499 転生者の天敵
彼らがアサルトリアに加入し、新人からルーキーになった頃の話。
アサルトリアが血盟順位で破竹の勢いで順位を上げていく中に、3人の姿はあった。
レヴィ、ムロ。そして、旧友であるダミアンの姿だ。
転生者であることを触れて回っていたわけではない。
だが、一部の懇意にしている人物らには話をしていただけだ。
それが決定打になった。
ダミアンが監査庁に拘束された。
監査庁で何があったのかは知らない。
ダミアンがどんな目にあって、どんなことを思ったのかは定かではない。
ただ、監査庁がムロの元に訪れてこう言ったのだ。
「冒険者ダミアンからあなたが転生者だという証言がありました」
それは死刑宣告のようなものだった。
ダミアンが帰ってきたのかと思って扉を開けたら彼らがいたのだ。
丁度、白金等級から翠金等級に上がる昇級試験を彼は受けに行っていた。
だから、やっと帰ってきたのかとおもった矢先──監査庁は現れたのだ。
そして、ムロは自殺をした。
拘束される前に己の首を迷うことなく刎ねたのだ。
いつもやっていることだ。
自分の意思でスキルを発動するには数秒の時間が必要になるから。
その場から逃れるためには、自殺をするのが最も効果的だった。
そうして、ムロが戻ったのはスキルレベルと同じ7日前。
まずはダミアンがどこの監査庁に捕まえられているのかを探すところから始まった。
ダミアンが昇級試験に向かったのはモルの大森林。そこで捕まったということは、その南方に位置するロバート公爵領が最も濃厚だった。
公爵領に向かうまでに3日はかかる。残りの4日間で彼を捜索することになった。
監査庁の支部に訪問し、ダミアンの情報を得るために何回も死んだ。
そして、公爵領地の中央広場にある監査庁の支部に捕まっていることが分かった。
ただ、何をしたら良いのかわからないという問題がある。
まずは、なぜ、ムロが転生者だという話になったのかが分からない。
ダミアンが証言をした、という話を監査庁の人間はしていた。
だったら、ダミアンがいつ証言したかによっても変わってくる。
ダミアンが「ムロが転生者である」という公言を阻止するために出来ること──
「…………」
彼は監査庁の奥の牢屋に拘束されていて、そこまでには多くの目を掻い潜らなければならない。
面会なども当然ない。
だが、会わなければ話もできない。
(何をするにしても……まずはダミアンの所までたどり着く必要がある)
だから、ムロは徹底して調べ上げた。
看守の入れ替わりのタイミング。
鑑定士の目に触れぬ場所。
裏道。
偽装工作。
なんども繰り返してようやく入り込んで、牢屋の中にいる旧友を見つけた。
「ムロ……お前」
衰弱をした彼の顔を見て、元の世界の姿が重なった。
ムロは言葉を失う。
今までの積み重ねた死の疲れなんて吹き飛んでいった。
たとえ、その7日間を数百回と繰り返し、ここにたどり着くまでに2年近い年月が流れていたとしても。
あれほど充実した日々を送っていた仲間が、友達が、こんな仕打ちを受けているという事実に、ムロの中に怒りがこみ上げてきた。
「どうやってここに……」
首に枷を嵌められ、動けぬようになっている。
頬がこけ、むち打ちでもされたようなミミズ腫れの痕が体の節々に見える。
「……ダミアン、ここから出るぞ」
その言葉を聞き、ダミアンは泣き出しそうな表情を浮かべた。
「……何回死んだんだよ、おまえ……っ。おれのためにっ……」
檻を壊した。
警報が鳴り響き、施設中の職員が集まってくる。
近くの空き部屋に姿を潜め、混乱に乗じて抜け出した。
できるだけ遠くへ。可能な限り遠くへ。
ダミアンは裸足だ。何日も飯を食べていないのだろう、ムロの走る速度に追いつけない。だから背負った。同い年の男性の体とは思えないほど軽かった。
涙がこぼれる。
「なんでっ……俺達がこんな目に遭わなきゃいけないんだっ……!!」
その一言に全てが詰まっていた。
「なにもしてないじゃないか、なにもっ……普通に過ごしてただけで──」
「ムロ……」
「ただ普通に生きていたいだけなのに! なんであんなに辛い思いをした俺達が……ダミアンがこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ……ッ!!」
走る。
走る。走る。
走って、走り続けた。
憲兵すらも動員され、街中に警戒網が敷かれ始め。
だから、外壁にしがみついてそのまま街の外へ走っていくことにした。
「はっ、はっ……!」
ロバート公爵領はモルの大森林と面していて、街からだと数キロ走ればすぐに森にたどり着くことができる。
そこまで逃げ切れば、隠れることができる。
そうして全速力で走るムロだったが、森に差し掛かる前にダミアンはあることを告げた。
「ムロ……ダメだ。俺、アイツに見られちまったんだ」
背中から聞こえたか細い声を耳は拾った。だが、足を止めることはしない。
逃げなければ捕まってしまうから。
逃げ切らなければ、2人とも死んでしまうから。
「アイツって……誰のことだ!」
「首切りのイレネロ」
その名前を聞いた途端、走っていた足が前に進まなくなってきた。
「……お前だって知ってるだろ?」
「イレネロって……あの」
ムロは燃えるように熱かった体が急激に冷めていくのを感じた。
普通の汗と冷や汗が混ざり合う。
イレネロ。
その名前は聞いたことがあった。
監査庁に籍を置き、転生者の首を刎ね続ける処刑人の名だ。
解析士という唯一無二のスキルで隠れている転生者を見つけ、殺す。
領土戦争後から1年しか経っていないというのに、処刑した人数は数しれず。
いつしか「首切り」という呼ばれるようになった──転生者の天敵。
「リリー・フィン・イレネロ。アイツに見られ、お前も転生者だってバレたんだ」
同刻。
監査庁内、ダミアンが入れられていた牢屋前にて。
その人物は落ちていた血痕を手にし、それを見ていた。
慌ただしい建物の中、首切りのイレネロは連れ去った人物が誰かを解析した。
「……ああ、仲間が来たのか」
解析の結果、その血痕が誰のものか分かった。
なんのために来て、なんのために牢屋をこじ開け──どんなスキルなのかもすぐに把握。
「アサルトリアのムロ、ね」
魔素隠蔽。
時間遡行。
何回死んだのか。
彼は訪れるはずだった未来を見て、過去に戻り、ダミアンを連れ去った。
そして、まだソレは初回。
「私から逃げられると思うなよ、人殺し共め──」
解析。
ありとあらゆる情報が保管される世界樹を閲覧することが可能なスキルだ。
それはすなわち……ムロ達が逃げ切れないことを意味していた。




