476 飛び級とはこのことか
ユットロールさんの降参によって、試験は終了した。
アンとムロさんの結果がわかるまでは待機らしい。
手持ち無沙汰から短剣を振り回し、手首に乗せ、指先でクルクルと回した。
(あの時、ハートレイさん相手にしたような動きをしたかったのにさ)
不発で終わったのがどうも悔しい。
魔素を使わない飛ぶ斬撃とかも披露したかった。
なのに、ユットロールさんがさぁー……。
「むっすぅって顔をしてますね」
「手を抜いたからです。……全力で戦ってもらいたかったのに」
「はあ~……クラディス様はほんと転生者ですね」
「なんだよお。禁句だぞそれ」
大きな手で撫でられたので、叩いておいた。さわんな!
「単純にクラディス様の成長速度が早いだけですよ」
「この前も負けたばっかりなのに?」
「誰に負けたんですか?」
「……黒薔薇の守護者……って分かる?」
「ああ。転生者の。……え、会ったんですか?」
「たまたまね」
目をパチクリさせてる。
やっぱり年代的には知ってるのか。
「転生者の中でも戦争の頃の生き残りはそりゃあ強いでしょう」
「負けても当然じゃあ通用しないからね」
立てていた膝を抱き寄せた。
「僕は守りたい人が多いから。冬山のみんなも、ユットロールさん達もね」
「……思い詰めすぎですよ、クラディス様」
「そんなことを言われてもさ。たくさん考えることがあるんだもん」
「でも、死にそうな顔をしてる人に誰も着いていこうとは思いませんよ。人を束ねるならば余裕がないと」
「いつ殺されるか分からないんだ。明日かもしれないし、今日かもしれない」
ユットロールさんの股の上によいしょっと体をうずめた。
何故かしらんけど、抱きしめようとしてきたユットロールさんの手を弾く。
そういうのじゃないやい。
「監査庁が本格的にこの国にも手を出そうとしてきてるんです。そうなったら、僕はこの国からも出ていかないといけない。黒薔薇の人のように山奥にひっそりと過ごして死から全力で逃げないといけない。僕には時間がないんです」
「リリーさんから聞きました。アイリスとして参加したんですね?」
ナグモさんが顔をのぞかせてきた。
「……はい」
「ならば、ハインストが冒険者から脱退したってことも?」
「聞きました」
「え。本当なんですか、その話……」
「ハインストは監査庁に加わった。フーシェンもそのうち入ると思う。ロバートにも誘われた。こっちに来ないかって」
あのロバートの手の感触がまだ残ってる。
洗っても洗っても落ちないんだ。気持ち悪い感覚はやっぱり残るものだな。
「あの日から、どうしたらいいのか分からなくなりました。もっと強かったら、選択肢が色々と選べるのに。今は隠れてることしかできないんだ」
問題が片付いたかと思うと、また新しいのが出てきて立ちはだかる。
そして、その度に突きつけられるのは自分の実力不足なのだ。
「とても、もどかしいと思うよ」
一振りで山を削るチート転生者だったらこんなに悩まなくて良かった。
敵のスキルを奪って成長をする転生者だったら、もっと強くなってるし。
鈍感な転生者なら、あれこれと考えて辛くなることだってなかったろう。
「あー! つらい! つらいつらい!」
そう言い、後ろのユットロールさんに頭突きした。
顎にクリーンヒット、後ろに倒れたので、僕もそのまま腹の上に倒れ込んだ。
「ならば、クラディス様は仲間を獲得しないとですね。アイリスとしての活動もしっかりとしながら、クラディスとしても多くの人間と触れ合って縁を濃くしておく必要がある」
「結局それかあ~……リスク大きいですよね、でも」
「若いですからね。目立つ目立つ。ねぇ、団長さん」
「目立つなぁ……若いってのはそれだけでも。最近は転生者の話が再熱してるから目に入るだろうしな」
どうしろってんだ、全く。嫌になってきたぞ。
「そこでです! 中位ダンジョンに挑戦してみませんか?」
「……話聞いてました?」
満面の笑みのナグモさんに呆れ顔を返す。
何いってんだこの人。
目立ったら危ないって話の部分が耳の横でもかすめたんですか。
「おーい! こっちも終わりましたよ~!」
「お、どうでした~……って」
「おう、ボコボコにしたぜ。これで負けたって汚名はなくなったな」
ムロさんがアンを担いでやってきた。
「こいつ……闘技場の時は手を抜いてやがりました……」
「当たり前だろ。ま、ちょっと大人気なかったかな?」
胸元にぶら下がっている蒼銀等級の認識票が自慢するように跳ねてる。
アンが地面に降ろされたので、ズルズルと引きずって僕の膝の上で寝かした。悔しそうにムロさんを睨みあげてる。
大人気なく煽ってるムロさんの顔、すごいな。めっちゃ嬉しかったんだろうな。
「では、ペルシェトの方からの判定も聞きましたので結果をお話しますよ~」
ぱんぱんと手を叩く、ナグモさん。
「はい総合結果ですが、まぁ合格です。おめでとうございます」
「わたしは負けたんだが……?」
「格上の冒険者に勝つのがおかしいんです」
ユットロールさんに変な目で見られた。こっち見んな!
アンタが手を抜いたから! 僕がおかしいとかそういう話ではないでしょ!
「では、認識票をお渡ししましょう~」
ペルシェトさんから小さな箱──それこそ結婚指輪とかが入ってそうな容れ物──を渡された。
「すごい丁寧に入れられてますね……下位冒険者の時と違いすぎません?」
「中位冒険者になったから当然ですよ。ささ、中を確認してください。入れ間違いがあるかもしれませんから」
入れ間違いって。下位冒険者から中位冒険者だから銀から金に変わるだけだよな。
じゃあ、箱を開けてあるのは金色で。それ以外だったら入れ間違い……って。
「ん~?」
これって、金? 光の加減? 僕の影がかかってるからかな。
ちょっと白っぽいんだけど。
「あのー……色が違う気がするんですが」
「うん? 合ってますよ?」
「いや、だって……銀等級の次は金等級じゃあ」
「そうですよ?」
「でも、これ、白金等級ですよね?」
箱から取り出して光に当ててみると、それは金色ではなく白金の色をしていた。
白金ってどんな色かっていうと、銀に白を付け加えた感じで、こんな色だ。
エルシアさんが白金等級だったからよく覚えてる。
ちなみに、アンの方にも同じ色の認識票が入っている。
「冒険者の上役との約束ですからね。クラディス様やアン様はすぐに次の階級に上げるって」
「ってことは、えーと?」
「受け取ってください。なんなら、もう名前も刻んでるので」
「えっ……あ、ほんとだ……」
裏返しをしてみると、ちゃんと名前と職業が刻まれていた。
クラディス・ヘイ・アルジェント:双剣士
「最初からこのつもりだったんですか?」
「いやいや、満たしていなかったらあげるつもりはなかったですよ?」
どーだか。本当にこの人は嘘か本当か良くわからないからな……。
でもこれで、白金等級になったわけか。
「やりましたね、あるじ」
「うん。なんだかんだ嬉しい」
看過できない停滞感がこれで紛れてくれたら良いんだけどな。
もっと、頑張らないとだ。




