490 普通じゃない
「しばらくは、ここの街に滞在だな~」
鍛冶場を出て背筋を伸ばしていると、ムロさんが欠伸をしながらそう話す。
アサルトリア側も依頼の他に話をしていたから、何か新調したりするのだろう。
「依頼でも受ける?」
「依頼を受けてもいいが、そうなったらウチの団長的がごねる」
「1回でも許してくれないかなー……」
「許してくれた試しがあるか?」
「まぁ、1回くらいは良いだろう」
「クラちゃんを入れられなかったのは団長のせいだしね」
「ということで一緒に依頼を受けようぜ~。エヴァーチェも」
「俺達もいいのか?」
「もっちろん。クラちゃんのお友達なんでしょ? 仲良いし」
僕は2人と目を合わせる。仲良し。仲良し……仲良しだな!
ガシッと肩を組んで、にこりと笑った。
「そう! 僕たちは仲良し!」
「クラディスさんとは前にちょっとね?」
とエマさんが言ってしまったからちょっと心臓が跳ねた。
ユットロールさんとは初めましての体で進めてたんですけど。
「ああ、そうだ。ほんとうにそうだ」
ああ、もう、そういうことで良いや。
2人の身長が高いから足が浮いちゃってる状況で、僕はアハハと笑ってごまかした。
まぁ、詳しくは突っ込まれないだろうから……うん、大丈夫だとは思う。
「でも、総勢……ひーふーみー……8人で何をするんだ?」
「確かにそうだ。依頼が無いかもしれん」
「ギルドに話をしてみるが、バラバラに受けることになるかもな」
「それか同じ場所の違う依頼とかな。こんだけ鍛冶場があるなら材料調達も多いだろうし、そういうのはまとまってるもんだ」
「じゃあ、探してくるわね~」
各チームを代表してエルシアさん、アン、エマさんの女性陣が見てくることに。
残った男性陣+佳奈は鍛冶場の近くで邪魔にならないように屈んだり、壁にもたれたりしていた。
「魔法杖ってあった方が便利なの?」
なんて聞かれたので、レヴィさんに解説を求めた。本業の人に聞いた方が良い。
「もちろんだ、クラディスの姉」
「アルマ」
「悪い、アルマ。魔法の杖があることで魔素の伝達速度や効率が上がるのだ。例えば」
レヴィさんは手元に魔法杖を出してみせた。
「これはダンジョン近くの巨木で作られた杖で、何も持っていない状態で魔法を使うよりは放てる速度が少し上がる」──次は少し細い杖を取り出した──「これは細いが威力が上がる。体感にして倍だな。が、射程距離が落ちる」──次に取り出したのは一番大きな杖──「これが一番射程距離が長いが、魔素の消費量が多い」
「へー……」
「まだあるぞ。私のお気に入りはコレだ」
そう言うと、いつも持っている杖を取り出した。
「使いやすく射程も長い。魔素の消費量も抑えられている。私達のパーティーは人数が少ないから魔素消費量はとくに拘っている」
バテたら戦力がガクンと下がるからな、と。
「パーティーメンバーによっても変えた方がいいんだ……」
だから魔法杖を作る時に、人数や体力、立ち回り方とかを聞かれたんだな。
横で聞いていてなんだか納得をした。
「ちなみに、俺が持ってる武器は手元が木製なのもソレが理由だな」
ぬっと横からユットロールさんが出てきて、武器を取り出して持たせてくれた。
あ、僕をボコボコにした武器だあ、なんて言ったら嫌な顔をされるから黙っておく。
「ほんとだ……木製で」
魔素を込めてみると、吸い取られてるんじゃないかってくらい流れ込んでいく。
「そうか、エヴァーチェの団長は──」
「ユットロールな」
「ユットロールは魔法剣士だったか」
「ああ。一応、あんたの後輩だ。魔導士協会に入る予定なんでな」
「魔法剣士の枠に入ることは難しい。それだけ実力があるということなのだろう。だが、剣闘士協会じゃなくても良いのか? 四ノ柱の頭は魔法剣士だったと思ったが」
「スタイル的にそっちでも良いと思っていたが、どうも魔法適性の方が強くてな」
ユットロールさんは赤黒い目をしている。リリーさんとほとんど同じだが、どちらかと言うと赤みが強い気がする。
……ってか、そんな人なのに戦闘スタイルはゴリゴリの剣士タイプなのすごいな。
やっぱりこの人、手を抜いてたな。魔法とか全然使ってこなかったじゃんか。
「お二人は協会に入るんですねー、すごいなぁ……」
と佳奈が言うと、2人は少し不思議そうな顔を浮かべた。
「なんだか新鮮な反応をされたから驚いた。まぁ、そうか、すごいのか」
「俺はまだ入ってはいないがな」
「でもすごいですよ! 強い人しか入れないって聞きましたもん! もっと話聞きたいです!」
「ああ、なんでもいいぞ。何が知りたいんだ?」
「私に答えれることなら答えさせてもらおう」
おー、わかりやすく2人が乗せられてる。
佳奈はやっぱり僕より人付き合いが上手い。
あのレヴィさんがあんな饒舌に話すことって中々無いんじゃないか?
