472 殺すのに慣れておけ
「お久しぶりです、アイリス様」
「お、おひしぶりです」
ユットロールさん、そんなに頭下げなくても……。
僕たち友達だよ。そんな感じで頭を下げられたら……ちらっ。
「……」
ほらぁ、ムロさんが不思議そうな顔をしてるじゃん。
元々はロベル王国に拠点をおいていたエヴァーチェがなんでデュアラル王国にポッと出てきたアイリスと知り合いなんだよって顔をしてるじゃん!
どうしたらいいんだ、これ。
突っ込まれないことを祈ろう。
「アイリス様、先日の広場の件の疲れは取れましたか?」
ナグモさんにそう言われて愛想笑いを浮かべておいた。
この人、面白がってる。
この場所にいる人達でアイリスがクラディスだと知ってるのはムロさん以外の全員だ。もう、嫌になっちゃう。
「それで……皆様はどのような件でここに?」
「クラディス少年とアン少女の昇級でな。上位冒険者との模擬試合をさせてもらおうと思って連れてきた」
リリーさんはナグモさんに目配せをした。
「ムロさんがアンさんと試合を。ユットロールさんはクラディス様と試合をお願いしたいのですが」
「またオマエとか」
「汚名返上しに来てやったぜ、クソガキ」
ムロさんとアンの間で火花が散った。
闘技場で2人は戦ってるから、そこの再戦になるわけか。
そして、僕は……。
「クラディスさんですか、どんな人か楽しみです」
ユットロールさんか。
こっちも一応は再戦になるんだな。
冬山の……あの時は周りの人達がいたから一対一ではないけど。
にしてもちゃんと立ち回ってくれてるの助かるな……。クラディスのことは知らない体ですもんね。うんうん。その調子で頼みますよ。
「では、場所はリリーさんが抑えてくれてるらしいのでそちらで集まりましょうか」
「そうだな。アイリス団長は仕事があるのだろう? わざわざ私らの対応をしてくれてありがとうな」
おっと、これは下がってクラディスになって来いって話か。
「分かりました。それでは、失礼いたします」
先んじて扉から出ていき、ぱたんと扉を閉める。
そして、はぁ、とため息を着いた。
「……アイリスの姿でムロさんに飛びかかりそうになった……危なかった」
曲がり角からムロさんの姿が見えた瞬間、犬のように駆け寄って飛びかかりそうだった。
ギリギリのところで堪えてごまかしたけど、変な奴だなって思われてそう~……。
さて、動こうかな、として、ユラさんの顔が目の前にあった。
「……っ〜!?」
声を出さなかった僕えらいぞ。まじでびっくりした。
「え、あ、あの……ユラさん……どうしたんですか?」
「要件が済んだので帰ろうと思っていたら、クラディス様がなにやら不審な動きをしていたので」
「あー……あはは……いやー別に……そんなこと無いと思いますけどー……」
「そうですか? では、勘違いだったということで」
ユラさんは転生者ってことを知ってるから大丈夫だよな。
魔素感知を走らせて、身体変化をしてアイリスからクラディスへ。
ちっさくなった体でブカブカになった服から、いつもの服に着替える。
「クラディス様。最後に、ティナお嬢様からの言伝で」
「あれ、先生って今、王国にいませんでしたっけ」
「ナグモ様の部屋で寝泊まりしてるみたいです。動きたくないから、と」
なんだそれ。あの人のお弟子さんと会ってきたから、その師匠が動きたくないっていってる事実を脳みそが理解してくれない。いや、あの人は元々そういう人だ。うん。
「戦冠はオマエの兄弟子だから仲良くしろよ。あと、ハートレイにわがままを通したのはワタシだからワタシに感謝しろよ、と」
「はあ」
まあ、そんな感じの内容かなとは思ってはいましたけど。
「それと『そろそろ人を殺すのにも慣れておけ』と言っておりました」
物騒な言葉が聞こえて、瞳に影がかかった。
「…………ころす……?」
「ええ」
「それって、文字通りの意味ですか?」
「クラディス様では冬山を。アイリス様の姿では荒れ狂う者たちを言葉で統治した。立派なものです。そんなことをした人物は今まで誰一人としていませんでした。その偉業をお嬢様は危惧しているのです」
危惧、ですか。
確かに意図されたやり方で僕は問題を解決していない。
冬山の王になれという訓練を亜人の種族スキルで強引にクリアしたし。ティナ先生にとってみたら別解答で正解を出してきたようなもの。
それは悪いことではないにしろ……ティナ先生が思い描く訓練の結果とは違ったということになる。
「生きるために殺すことは悪ではありません」
そんなこと、知ってる。
「でも、殺すのはしたくないです」
「可哀想だから、相手にも人生があるから、と?」
「それと、他の転生者と同じになっちゃうからですかね」
「ふむ……クラディス様らしい考えです」
それに頷くと、ユラさんは顔を一切変えずに。
「ですが、その感情は本当に必要ですか?」
そう言い切った。




