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491 お前はわかりやすいんだよ


 ──アサルトリアには気をつけろよ。


 そんなリリーさんの言葉が頭に過った。

 なんで、そんなことを言うのか。

 だってムロさん達は僕を救ってくれた恩人で。

 レヴィさんは僕が転生者っていうことを知っていて。

 それでも今日まで一緒に遊んでくれて、昇格したのを喜んでくれて。

 だから、僕は、そんなことリリーさんの言葉をちょっと嫌だなと思って。


 だけど、


「ほら、瞳孔がかっぴらいた」


 いまさっきのムロさんの顔は──

 見たことがない顔を……。

 人を殺すのに躊躇いがないような顔をしていた。


「そ、そりゃあ……びっくりもしますよ……いきなり転生者だなんて、嫌だなあ〜」


 これは、どうしたらいい。

 ムロさんは、なにを考えてる?

 こんな場所で普通に、そんなことを言って。

 何が目的なんだ……?


「ほら、そんな冗談は良いですから。早くみんなのところに」


「お前は分かりやすいんだよ」


 ぐわ、と僕に伸ばされた手。

 

「……っ!」


 その大きな手を強張った顔で見ていると──

 ぽん、と頭を撫でられた。


「もっと上手く、表情に出さねぇようにしろ」


 ぐわぐわ、と。

 あの時と同じように。

 泣いていた僕を慰めた時のように、優しく頭をなでてきた。


「え…………?」


「は?」


「……なんで、ムロさん……」


「なにが?」


「だって、その、ぼくっ……転生者って……」


「あ、忘れてた。ほら、コレ」


 ほいと渡されたのは、長い箱。

 顎をクイと動かしてきた。開けてみろということだろうか。

 開けてみると……キレイに畳まれていた丸メガネがあった。

 

「目の色、変わってんだろ」


「え、あ……はい……ちょっと……」


「それをすりゃあ誤魔化せる。お前の目が紫だとしてもな。ほら、つけてみろ」


 花の柄が刺繍された眼帯を解き、メガネをかけてみる。

 少し視界が変だ。でも、そこまで見えないってことは、ない、けど。


「おう、似合ってるぞ」


「………………」


 ムロさんはどこまで知ってるんだ?

 レヴィさんと情報共有をしている……?

 僕が隠していたことを、こうも当たり前のようにつらつらと。

 

「ムロさん……?」


「なんだ?」


 聞いてもいいのだろうか。

 

「……なんで、今そんなことを――」


「あ、こんなとこにいたー! なにー、2人で仲良く話しちゃってさー」


 後ろから聞こえた声に僕は体を跳ねさせ、思わず振り返った。

 そこにいたのはエルシアさん達だった。

 どうやら、依頼を受けてきてくれたらしい。


「なーんでもねぇよ」


「あーー! クラちゃんメガネしてる。かわいーー!」


「あ、ちょっ……!」


 まずい、エルシアさんには紫の目のことはまだ伝えてない。

 紫の瞳ってことがバレたら、色々と話がややこしくなってしまう。


「って、あれ……クラちゃんのこっちの目って……」


 目を伏せた。

 だが、露骨な動きは逆効果であるということを知っている。

 目を閉じたいけど、閉じたらだめ。

 だから、上目遣いで怯えるように見ることしかできない。

 これが僕の精一杯の抵抗だ。

 

「……」


 でも、バレてしまった。

 今まであれだけ頑張って隠してきたのに……。


「ああ。やっと治ってきたって話を聞いたからな。が、まだ視力がちょっと弱いみたいでメガネを買ってやったんだ」


「なーんだ! そっかー! 赤っぽい色してるねー。魔法の適性があるんだ!」


「赤……?」


 僕が? 

 でも、そっちの目の色って紫じゃあ……。


「で、どんな依頼を受けたんだー?」


「え~、それ聞きたい~?」


 ムロさんがエルシアさんを押すように路地裏から出ていった。

 残っていたアンとエマさんが、こっちに来てくれて。


「あるじ……そのメガネ……」


「さっき、ムロさんからもらったんだ。あと……転生者ってバレてた」


「「!!?」」


「レヴィさんには……バレてるから、そこでなのかもしれないけど」


 わからない。

 直接聞けるまでは、わからないけど。

 紫のことも。転生者のことも。知っていたってことは──最初から……ムロさんは僕のことを知っていた……?


「警戒はしておいた方がいい?」


「……わからないです。ごめんなさい……」


「恩人だからと言っても、害ならわたしは」


「うん。うん……でも、でも……たぶん……いや……ごめん」


 不確定なことが多いのに「大丈夫」だなんて気安く言えない。

 今まで何もしてこなかったのに、ムロさんが急に話し始めた理由がわからないのだ。

 それも、レヴィさんもいない場所で。

 話すならすぐに話してくれたはずだ。

 あの湖での話し合いの時、血盟お試しの時、それ以外にも話す機会はあったはず。

 なのに……ムロさんは話してこなかった。


「……それにしても、いい眼鏡ですね。似合ってますよ?」


「そう……? そうかな」


 水魔法を作り出し簡易的な鏡にして自分を見てみた。

 確かに、紫の瞳は赤黒い瞳になっており、反対の黒色はそのまま。


「青みを消すレンズなんですかね?」


「……そうなのかも」


 戦闘の時に眼帯を外すことがあった。その時の視界の広がり方に慣れないことがあった。いつもは片目を閉じてたからだ。

 だけど、これを使えば少しは両目で過ごせる時間が増える。

 横から見たら色がバレるからそこだけ気をつけないとだけど。

 

「殺すつもりなら…………これを渡す意味がわからないよな……」


 でも……なんでこのタイミングで言ってきたんだろう。

 まだ、ムロさんはなにか言おうとしていた。

 エルシアさん達が来なかったらどうなってたんだろう。


 僕を生かしておく理由があるから──

 皆には内緒で僕に伝えておきたいことがあったから──

 転生者だと伝え、広められたくなかったら言うことを聞け、とか──

 弱みを握っているんだぞと伝えるために場所を選んで──

 

 ──考えたくないことを脳みそが考えてしまう。


 ムロさんはそんな人じゃないという気持ち。

 なんで今、場所を選んで伝えてきたのかという疑問。

 それらが混じって、胃袋の中に酸っぱい液体が広がっていく感覚へと変わった。


 気分が悪い。


「戻ろう。依頼をしないとだもんね」


「……うん」


「はい」


 2人の横を抜けて歩いていき、胃袋を刺激する不快感を唇を噛み締めて堪えた。


(ああ、いやだ)

 

 つらい。

 つらいなあ。

 忘れては思い出させられるんだ。


(好きな人を疑わないといけないなんて……)

 

 僕は転生者で。

 犯罪者で。

 皆から嫌われているんだと。


(僕が何をしたっていうんだろう)


 叫んでしまいたいほどの不快感を腹に溜めたまま、僕は依頼をすることになった。


 

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