485 鍛治の街:フェルム・アウトポスト
あの飲み会が終わってから数日後、エマさんが到着をしたということで僕たちは目的としていた場所に行くことになった。
「それでどこに行くんです? 鍛冶の街、でしたっけ?」
「ああ。ペネロ王国と公爵領の真ん中くらいに鍛冶の街があんのさ。フェルム・アウトポストって言ったりもする」
「へー……」
地図は頭に入れてるつもりだったけど、そんなの書いてあったっけか。
「元々は鉱人の集落だったんだけど、それが各国からの支援があって大きな都市になったのよ」
(工業都市みたいな感じか……?)
「でも、フェルム・アウトポストじゃあ『田舎』って意味になるから、フェルムだけで呼ばれるのがほとんどだな」
「はー……」
異世界の工業地帯。その名はフェルム。なんか渋そう。
まぁ、この世界普通に銃火器あるし。そんなモノがあるなら硫黄やら火薬はあるし、そうなったら鍛造、鋳造、金属加工はお手の物か。
ガラスとかも当たり前にあるもんな……異世界ってすごいなぁ。
そうおもっていると、ヒラヒラと手が視界に入ってきた。挨拶がまだでしたか。わ、すごい照れくさそうにニコニコしてる。
「エマさんお久しぶりです」
「ええ! お久しぶり、クラディスさん」
お久しぶりのエマさんの登場。握手をして、お互いにぺこと頭を下げておいた。
淡い黄色の髪はあっちこっちに伸びているがそれであってキレイにまとまっているという不思議な髪型。表情は冷たいお姉さんといった顔をしているが、面倒見が良いのを僕は知っている。
赤いローブは胸の上で結ばれているのは胸元がきついからだと聞いた。たしかに鎖骨よりちょっと下まではだけている黒服からこぼれて落ちてしまいそうなほど大きい。アイリスのときの僕よりも大きいからかなり立派な胸をしている。
「下位ダンジョンクリアおめでとう。さすがね」
「いえいえ、ありがとうございます」
「むしろクリアはとうの昔にしてるもんだと思ってたけど」
「全然です。それにエヴァーチェも準上位血盟入りが確定したようで」
「いえいえ、実力ですので」
お互いに荷馬車の中でペコペコと頭を下げ合う。
エマさんってもっと高飛車なお嬢様かと思ってたら、全然普通の人なんだよな。
でも、ユットロールさんは彼女に頭が上がらないと団員から聞いた。この世界の女性は強いからなー、苦労してそう。
「クラちゃーん。女装の準備は良い?」
うげ。そうだった。
エマさんが横で「じょそう……?」って小さく返してる。
「……まだ、その話あったんですか?」
「ったりめぇよ! なぁ! エルシア!」
「たっくさん買ってきたわよぉ!」
収納袋をパンッと叩いてそういうエルシアさん。
僕の方で買ってみたのに。それで制することが出来なかったか。
くそ、みんなの前でそんな恥ずかしいことを……。
「良いですね、顔が良いから似合うと思います!」
「でしょ! さっすがクラちゃんのお姉ちゃん! 弟の魅力をよく知ってる!」
いつの間にかアルマとエルシアさんが意気投合してるし。
「でも、大きくなってるからなぁ。成長期、おそるべし」
ズイッと近づいてきて肩周りチェックをされた。
「ん〜……んっ! サイズは多分合うとは思う! 着いてからのお楽しみだ!」
そんなことを言って、そこから数日間は荷馬車での旅をしていた。
空き時間には、ユラさんからもらった紙の解読を進めていく。
(音声を届ける魔法。原理は……やっぱり上級魔導書に書かれてる内容ばかりか。そりゃあそうか)
ティエラリードさんの魔導書を股の上に広げ、うーんうーんと頭を捻らす。
レヴィさんに聞いてみてもいいけど、こういうのは自分で解決したい。
エリルさんも静かにしておいてね。自分の力でやってみたいんだ。
「……もうちょっとで解けそうな気がするけど、考え方が違うのかな」
魔法陣に描かれた文字は解読完了。何が書かれてあるのかはわかった。
これは転移魔法の応用だ。
声を届けるために、魔素の情報保存を活かしてる。
(よくこんなこと考えつくなぁ……)
