494 共犯者にならねぇか?
「暗い! 暗っ!? こわいっ、えっ! 怖いですっ!」
後ろから何かを被せられたのか!?
上から押さえつけられてる、力つよっ!?
バタバタと足を動かしてもそれが剥がれる気配なんてない。
でも、これ、この魔素。
「ちょっ! え! なに!! ムロさんでしょ!? ムロさんなんでしょ!??」
「また正解だ! お前がベッドに座った時に死ぬほど焦ったぞ! 俺が寝てたんだからなー!!」
「えっ!? あのっ、ご、ごめんなさい!?」
やっぱりムロさんじゃないか!
これ布団か! 布団を被せられたのか!
「なんで謝ってんだよ! ハッハッハ!!」
「ってかなんでいるんですか!」
拘束が緩んだから、布団をはぐって顔を出すと当然だけどムロさんがいた。
無邪気な顔で笑うムロさんだ。
「なんでいるんですかって、お前が後から入ってきたんだろうが。まぁ、今日の夜くらいに訪ねてくるとは思ってたがな」
「でもっ……皺とか、影とか、そういうのも」
「私の魔法の専攻はそっちだからな。最果ての賢者と呼ばれてる所以だ」
「最果ての賢者ってその、出身地とかそういう感じのあれかと……」
「いんや、レヴィは非戦闘系魔法ばっかり研究してるから、最果て、要するに一番安全な場所の賢者って言われてる」
「安全な賢者……」
「意外か?」
「いいや……戦ってる姿を見たことがないな、とは……思ってましたけど」
「普通に戦えるぞ、コイツ。だから協会にもいられるんだしな」
「まぁ、所属してるだけだが」
「はー…………」
なんだか、納得をした。
レヴィさんは聞いたことがない魔法ばかり使う。それも非戦闘系の魔法ばかり。前は「魔法を自分で作るすごい人! 賢者!」だと思ってたけど、そっち専門だったのか。
でも、普通に戦うことは出来ると。ノアにも立ち向かって行ってたから、少なくとも上位魔族と戦えるだけの実力はあるってことだもんな……。
「で、こっちの話なんだがよぉ、クラディス」
「は、はいっ!」ムロさんの顔面急接近で、壁に頭を打ち付けた。「いでっ」
驚かさないでください……ビビリなんですから……。
涙目で後頭部を擦ってると、ムロさんはレヴィさんと目配せをしてた。
なんだなんだ。何を言うつもりなんだ。
「おまえ、俺らの共犯者になるつもりはないか?」
「………………へっ……?」
共犯者……? 共犯者って、え?
僕が知ってる共犯者って言葉は……え?
「ムロさん……やっぱり」
「ん?」
「やっぱり、僕が転生者なのを脅して……犯罪者に仕立て上げるつもりなんですね!」
「な~に言ってんだよ!」
「むごぉっ!!?」
今度は飛びかかって押し倒してきた。
「ちょっ、なにっ! なにすんですか!」
「うぉらッ! 抵抗すんな!」
って、力強ッ!?
あの時のレヴィさんの比じゃない!
女の子だったら泣くくらいの力で押し倒されてる!!
「お前が変なこと言うからだろ! 人聞きの悪いことばっか言いやがって!」
「そうだぞー、いくらムロが悪人ヅラしてるからとはいえ」
「レヴィもうるせぇよ!」
雰囲気が雰囲気だったら泣いてるところだけど、2人ともの様子を見てこれが怖い話ではないというなぞの安心感がある。
けど、怖いのは怖いし、驚いているし、不安だ!
そして、それらは顔にも現れてるだろう。死ぬほど怯えてるもん僕!
「いいか? 別に脅迫してるわけじゃねぇ。元々、この話はするつもりだったんだよ」
「し、信じられません! 共犯者も、その、僕を脅すつもりなんでしょ!! 信じてたのに!」
涙目で僕は訴えた。
信じてたのに、共犯者になれだなんて。
「おー、クラディスが珍しく好戦的だ」
「お前が朝の話を中途半端に切り上げたからだろう? 不安にもなるさ」
「えー、俺のせいかよ」
……あれ?
レヴィさん、朝のやり取りのこと知ってるのか?
ってことは……えーと、あれ?
なんか、色々と食い違ってる気がしてきた。
「む、ムロさん!」
「あン?」
「……」
ここで黙り込んだら今までと一緒だ。
聞け! クラディス聞け! 疑う前に疑問をぶつけるんだ!
「……聞かせてください。あの時、レヴィさんとかユットロールさんがいた場所じゃなくて、なんで路地裏で話をしたんですか……?」
聞きたかったことを聞いた。
僕の中でかなり勇気を出して聞いたつもり。
だけど、ムロさんは意味のわからねぇと片眉を上げていた。
「そりゃあおまえ、誰に聞かれるか分からねぇし。あそこならオレの背中でお前の顔とかは隠せるし……物音もうるさかったから話すにはもってこいだと思ったんだよ」
あれ。思ってた答えじゃない。
でも。納得できる答えだ。
もっとこう、なんか神妙な感じかと思ってたんですけど?
「……ということは、よこしまな気持ちがあったとかじゃない……?」
「ねぇよ。え、まさかお前ソレで疑ってたのか!?」
こくりと頷くと、苦笑いされた。
「人通りが多い場所でこんな話題出せるか? 出せねぇだろ。あとタイミングに関しては、中々言うタイミングなんて無かったろ?」
ほら、旅とかで会えなかったし、とムロさんは話す。
「そりゃあそうですけど……じゃあ、えっと……なんだ。あと僕が聞きたいことって……なんでしたっけ」
「知るかよ……レヴィは知ってるか?……知らんらしい」
えと、あの、じゃあ……うん。引っかかってるところはもうないか。……ないか?
話すタイミングを逃してたってことだもんな……、本来聞きたかったことはこれで以上で……えーと。
「じゃあ! 共犯者って話に戻りますね」
「おう、そうしてくれ」
なんか律儀に話をすると、後ろでレヴィさんがクスッと笑っていた。笑うな!
「共犯者って僕になにをする……させるつもりなんですか!?」
「悪いことをすんだよ」
「悪いことって……人を殺したり……とか?」
「いいや、もっと悪いことだね」
「もっと悪いって……なんだ」
……放火? 強盗殺人……。
「もしかしてテロ!?」
「いいや、普通に生きるんだよ」
「……ふつーにいきるー……?」
言っている意味が分からなかった。
普通に生きることが……悪いこと?
「それが、なんで……悪いことなんですか?」
分からないから聞いてみると、ムロさんはニヤリと笑った。
「だって、俺、転生者だもん」
「………………?」
ムロさんの口から出てきた言葉を頭が拾うまで時間がかかった。
横からテーブルスタンドの明かりに照らされているこの人。
僕の命を救ってくれた恩人。
めちゃめちゃ強くてかっこいい人。
そんな人が、いま、なんて言った?
「てんせいしゃ……?」
「そう」
「ムロさんが……?」
「おう」
「ほんとうに……?」
「そうだ」
「へー……」
あ、ようやくわかった。
ムロさんが転生者ってことだ。
なーんだ、そっか。そっか……って。
「ええええええええええええ!?」
驚きすぎて、後ろの壁に思いっきり頭をぶつけてしまった。




