501 親友ならば
いくら情報を集めてもイレネロの弱点などは出てこなかった。
誰も彼も彼女の武器は出来損ないだと自信満々に語るばかり。
たった一度だけ、勝てれば良いというのに。
それ以外望んでないというのに。
──30回目。
「また来たのか……お前も懲りないな」
──46回目。
「一撃で死ぬというのに、何が楽しくて続けてるんだ?」
──66回目。
「情報を集めてきたんじゃないのか? 何か良いことでも聞いたか?」
──79回目。
――99回。
――128回。
そしてもう、何度挑んだか分からなくなった。
――○○○回目。
「何度目だムロ。お前はこれを何回繰り返すんだ?」
足が裂かれ、地面に倒れ込んでいるムロにイレネロは呆れてそう言う。
「私の武器のことは知ってるんだろう? 私は貴様に毎度10倍の斬撃を浴びせてる。吸い込まれて死んで、地面に挟まれて死んで、首なんか何回も裂かれて死んだ。……どういう精神で私の前に立ちはだかるんだ」
何回も戦った。
何回も戦い、その度に殺された。
弱点なんて見当たらない。
勝てる見込みなんてものもない。
そんなムロが賭けている可能性は一つだけ。
「お前が諦めるまでだよバカ野郎……!!」
しつこく食らいつき、イレネロが諦めるまで死に戻りをする。
たとえ、あと何年経ったとしても。何十年経ったとしても。
「お前がっ! ダミアンを見逃したら済む話だ!!」
ムロは諦めるつもりなんてなかった。
それしかできないから。
今のムロは弱い。転生者の中では最弱だ。
たった1度の勝利すら手にすることが出来ないのだから。
だからこそ、取れる手段がソレしかなかったのだ。
「俺達は何もしてない! 普通に生きていたいだけだ!」
裂かれた足で立とうとして、地面に頭から落ちた。
もがれた手で武器を握ろうとして、握り込めずに落としてしまった。
悔しくて悔しくてたまらない。
何もできない己の無力が情けない。
「俺達が誰を殺したっ!? 誰に迷惑をかけたッ!? 転生者ってだけで、なんで殺されなきゃならないんだよ!! 悪人はお前らだろう……? 何もしてない俺達を殺して、たくさん殺してっ──もう、やめてくれよ……ッ!!」
地面に頭を擦り付け、ムロは叫んだ。
「お前らだって……家族がいるだろう……仲間がいるんだろ……? なんで、そんなヒドイことが出来るんだ……」
声に涙が滲んだ。
この場所に来るまでにかかった日数はたった4日。
しかし、それらは積み重なって──100年を越えて生きる者にしか送られない【長命種】という称号が与えられるほどの日数となっていた。
「お願いだから、もう、やめてくれ。ダミアンは大事な仲間なんだ……お願いだ」
「ムロ……」
ムロの懇願を聞き、ダミアンも弱々しく頭を下げた。
「俺からも頼む。俺達は誰も殺してないんです。だから……見逃してください」
「…………ふむ」
二人の転生者が頭を垂れる。
それをイレネロは見つめ、ゆっくりと鎌の矛先を地面へと向けた。
その音が聞こえて、二人は顔を上げた。
鎌が地面に触れたというのに、地面が割れない。攻撃されない。
「……今度は諭そうとするか。これは初めてだな」
それは、初めてイレネロが対話に応じた瞬間だった。
ムロとダミアンの中で一抹の期待が湧き上がる。
だが──
「しかし、私が見逃したとしてもソイツは死ぬぞ」
「……っ!」
イレネロはダミアンに指を向け、鎌を足で蹴って肩に担いだ。
「ダミアン・フォールが転生者であることは既に皆が知っている事実だ。そいつを逃せば私の立場が危うくなる。逃したとしてもどうせ助からん」
「そんな……でも、まだなにか──」
というムロの前に鎌がブンッと振り下ろされた。
それは攻撃ではなかった。だが、その懇願を黙らせるだけの圧があった。
私の話を聞け、と言っている気がした。
「……」
口を閉ざしたムロを確認すると、イレネロは鎌を再び肩に担いだ。
「だが、知らされているのはダミアンだけの情報だけ──」
イレネロはついとムロの顔を見やる。
「何が言いたいか分かるか? ムロ。貴様はまだ生きることが出来る。私はまだ誰にもこの話を伝えていない。ダミアン・フォールから情報を見たのは今日の朝方。貴様が来る少し前だ」
「──……」
ムロの表情が崩れた。
それは希望でもなんでもなかった。
イレネロは「お前だけなら助けてやることができる」と言っているのだ。
そんなことは望んでいない。──ムロは握りこぶしを作った。
そんな瞳の色が変わったムロをイレネロは一瞥し、顎で彼に問いかけた。
「これを聞いてどう思った。ダミアン・フォール」
「……おれ、ですか」
「ああ。貴様らは親友なのだろう? ムロが何回と死んだというのに貴様は毎回、ただただそうやって座っているだけだ」
「ダミアンはお前らにやられて衰弱してるんだ、それをお前は知ってるだろ……!」
「それがどうした」
ムロの言葉を斬り伏せ、イレネロは続ける。
「衰弱していようが動かせ。動かせれないなら死ね。親友とはそれほどまでに浅い言葉なのか? 少なくとも、私の親友たちは私を庇って死んだ。……貴様ら転生者が情報を漏らしたせいでな」
イレネロは唇を噛み締めながら、過去の記憶を吐き出した。




