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479 ハートレイ邸とお別れ


 白金等級になった日から何日か経ったある日、アイリスは帰ることになった。

 さすがにクラディスとアイリスの二人で過ごすのはかなり厳しい。

 リリーさんが上手く話してくれるという体でアイリスは帰国。


「帰られるのですか?」


「あ、侍女頭さん。別件が急遽入ってしまったので」


「そうですか。残念です。ハートレイは貴方様ともっと戦いたいと仰ってました」


「私もそうです。よろしくとお伝えください」


 帰るフリをしようとしたところに侍女頭さんがやってきて少し話をした。

 ぺこと頭を下げられたので、僕の方もしておいて帰っていった。

 そして、次の朝にクラディスが別件を終えてハートレイ邸に戻るという体なので、服を着替えて戻っていった。


(はぁ……二足のわらじも大変だ)


「おかえりなさいませ、クラディス様」


「あ、どうも」


 侍女頭さんか。びっくりした。


「依頼はどうでした? ティータもお忙しいのですね」


「そうですね。入りたてだから一番コキ使われます」


「……大変そうで」


 この人……なにか勘づいてそう。

 覇軍の隊長って言ってたもんな。

 おそらく総隊長と部隊長の違い。ハートレイさんが総隊長で、この人が部隊長。

 それでも実力は本物なのだろう。……アンが警戒する理由も分かる。


(何を考えてるか分からない人だ。ユラさんと友人と言っていたし……似てるもんな)

 

 ピンク色の長髪を一本の三つ編みにして束ねていて、目は開いている所を見たことがない。

 ハートレイさんと同じで目をほとんど閉じたまま話をしてくるから、見えているのかと気にする。

 まさか、この人も白色の瞳をしていて……なんて考えすぎか。


 アイリスが帰ってしまったので訓練にも参加ができなくなった。

 から、ユットロールさんやアンと模擬戦闘をして時間を潰すことにした。

 覇軍の皆様が混ざろうとしてきたので丁重にお断りをしておいた。戦い方でバレるのは避けたい。

 

「あ、クラディスくーん!」

 

 すると、アルマがハートレイ邸にやってきた。横には疲れた顔のリリーさん。


「クラディスくーん! ひさしぶりー!!!」


「ウォラッ!!」


 突撃しようとしてきたアルマがアンに突進をされて、スッテンコロリンと横転。

 

「その意味の分からない二つの脂肪の塊を撤去してもらえ!」


「ぐぅぅううっ……」


「アルマ姉さん。お久しぶり」


「う、うん。久しぶり……あはは。アンちゃんも久しぶり」


 アルマはチラと他の大人達に目を向けた。

 さすがに他の人がいる前だからな、気を付けてもらわねば。

 

「王都とここの往復は着かれるぞ……」


「お疲れ様です」


 腰を労るように擦るリリーさん。

 王都からここは一週間もかからないが、それでも何往復もしたら疲れるだろう。 

 特にアルマに関しては一人で歩かせる訳にもいかないから直々に迎えに行ってくれたみたいだし。


「リリーさんは働き者っすね~」


「おたくの血盟主は尻がでかくて重たいからな」


「言うとくっす」


「怒られたらムロが言っていたことにするよ」


 けらけらと笑いあう2人。

 ムロさんとリリーさんって仲いいよな。

 

「アサルトリア(うち)はもう揃ってるらしいっすよ」


「そうか。なら、そろそろここも失礼するかな」


「やあ、帰るのかい?」

 

 ハートレイさんが奥から登場した。

 途中から姿を見ないと思ってた。貴族様は忙しいから仕方ない。

 

「ああ、ハートレイ。世話になったよ。忙しいのにすまんな」


「いや、面白いことがたくさんあって楽しかったとも。それで……アイリスくんは先に帰ったのかな?」


「アイツは人気者だからな」


「仕事が落ち着けばまた手合わせを願いたいと思っていたんだが」


「またどっかで会えるさ」


「そうだな、また連れてきてくれ」


 ハートレイさんは初日の戦闘から僕のことを気にかけている様子ではあった。

 おかげで魔素を使わなくても遠距離攻撃が出来るようになった。もうちょっと技術を見せてもらいたかったっていうのは本音だけど、さすがにわがままを言うわけにもいかないしなぁ。


「アイリスって誰だっけ……?」とムロさんが僕に耳打ちをしてきた。


「国定魔導士です。賢者で。館に来た時にいませんでした?」


「あー、あいつか。エロい体の姉ちゃんな」


 気まずい。

 そう思っていると、アンがニヤていた。

 目が合うと頑張って顔を引き締めてた。

 この子はほんとに……。


「では、アンくんもまた会おう」


「二度と会いたくはない」


 そういうと横の侍女頭さんが拳を振り上げていた。

 

「……まぁ、気が向けばな」


「そうか、気が向くことを期待しておこう」


 というと、目線が僕に向き、微笑んできた。

 クラディスの体になってからはろくに挨拶もできてない。会釈だけで済ましてすみません。

 アイリスの方でご挨拶したから大丈夫ですよね? ダメかな……。 


「ではな、領地内で飲み食いをする時は騒がしくしないように頼むよ」


 ハートレイさんが館に戻っていくと、大人たちが適当な挨拶をし始めた。

 覇軍の皆さんと大人の社交辞令をしてるようだ。


「あるじ、アイツ気がついてませんか……?」


 すると、アンがこそっと耳打ちをしてきた。


「うーん」僕がアイリスってことの件かな。「見抜かれてるような気もするし、どうなんだろう。貴族の人はそういうの得意そうだし」


 最後の微笑みとかもちょっと意味深ではあった。

 けど、そういう素振りは見せてなかったし。僕が転生者だと知ってたらあの人達も殺しにかかっていただろう。

 とくにリバーさんは知らないみたいだったしな。


「……あとあの侍女頭(おんな)も何考えてるか分からないですし」


「そうだね。僕はあの人の方が怖いと思う」


 姿がバレている可能性があるとするなら、あの侍女頭さんだ。

 ユラさんと知り合いで、アイリスと僕が入れ替わりのタイミングを把握しているかのように見送って、出迎えてくれた。

 

(優秀な侍女頭さんだ……という認識で良いんですかね?)


 まぁ、変に言いふらさないだろうからそこは心配はしてない。

 けど不安ではある。悩んでも仕方がないことではあるけど。


「おら、行くぞ。オマエに会いたくて死にそうな奴らが2人いんだからよ」


 グイッとムロさんが肩を回してきた。


「死にそうって……」


 歩くペース早すぎなんですって、転けそう転けそう!

 アンが「おいこら」って言いながらムロさんの後ろ首を掴んで、その反動で僕の体はひょいと投げられた。もーーー。


「気安くあるじにさわるな赤茶モジャ髪」


「うっせぇぞ、親離れできねぇガキンチョ」


「なんだと?」


「ンだよ」


「はいはい喧嘩はまた今度。お貴族様のトコでやらないでください」


 この二人はなんでこうも喧嘩っ早いんだ。

 喧嘩の仲裁をしてもまだグルルルと唸ってる。


「あ、そーだ。ナグモさんやペルシェトさんは来ます?」


「いえ、遠慮しておきますよ。リーダーがいなくなったので仕事がたまっていて」


「私とナグモさんのどっちがリーダーになるって話もまだ終わってませんもんね」


「なりたくないですからね」


「わかりますー……絶対に嫌だ」


「そんな訳で、私達抜きで楽しんできてくださいな」


「また誘ってくださいね~」


 ということで、僕たちはハートレイ邸を離れて領地内の食事処へ向かうことになった。


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