電波信号に置き換えて言葉を届けるのではなく、魔素に置き換えて届ける。
そのために、転移と同じ原理で声を特定地点に飛ばす。
複雑な魔法陣だ。魔素の消費量がとんでもない。
でも、これ宛に情報を飛ばすから、この魔法を使ったらユラさんに届く、と。ここらへんがユラさんの情報なのだろう。個体番号みたいなのが記されてる。自動で人を識別する番号でも振るように仕組んでるんだろうか。
でも、ユラさんはこれは未完成だ、と言っていた。
欠けてる部分があるのはそうだけど、全体的に満足行ってないのだろう。
「僕の方でいろいろ付け足してみるか」
人の書きかけの絵を完成させるみたいなもんだ。ユラさんが何を考えて、何を求めているのかを理解しないとダメだ。
通信魔導具を持っていなくても、特定の個人との連絡が出来るように。
そしてなおかつ魔素消費を少なくする。
あと付け加えられるのは……安定性を増すために既に書かれている文字の補填、定義付け、転移魔法の分野の文字と……そもそも受け手側に魔法陣を届けた後、同じ魔法陣だった場合は常に一方通行になるから双方向にやり取りができるようにしないとか。
じゃあ、えーとこの本で言うと……512ページの転移魔法のページから──
(ああ、ちょっとたのしくなってきた)
時間がある時はもらった紙をベースに魔法陣を考え、効率化を求めていった。
だけど、それよりも早く鍛冶の街に着いた。さすがに道中で完成はしなかったか。
「ここより少し南に行けばすぐにペネロ王国だな」
そこは鉱山地帯の付近に形成された都市。
山に囲まれていて、地形に沿って建造物が造られてる。
面白い場所。街によって色が違うんだ。
「それで、クラディスは今日一日はその格好なのね」
「エルシアさんの気分次第です……」
僕の今の格好は、女の子の服でもどシンプルの「ワンピース」だった。
ふりふりしてて足元が落ち着かない。下着まで用意されていたが、さすがに男物を履かせてもらうことにした。あんなスケスケの下着を履きたくはない。
「眼帯も花柄のを用意したから、どう? 男ども。クラちゃんは可愛いでしょ?」
「……感想なんていいですよお」
「ダメよ! こんなに可愛いんだから!」
男の皆さんに見られるのが嫌で佳奈の後ろにこそっと隠れた。
「え、ダメだよ! クラディスくんっ!」おい、佳奈やめてくれ。本当に、本当に!「勿体ないって! 私の妹ちゃんの姿は皆の共有財産なの! 私も自慢したいから!」
荒い鼻息の佳奈は僕の肩を持って前に押し出してきた。
「あーー…………」
本当にやめてほしい。本当に、やめて。
でも、拒んで空気を悪くするのも嫌だし。
もう、されるがままだ。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ……。
「可愛いと思う」
真顔でそんなこと言わないでくださいレヴィさん。
「幼い顔だから似合うな。鎖骨あたりが男っぽいが、それ以外はお嬢さんだな」
そんな感想だれも求めちゃいないんですよユットロールさん。
「良いんじゃね? 早く行こうぜ~」
それはその反応は腹立つので腰に突撃しておいた。
もっと褒めろ! 恥ずかしいんだから!!
「それにしても鉱人さんに会うの初めて──」じゃない気がした。どっかで会ったことあるっけ。あぁ、スケアのパーティーの人だ。それにタルトさんも鉱人だった、ごめんなさい。「じゃないけど会いたいなー」
「なんだそら」
「アサルトリアの人らはここに来たことあるのか?」
「昔にな。武器なんかそうそう壊すもんじゃないし、防具の新調もメンテナンスだけで良い。それくらいなら他の防具屋でもできる」
「それ以外の別件で来たことがあるんだよね~」
「依頼でな。今回もその件だ。新作の魔導具の使用感を直接聞きたいんだとさ」
話ながら着いた場所は鍛冶屋の中でも立派な所だった。
え、ここで……? すごくお金かかっちゃうんじゃないの?
わっ、ユットロールさんとエマさんの顔が渋くなってる。