「クラディス、ちょっと良いか?」
すると、ムロさんから肩を叩かれた。
「どうしたんですか?」
クイと裏路地の方を指をさされた。なんだろう。ここで話せないことなのかな。
ムロさんの後について裏路地に向かう。
日陰に足を踏み込み、ゴミや鏡の破片が散らかっているその場所には野良猫や朝から飲み惚けてたのかゴォゴォ言いながら寝てる人がいる。
パックリと割れた渓谷みたいな路地だなー。
両隣が鍛冶場だからか、ちょっとカンカンゴンゴンと物音も煩いし。
「どーしたんですかー? まさか愛の告白とか──」
「お前、顔に出過ぎだな、やっぱ」
ムロさんは路地の奥で腰に手をあててそう言ってきた。
「なんですー? お説教ですか? そんなの前々から分かってたじゃないですか」
「ちったぁ直そうとは思わんのか」
「思ってもできないから仕方ないじゃないですか!」
珍しく注意をしてきたムロさんに冗談めかして反論。
どれだけ顔を変えるなと言われても、変わってしまうのだ。
驚くし、泣くし、笑うし。僕の体の中で一番発達してる筋肉は表情筋だろう。すーぐ反応するんだから。
「で、なんでそんなことを突然言ってきたんです? どこで顔に出てました? 武器の値段を聞いた辺りですか?」
「フィヨルを見てた時だよ」
「あー……まぁ、うん、はい……」
確かに、僕はあの人が現れたらあの人を視界の中心に収めていた。
「でも、だってあんな不思議な人が来たらそりゃあ見ません?」
「見すぎだ。あれじゃああっちも変に警戒しちまうだろ」
後ろ髪を掻きながら、唇を突き出してみせる。
怒られちゃった。ムロさんの言いたいこともわからなくもない。
「すみませんでした」
「次回から気をつけろよ?」
「はい……」
「いくら、アイツが転生者に見えたとしてもな」
「はい…………えっ?」
視界がパッと広がった気がした。
それは、僕が思わず顎を引いたからだろう。
いや、それだけじゃない。
一瞬にして体が戦闘態勢に入ったのだ。
「……ムロ……さん? え、あれ、なんで」
そんなことを言うんですか、という小さな声は、かんかん、ごんごん、と両隣の鍛冶場の音で掻き消された。
急にそんな話をする理由は。
それをわざわざ場所を選んで言った理由は。
さっきまでの楽しかった日常が、今のコレを否定しようする。
自分の体温が上がった。
頭がフル回転する。
それはムロさんを敵だと判断したからだ──と、それを否定しようとしている。
(いや、でも、別に冗談というか、そういうのは昔もあった。友達に言う殺すぞとか、そういう感じのトーンだし、だから、別に変なことじゃ──)
「あ? んだよ。なんでそんな話をすんだって?」
「は、はい。だって、まぁ、たしかに珍しかったですけど……あはは」
冷たい汗が背中を伝う。
僕を見下ろしているムロさんの顔が、いつもより怖く感じた。
あれ、こんな顔してたっけ。
もっと、優しい顔……だったと思うんだけど。
「別に、そんなにいうほどでもないというか。こんな場所を選んで言うようなことじゃ、ない……気がするんです」
「まぁ、普通はそうだわな」
「で、ですよね! なんだあ、ビックリしちゃったじゃないですか」──普通は、って、なんだろう。僕は普通じゃないってことなのかな。「じゃあ、ぼく、もう戻りますね」
こわい。
こわくてたまらない。
「けど、お前さぁ、分かってんだろ?」
「……なにがです? 僕、馬鹿だから分からないかもですね。ほら、行きますよムロさん──」
ご機嫌を取るような声色で。
縋るような声色で。
ごまかすような声色で。
そんな僕の不安を突き刺すように、
「──お前、転生者だろ?」
ムロさんは目を細めながらそう言った。




