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473 その命に価値はあるか



「同じ姿だから、同じ格好をしているから。しかし、人間も畜生です。言葉も通じぬ者もいます」


 その言葉の意味はよく分かってる。 

 思い当たるところが多い。

 エヴァーチェの人たちであったり、それより前だったらアンを殺しに来たフーシェンの白金等級の人や一級奴隷の人もそうだった。


「大事なものが多くなれば、それこそあなたの命の価値は多くなる。他の転生者と一緒になるから? 抵抗せずに死んでしまえば、それこそあなたは彼らと同じ末路をたどることになる。そんなつまらぬ情や考えによって滅ぼされていい価値をしていないんですよ」


「ユラさん、命に価値はつけられませんよ」


「そうでしょうか?」


 彼女は不思議そうな声色で否定をした。


「貨幣の安い高い、役職の偉い偉くない、人間は他者よりも優れようと努力し、劣る者は遺伝子すら残せません。元来、そのように価値を付けて生きてきた人間が──そんな言葉を言っても良いと思いますか?」


 これは、ティナ先生の言葉であり、彼女なりの本音なのだろう。 

 別にそれが悪いことだとは思わないし、間違ってはいないと思う。

 

「命に価値はありますとも。価値がなければ、奴隷や従者は生まれません。クラディス様にも従者はいるではありませんか」


 だけど、


「ユラさん」僕はクラディスの服に袖を通して笑った。「やめましょうよ」


「……」


「僕は他の転生者とは違う。悪戯に他者を虐げ、己の力に溺れる奴らじゃない……と思ってます。でも、転生者だ。価値をつけてしまえば、僕の命は何よりも価値がない。磔にし、皆で槍を持ち、いっせーのでで刺して鬱憤を晴らす手伝いをするしか役目がないんだ。だから、価値をつけない……というのは僕のためです。だからこれは綺麗事じゃないんですよ」


 僕の命というのはユラさんの言う通り、価値があるのだろう。

 エヴァーチェや冬山の皆、それにアンの命が紐づいているから、何十人、何百体の命が僕のこの胸元に乗せられている。

 だけど、命の価値というのは相対的に決まるものだ。

 見る人が見れば、価値があるものでも価値がないものになってしまう。


「僕はユラさんが思ってるより人間です。命に価値なんてつけてしまえば、惨めに思えて死んでしまいたくなります。それくらい人間なんですよ。自分に不利の評価基準なんて無い方がいいじゃないですか」


 僕の命なんてこの世界の多くの人間にとって「価値がないもの」になるのだ。

 どれだけ、僕の命に皆の命がかかっているとしても関係ない。

 転生者が嫌いなこの世界の人たちにとって、僕の命はなんの価値もない。

 だから、僕は命に価値があるかどうかの話はしたくない。

 

「僕は必要とあらば殺す覚悟はしてますよ。死ねない理由が多くなったので。転生者だから避けて通れない戦いもあると思います。……会話で解決できるのは、フィクションの中だけだったってことを、この世界で身にしみて理解したので」

 

 最近笑うことが多かった。誤魔化す時に笑う癖がついてる。

 だから、その時も僕は笑った。目は笑えてなかったかもしれないけど。


「…………私はクラディス様のことを見くびっていました」


 ユラさんは日傘をさしたままぺこっと頭を下げてきた。


「ティナお嬢様が気に入る理由がわかりました。随分といい性格をしてる」


「なーに言ってんですか、臆病なだけですよ」


「臆病な人が生きて歴史を紡いできたんですよ。人間は臆病でこそ生きることができるんです。勝ち気な人ばっかりだったら、とっくに滅んでる」


 なにか鎌でもかけようとしてたのかな?

 期待されていた返答ではなかったけど、共感はしてもらえたのかな。

 ユラさんの言う事は理解できる分、辛いんだけどね。


「ユラさん、また会えますか?」

 

「お友達になります? それとも従者にしてみせます?」


「進路で悩んだ時のアドバイザーみたいなポジションで」


「ふふ、私にそんなことを言ったのはクラディス様が初めてです」


 上品に笑うユラさんに、僕は肩を竦めた。

 不思議な人だけど、会話は出来るし、なにより面白い。


「良いですよ。お嬢様抜きで直接お話できるように」


 ペラと紙を渡された。

 折り畳まれたそれを開いてみると、作りかけの魔法陣があった。

 

「今、私が作成中の魔法です。これが完成したら通信魔導具が無くてもお話することができます」


「えっ!? すごいですよ! そんなのどうやって……」


「まだ完成してませんので、ここから先はクラディス様が考えてみてください。最近、人手が足りずに研究が追いついていないので」


 口元に人差し指を立て、こてんと首を傾げられた。

 

「……未完成の……。僕にできるかな」


「できたら私に連絡が届くようには仕組んでますので。お待ちしておりますね」


「頑張ります」


「では、昇級試験頑張ってください」


「ありがとうございます。また」


「ええ」


 去っていくユラさんを見送り、僕はクラディスの姿でムロさん達がいる部屋に戻っていった。

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