475 ユットロールとの再戦
クラディスと闘うユットロールの脳内では、彼がどう戦うのかをシュミレーションしていた。
冬山で戦った時の彼の戦闘スタイルは機動力で避け、一撃をどこかで狙うという戦闘スタイルだった。
が、近接戦闘で相手をゴリ押しするほどの膂力は無い。
魔法も副団長の攻撃の軌道をズラす程度。
(クラディス様には悪いが、すぐに終わらせてもらう)
クラディスは目の前まで急接近し、双剣での攻撃を仕掛けてきた。
あの時と同じだ。なんらむずかしい攻撃ではない。
間合いの中に入ろうとするクラディスの体にドンピシャで攻撃を合わせる。
「──捉えた」
想定通りの動き。
さすがに短期間では実力の差なぞ埋まるわけもない。
そう思っていた。
だが、完全に吹き飛ばしたと思っていた白銀色の頭髪が──消えた。
「!?」
手の感触はない。
つまり、当たっていない。
あの瞬間から急に方向転換?
(どこに──)
と思えば目の前に届く短剣。
「──ッ!?」
だが、この程度の攻撃なら受けても問題はない。
戦士の耐性というのはこの程度で破れるほどヤワではない。
問題は次の動きをどうするかで──
──ピクッ。
「!?」
この時、ユットロールの危機察知が反応をした。
咄嗟に首を動かし、顔面に刺さるのを避けた。
恐る恐るその短剣の軌道を見つめると、地面に深く刺し込まれている。
「…………なんだそれは」
ありえないほどの貫通力。
そして、微量な魔法の反応。
頬についた切り傷からありえないほどの血が出てきた。
「……一体……なにを」
「双剣の試験だけど、僕がなりたいのは付与術士。エンチャンターだからね」
そう話すクラディスは収納袋から手元に短剣を取り出して器用に回した。
「さすがに他の人の前じゃあ見せられないけど、知ってる人相手ならいいでしょ」
ピリッとユットロールの背後の反応が大きくなる。
先程、地面に刺さっていた短剣だ。
まだ魔法の反応がある──脳内でそれがどういう意味なのかを理解する前に、ユットロールの背中に短剣が突き刺さった。
「グヌッ!?」
よろめく彼の体の前に降り立つ白銀色の小さな転生者。
「油断はダメですよ、試験なんですから」
明らかに戦闘スタイルが変わっている。
前のように愚直に突っ込んでくる戦闘スタイルではなく、戦場で生き抜いた戦士のような戦い方になっている。
知恵。戦略。相手をどう崩すかを考えて行動をする。
「油断なんてしてないつもりなんですがね……!」
けれど、ユットロールとて負けるつもりもない。
横ぶりの攻撃が放たれる前に下から腕をつかみ上げた。
華奢な腕の感覚。
だが、横蹴りが顔面に突き刺さった。
倒れるユットロールの体に馬乗りになり、クラディスは首元に武器をあてがう。
「……あの時のユットロールさんの動きじゃない」
重心を意識して動かしにくい場所に体重を乗せてきている。
その短剣にも魔法の気配が感じられる。
ユットロールは目を閉じた。
「降参だ。クラディス様には敵わん」
降参発言にクラディスは眉を顰め、信じられないという顔を浮かべる。
「手は抜かないでください!」
「抜いてはないですって……」
「抜いてましヌオッ──」
「はい、試験終了です。お疲れさまでした」
ぶらーんと持ち上げられるクラディスを見上げ、ユットロールは背中に刺さっていた短剣を抜いた。
外套の下に着込んでいる鎧を貫いていたソレには血が付着していた。
少し肌を突き破っていたらしい。戦闘に夢中で痛みは感じなかったが。
──この鎧をたったあれだけの攻撃で貫いただって……?
地面に突き刺さっていた短剣がクラディスの手元に戻っていく。
魔素で短剣を繋いでいるのか?
じゃあ、それを引き戻しただけで……鎧を貫いた?
上位迷宮のボスの攻撃さえ受けきったこの鎧を?
(クラディス様は本当に俺が手を抜いてると思ってるのか……?)
あの時と戦った時のクラディスだったら、一撃目で無力化ができていた。
そして次の腕をつかみ上げた時、咄嗟に蹴りにシフト。
あれは掴まれるのをわかっていたような動きだった。
そうでなくば、あれほど澱みない動きができる訳もない。
「………………」
ナグモと話をしているクラディスを尊敬と少しの畏怖が混じった目を向ける。
「とんでもないな、これは」
これが転生者の成長速度か。




