生きてる。魔素を隠すことができるから他の奴よりは生き延びられるだろうさ」
「……バレずに生きるのは、やっぱりムロさんみたいに生きた方が良いんですかね……?」
「俺が死んでないのはスキルのおかげ。あと、俺が有名じゃないみたいな言い方はヤメロ」
「っデッ!?」
ムロさんは床に座ってる僕の頭にかかと落としをしてきた。いでぇ。
「これでも上位血盟のエースだぞ、クラディス」
「そうではあるんですけど……なんだか、上手いというか、堅実な力で目立ってないと言いますか……なんていうんだろ」
目立っていない訳じゃないけど、目立っている訳ではない。
これをなんと表現をしたらいいのか……うーむ。
「当たり前だろ、過去に戻るのと魔素を偽ることしかできんのだ。そりゃあ目立たない。飛び抜けたスキルがあるわけでもないんだし」
「……あ、え? もしかしてムロさんって普通の人と変わらない……?」
「だからそう言ってんだろ。過去に戻れるだけの一般人だよ。目立つわけねぇ」
「なのにそんなに強いんですか……?」
「今の俺の実力なんてたかが知れてる。ようやくあの時のダミアンくらいなもんだ」
「そう考えると普通の転生者ってのはすごいんだな」
ムロさんは魔素を隠すことと過去に戻れること以外に特殊なスキルがない。
ということは、その実力が目立っていない理由は突出した能力がないからか。
堅実に、何度も繰り返して、失敗をしないから成功をしているような生き方。
「あとは、俺以外もちゃんと強い環境にいるからだな」
「……? それはどういう……」
「お前のツレも強くなれば全体のレベルが上がる。全体のレベルが上がると紛れる」
「……あ」
なんだ、そうか。思ったよりも単純な話なのか。
「ムロさんは強いですけど、レヴィさんの方が強そうですし」
「殴るぞ」
構えるムロさん。まあまあとレヴィさんが宥めてくれた。
「それにマーシャルさんっていう存在がいるし、協会にも行ってないからそんな頻繁に報道はされない。報道されたとしてもアサルトリアとして報じられる……か」
言ってしまえば埋もれているのだ。
地方で有名な人が都会に出たら埋もれてしまうように。
強い人達の所に属すことで、その実力が隠されている訳か。
「まぁ、強すぎるやつはそれでも秀でるんだがな? 黒薔薇の騎士とか、ダミアンもなんたらかんたらって個人の名前で呼ばれてた。ちなみに、俺にそういう二つ名はねぇ。アサルトリアのエースってぼんやりとした奴だけだな」
「……なるほど……強い人達と仲間になる……か」
「あとはー……そうだな、転生者の先輩として話せることは……うーん」
「いつの間にか後輩転生者への生き方レクチャーになってるな」
レヴィさんの茶々入れをムロさんは腕を組んで無視。
ちょっとさみしそうな顔になってるレヴィさんの膝の上に手をおいて慰めておいた。
「そうだ! 基本的なトコだが、話す相手は選べよ。酒癖が悪いやつ、口が軽いやつはそもそも論外だ。あとは立場が弱い人間とかな、圧力にすぐに負けちまうやつはダメだ」
「……さっきの話なんですが、エルシアさんはムロさんが転生者ってことは」
「アイツから伝わってる。エルシアが血盟に入る前の血盟員候補だった時代にな。飲みの席でダミアンが口を滑らしたんだ。戦争から皆が帰ってきたくらいのタイミングだった。……馬鹿な奴だよ」
「最悪のタイミングじゃないですか……」
あれ、でも。
「エルシアさんってダミアンさんが亡くなられたことって知ってます……?」
「いいや、知らないだろう。伝えてないしな」
レヴィさんはムロさんに確認を取るように目を向けていた。
「この話はリリーさんから聞いたんだ。ダミアンが捕まった理由を聞いた時にな。新人時代のエルシアが最初の依頼を熟した帰りの飲みの席で、先輩であるダミアンのことを自慢したんだとよ」
「酒癖が悪くて、あれだけ人懐っこいエルシアのことだ。自分のせいで誰かが死んだと分かったら……それこそ立ち直れないだろう」
だから、エルシアさんは最初の一緒に風呂に入った時にああ言ってたのか。
寂しそうに、強い人がいたんだけどいなくなっちゃって、って。
知らない方が幸せなんだろうけど……それはそれで辛いだろうな。
「じゃあ、もし、エルシアさんが誰かに喋ったら」
「それは本人から申し出があって、口外できないようにしてる」
「してる……? そんなのができるんですか……?」
「得意分野だもんな。だから、エルシアが俺のことを転生者だって言うことはない」
「口外ができなくなる魔法?」
「最果ての賢者だからな、私は」
ちょっと自慢げだ。まぁ、自慢してもいいくらいのことだけど。
そんなの聞いたことないもんな。ある種の主従契約のようなものじゃないか。
でも、そうなったら一つの疑問が湧いて出てくるよな。
「じゃあ……なんで僕に教えてくれたんですか?」
これだ。
「タイミングとか場所のことは理解できたんですけど……」
口外禁止するほどの情報を、なんでこんな僕に話してくれたのか。
「リスクが大きいと思います。ぼく、弱っちいし……。なんで、僕なんかに……」
「仲間だからだろうが」
当然と言わんばかりの強めの語気に、思わず背筋が伸びた。




