487 映像記録媒体
クラディス達が武器や防具の話を進めている場所から少し離れた所では、アサルトリアの面々が赤髪の鉱人と意見交換を行っていた。
以前依頼を受けた魔導具の使用感などを話し合い、改善点を上げていく。
前回は四輪駆動の荷車。そして今回はコレ。
「まぁまぁだな、悪くない」
鉱人は空中に映し出されているソレを見上げ、腕を組む。
「ちょいちょい忘れてる所があったからそこの記録は無いが、一応は最深部までの記録は残ってるはずだ」
「なら良しだな。記録は最初の条件の元、ギルドに渡されることになるが良いか?」
「問題ない。元よりそのつもりだったしな」
それは映像だった。
アサルトリアが上位迷宮を攻略するときの映像が第三者の視点から映し出されている。画質などはもちろん良くはないし、コマ送りのような粗さもあるが、それでもどのようなモンスターと戦い、どのような連携で勝利を収めたかがしっかりと収まっている。
そしてその映像を出しているのが、球状の映像記録媒体だ。
「それにしてもこんなもんまで作れるとはなぁ……」
「ね、原理が分かんないや」
「わかっても作れはしないだろうがな」
「たりめぇよ。だからまだこれは市場には流れんわな。まだまだ重い、色々とな」
魔導具に手をかざして映像を閉ざすと、向かいの通路から女鉱人が歩いてきた。
「でも上位ダンジョンでも無事に動いたんでしょ? だったら耐久力も大丈夫ね」
「んだな」
そんな夫婦の話を聞き、頬杖を突いていたムロは問いかける。
「これを急ごしらえした理由はアレが近いからか」
「そうだ。まぁ、俺等側にはそこまで情報は流れてこなかったがな」
ムロはへーンと変な相槌をうち、机の下の足を組み替えた。
アサルトリアが上位血盟になるために各地を奔走をしていた時期に、各国が用意をしていたことがある。
それは、領土戦争。領地を奪い返すための戦争が再び行われるのだ。
そこでこの映像記録媒体が活きてくるのだという。
「土地や気候が変わっている可能性があるもんで、それを記録として残せるのと残せれないのでは何倍もやりやすさが違うわな」
「ルートもそうだな」
「もちろんだ。以前使った道は使えんだろう。何十年と経っとる。こっちが準備をしてる間、あちらさんが寝ぼけておってくれるわけでもない」
「となると、そろそろ先遣隊の情報が出てくる所か」
「募集はかけてるらしい。張り出しもされとるんじゃないか?」
先遣隊は先んじて領地の情報を収集する部隊のことを指す。
斥候などが主に名乗り出るのだが、それ以外の職業の者も名乗り出ることが可能。
報酬は良いが危険度が高い。前回は死傷者も出て、壊滅した隊もいるほどだ。
「前とは違う所が多いだろうから、そこらへんは分かりかねるな。おそらくだが、戦争に向かう人数も多くは選ばれないんじゃないのか?」
「転生者、か。が、人数は力じゃ」
「力でも維持できねぇと意味がない。飯を食って、便を出す、怪我もするし、風邪も引く。そう簡単じゃない」
うーむ、と鉱人は腕を組み直して唸った。
「まぁ。ここであれこれ言った所で変わりねぇから仕方がないんだがな」
その時に入口の方から人が入ってくるのが見えた。
鉱人に挨拶をして、そのまま奥の通路に行こうとしている。その人物の背丈は鉱人にしては高く、只人のようにしか見えない。
(ドワーフの工房に只人がいるのか)
ムロがふいとそれを目だけ追おうとすると、その人物も気になった様子で見ていた。
「あーーーーー!」
冷静そうな面持ちからは考えられないほどの大きな声が出て、目が点になった。
というか、急に大声で叫ばれたらそりゃあ誰でも驚く。
「それ! どうでした!」
「……どうって」
「フィヨル、落ち着かんか。使用感は聞いといた、後で共有するわい」
「なんだ、そっか、なら楽しみにしてますね」
その人物は興味が無くなったのか、荷物を抱えたまま奥の通路へ。
鍛冶場にしては身綺麗で、只人。衣類も汚れが目立ちやすい白衣。
「……」
「気になるか?」
ムロの視線に気づいた鉱人は、机の上に出していた道具を片付けながら。
「アイツの名前はフィヨル。お前さん達に依頼した四輪駆動の荷車を作って、これの原案も作った只人さ」
「フィヨル……聞いたことねぇ名前だな。ただ、べっぴんだなと思ってよ」
その言葉に横のエルシアがムッとした顔をしている。
「アイツはずっと物作りばっかしとるんだ。名前も覚えられず、顔も知られず。武器やら装備に関してはめっきりダメだが、魔導具を作るのが上手い」
「ふーん」
「まあ、また近々依頼をするじゃろう。その時は頼むぞ」
鉱人と握手をし、意見交換の場はそこで終わった。




