483 強さの秘訣
「ちょっと話があるから、表に来い。レヴィ! エルシアの面倒頼んだぞ!」
ムロとクラディスらがギルドから出て行った。
それに気づいていたものはごく少数。盛り上がりは衰えず、大勢の耳にはその大声は入らなかった。
反応を示したレヴィくらいじゃないだろうか。それか、ムロのことをずっと意識していた人物がいればそれも当てはまるだろう。
「レヴィさん。マーシャルさん達が呼んでましたよ」
レヴィの元にジョッキを持ちながら歩いてきたのは、以前の新規血盟員の募集期間で加入をした紫髪の男。
目尻にある涙ホクロが特徴のムロのファンである。
「マーシャルが?」
レヴィは少し落ち着きだしている血盟主を見やった。
酔ってるマーシャルなら大声で呼びつける、わざわざ人を遣わすだなんて。
それこそよほどのことがない限り無いはずだが。
「内容は分からないですが、もしかしたらエヴァーチェの団長がいたから同盟の話とかなのかも」
「同盟……?」
「ティータの団長と話し込んでるみたいで……でも、酔ってるからまとまってなくて。レヴィさんくらいじゃないですが、酔ってなくて発言力があるの」
僕は見ての通り、とその男はジョッキの中身を空にして見せ、陽気に笑った。
「はあ~……わかった。ちょっと行ってくる。その間、エルシアを止めてやってくれ。すぐ暴れるから」
「分かりました、任せてください」
通り過ぎていくレヴィから視線を切ると、腕相撲大会で疲れたのか大人しく椅子に座ってるエルシアの横に座った。
「エルシアさん、大丈夫です? 水とかいります?」
「あー、ダイジョーブダイジョーブ。気持ち悪い訳じゃないの、ただ疲れただけ~」
「あれだけ腕相撲したらそうなりますよねー……、僕も負けたし」
「んぉ、あ、なーんだツコルくんかぁ……もっと鍛えたまえー、なーんて」
アハハと笑いながら、横にいる男性の背中をバシバシと叩いた。
「エルシアさんはいいなぁ……ムロさんといっしょに旅が出来て」
「んぅ? なんだい、やきもちかい~? いいだろー」
「羨ましいです。あんな大エースと一緒に旅ができたらなぁ……」
背筋を伸ばす青年にエルシアも上機嫌になる。
クラディスにも説明をしていたが、彼女はムロとレヴィという二人組に新人の枠で加入をしたのだ。
最初は様子見のつもりだったらしい。ムロもレヴィも戦い方に癖があるからと。
だが、エルシアは器用貧乏の職業のローグであるため、うまい具合に補填をしてパーティーとして形となった。
そうして何年か経って、いまだにパーティーは解散しないままアサルトリアの最前線を走っているのだ。
「ツコルくんはムロのことが気になってるんだっけ? それで加入したんだもんね」
「ですです。でも、中々話す機会も無くて、ぼくの方も依頼であちこち走り回ってますし」
「パーティーのことだったらマーシャルさんに掛け合ってみたらー?」
「いいや」
青年は首を横に振った。
「僕はエルシアさん、レヴィさん、ムロさんの活躍を見てるだけで満足なので」
胸を張ってそういう後輩に、むふ、とエルシアの口角が緩んだ。
この後輩じみた彼はあくまで「エルシアとムロ、レヴィがお似合い」と言っているのだ。そんな言葉を向けられて嬉しくない訳がない。
「だから、ムロさんの話をたくさん聞かせてください。あの強さの秘訣とか!」
「おーおー! いいとも! 何が聞きたいんだい?」
「もうなんでも良いです! どんな感じで闘うのか、気をつけてることとか……えーと、あと、ムロさんのパーティーが治癒士がいない理由とか気になってますし」
「お、いいところに目をつけるねぇ君ィ」
「いやこの前、血盟の会計の人がポーション関係の出費が激しいって嘆いていたから、もしかしてエルシアさん達が全部ポーションで代用してるのかなーとか思って。でもさすがにソレなら治癒士も入れられるしーなんて色々と考えてたんです」
──カチッギィと椅子が軋んだ。
エルシアが話すためにツコル側に体を向けたからだ。
「ふっふふっふ。教えて差し上げましょう。私達のパーティーに治癒士がいない理由を!」
「うわーい!」
上機嫌にエルシアは話しをし、ツコルは興味津々に頷いていく。
なんでムロがあんなに強いのか。
治癒士がいない理由。
超攻撃型のパーティーでも負傷者が出ないまま来れた理由。
それらの話は、レヴィが戻って来るまで続いた。
「あ、レヴィさんだ。どうでした?」
「同盟を結ぶのは辞めておけと伝えておいた。上位血盟が準上位血盟の2つと同盟を結ぶのはさすがにな」
「あはは……影響力が大きくなりすぎるといろいろと面倒ですもんねー」
ツコルは同意を示し、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、エルシアさんの介抱が終わったのでぼくはまた飲み直してきます」
「んだとぉ、介抱だとぉ! こらあ! 人を面倒な奴みたいな言い方でぇ!」
不服だとばかりに拳を机に振り下ろしたエルシア。
机の端においてあったツコルのジョッキが地面に落ちて行く。
「あ」
「わ」
──ガチャーン!!
「わーーーーー、ごめんん……割っちゃったぁ……」
「破片で怪我してません? ちょっと拭くモノ持ってきますね。あと謝ってきます」
後輩らしく後始末をしようと厨房の方に向かうツコル。それを手を小さく振って見送るエルシアにレヴィはげんこつを食らわせていた。
「エルシア、酔いすぎだぞ」
「いてて。楽しいことがあったら飲まないとでしょー」
それを今更咎めるつもりはないが。
「アイツと何か話したのか?」
「んー? ムロが強い話とか、レヴィの髪の毛がさらさらな理由とかー、髪の毛の手入れに興味があるんだってさ」
「そうか」
レヴィは厨房の店主に話をする彼の姿を見つめる。
「なら良い」




