489 タルトパパ
「お前さんの武器と防具、おもれぇ奴を付けてるな」
そんなことを言われたのは、武器や防具を作る際の採寸の時の話。
作ってもらうのは双剣だけのつもりだったけど、エヴァーチェがお金を出してくれるって話だったので、お言葉に甘えて僕たち三人の武器や防具を作ってもらうことになった。
僕は双剣と短剣を数本。これは投擲用。あとは普通の強化繊維を盛り込んだ衣類。
アンは拳殻。装備は体の負担を軽減するために関節を護るように設計された衣類。
佳奈は死霊術士だから何がいいのかわからなかったので、魔法杖を購入。防具は要らないのだと。死んでも死なないから大丈夫~って言っていた。兄としてはそうホイホイ死んでほしくないんだけどなぁ……心臓が持たない。
そうしていると、既存の防具と武器を見せてみろと言われたので出した。
すると、「おもれぇのをつけてるな」と言われたわけだ。
「強化繊維を盛り込んだ服っつーから良い所に目をつけるなとは思ったがよ? お前さんが服の下に来てるコイツぁ、この街の技術で作られた装備だ。が、ちょっと造りが甘い、もうちっと改善の余地がある。どこで買った?」
「えーと、ここでは買ってなくて。デュアラル王国のタルトさんって方が作ってくれたんです。専属の防具屋さんで」
「タルト? おめぇ、そりゃああのタルトか?」
「女性で鉱人の瞳がきれいな」
「なーんだ! タルトの知り合いか! アイツはワシの娘でな」
お、お? おーーー、あーーーたしかに似てる。
目とか、くりくりしてるもん。奥様の方も似てるなぁ……なるほどなるほど。
「タルトってことは、あいつもいんだろ」
「トニーさんですか?」
「ああ。そうだそうだ。アイツは筋が良い。フィヨルの世話係だったんだ。抜け出して行ったがな」
たしか2人ともこの街の出身って言ってた気がする。
で、この強化繊維の服はまだ試作段階。表にも出せていないモノを僕が無理くり言いくるめて使わせてもらっているのだ。
防具ってね、重たいんですよ。つけたほうが良いのはそうなんだけどね。
「元気にやってますよ。路地裏に店があるから、客がこないって嘆いてました」
「鉱人だから穴蔵みてぇな場所がすきなんだろ」
「あはは、そうなんですかね」
あの場所は確かトニーさんが選んだか何かって言ってた気がする。
故郷に似た造りにしたかったのは、案外トニーさんなのかも。
「なんだぁ、そんなことなら早く言えばよかったのによぉ。アイツらの装備の確認もさせてもらうかな」
預かるぞ、と言われたので僕とアンの昔に着ていた装備を渡しておいた。
代わりに何か貸し出されるかと思ったけど、特別そういうことはなかった。
「お時間、どれほどかかりますか?」
「依頼を数件受けてくりゃできとるわい。金払い良し、材料も高級、文句なし。最高の客だからな。優先して作らせてもらう」
「良いのかい、武器を大量に用意しろって上からのお達しじゃあ」
横で聞いていた奥さんらしき人がそう聞く。
最初になんかそういうの言ってたな。
だけど、タルトパパはフンッと鼻を鳴らした。
「国ってのは職人を下にみてんだよ。実現不可能な速さで武器を作れだの、防具を作れだの。生意気な態度を取ってやらにゃつけあがっぞ」
職人さんはどの世界でも重宝されながら過酷な労働を強いられてるらしい。
だからここまで発展してるんだろうし、弟子入りが多く来てるんだろう。
ちらっと聞いた話、この街はほぼ独立国のような扱いになっているから、南のペネロ王国と東のデュアラル王国がお互いにこの街を保有させないように牽制をし合ってると聞いた。
森の所有権を渡しながら、有利な条件を取り付けたり。
ここらへんも前の世界と変わりないな~……。怖い怖い。
「じゃあ、武器と装備だな。しばらくかかるからまた立ち寄ってくれや」
「分かりました。皆の分も追加で頼んでしまって申し訳ありません」
「いいってことよ。客が職人を選ぶが、職人も客を選ぶんだろ? 俺が選ぶんだ。誰にも文句は言わせねぇし、俺自身も文句はねぇよ」
最初はちょっと難しい人かと思っていたけど、どうやら打ち解けられたようだ。
僕は手を出した。握手を求めたのだ。
鉱人さんは目をパチクリとさせ、おずおずとその手を握ってきた。
「……強い手をしてる」
「そら、金槌ばっか握ってらな」
ごつごつした戦士の手とはまた違った手。
頑丈で、岩のように固く、でも弾力はある手。
「頑張ってください。楽しみにしてます」
「……嬢ちゃん、名前は?」
「クラディス。クラディス・ヘイ・アルジェントです」
「クラディス。わしン名前はマレウスじゃ。よろしくな」
タルトさんのお父さんと知り合いになった。世間は狭いな。




