496 ムロの過去
「何回も死んで、何回も繰り返して、もう自分が地球で暮らした記憶の何十倍も、下手したら何百倍も生きてるんだ。そりゃあ忘れるわ。たしか男だった気はするぞ」
笑って見せるムロさんだが、こちらとしてはそれに乗り切れない。
雰囲気をごまかそうとしてくれているのは分かるし、助かる。
だけど、無理だ。……あー、よいしょ!……無理だな。
「時間を繰り返すって……条件とかは」
「はあ。……死んだ時、あとは自分都合だな」指を二本立てて、ゆらゆらと揺らした。「自分都合の時は発動までに時間がちくとかかるが、死んだ時は直ぐに戻る。戻れる時間はスキルのレベルによって変わるし、戻り続けることはできねぇ。戻り続けれるなら……転生者がアホなことをする前に戻ってやれたんだがな」
第二期転生者が問題を起こしたのは戦争中のことで、転生者のせいだと発覚したのが戦争後だった。その期間というのは数カ月間もの間がある。
数ヶ月も前に時間を戻すことはおそらく不可能。さすがにそこまで便利なスキルを授けるつもりはないだろう。
……死ぬのと自分の都合で戻れる。もしかして、アンが言っていた「相当な場数を踏んでいる」はそういうことなのだろうか。
「…………」
「俺は人生をやり直したかったんだと思う」
「……?」
急にこんなこと言われておかしいと思うだろうがな、とムロさんは笑う。
「異世界に行くってなっても、俺みたいな奴が立派な人生を送れるとは思えない。から、繰り返して学んだら良い人生が送れるんじゃないか……とか考えてスキルを選んだ。たしか、そんな感じだった気がする」
転生する時にはスキルを選んだろ? と言われて、はいと答える。
僕は観測者にほとんど任せちゃったけど、他の転生者は自分で全部を選んでいる。
過去に戻り、魔素を隠せる。そんなスキルを選んだなら……もしかして、ムロさんはたくさんの人生を歩もうとしていた、たくさんの景色が見たかったんじゃないかと思った。
──転生者適性は、地球での生活に強く変化を求めていたかどうか。
ムロさんは地球での暮らしにうんざりして、異世界で第二の人生を歩もうとしていたのだ。堅実に、失敗をしても取り返せれるように。
なのに、同期の転生者達が問題を起こし。世界はめちゃくちゃになってしまった。
「…………」
「おぉい! しんみりする話じゃあねぇぞ!」
パンッと背中を叩かれて、うぐっ、と鈍い声がでた。
「いや、しんみりする話ではあったぞ」
「そうか? そうか、悪いな。そんなつもりはねぇんだ」
ムロさんの中では割り切ってる話らしい。
でも途中途中に見える冷えた表情は、当時のことを思い返してのことなのだろう。
……気が重い。
「エルシアさんには」
「エルシアには言ってねぇよ。言わないほうが良い、酒癖が悪いからな。それに前科持ちだ」
「前科?」
「昔にな、いたのだ。ムロと同じ転生者が。たしか、前の世界で友人だった男だ」
前の世界で友人?
「……前科持ちっていうのは、もしかしてエルシアさんが話しちゃって……」
「ああ。死んだ」
転生者の多くは身内からの密告により命を落としている。
そんなティナ先生の言葉を思い出した。
とくに戦争後ならば、監査庁の動きも今より活発だっただろう。
それでムロさんの友人は……監査庁に殺されたのか。
「あー、レヴィ」
ムロさんは気まずそうに頭を掻いて、はぁ、とため息をついた。
「せっかくの機会だ。正直に話そう。コイツも気になるだろうし、今後のなにか役に立つかもしれないからな」
「?」
悪いなクラディス、と頭をぽんと撫でられ、その大きな手に触れた。
「ソイツは確かに俺の友人で、レヴィと俺と三人でパーティーを組んでた。アサルトリアのエースだった男だ」
「もしかしてエルシアさんが入る前にいた人ですか?」
「そう。良く知ってるな」
「エルシアさんの話で何回か出てきたことがあったので」
最初のお風呂場とかでも話はしたし。
「そいつは強くてな。転生者らしい転生者だったよ。俺とは違ってな。生きてりゃ今頃、皇にもなってんじゃねぇかって思えるくらいに強かった」
「……でも、監査庁に殺されて」
「いいや、違う。監査庁じゃない」
ベッドに着いている手が握りこぶしに変わるのが見えた。
血管が浮き出て、肩に力が入る。
そして、少しの歯ぎしりの音。
「……なんて言やぁいいか……」
ムロさんは言いたくないことを言おうとしている。
おそらく、自分の立場が危うくなるであろうことを。
だから、
「ムロさん、良いですよ」
中途半端な言葉を投げかけた。
苦しむくらいなら言わないで良いですよ。
幻滅しないから話してくれて良いですよ。
その両方に取れるこの言葉は、ムロさんの傾いた天秤の後押しをするくらいの力しかない。
それでも、少しだけ、ほんの少しだけ和らいだ表情になったムロさんは、
「俺が、ソイツを殺したんだ」
そう、告白をした。




