469 アイリスは自分たちとは違うだろう
「リバー、どうしたんだ?」
「ああ……いやな」
リバーはゴツゴツとした手で自分の後頭部をごわごわと掻いた。
疲れているはずなのに歩く速度が変わらない彼女を目で見送り、後ろから声をかけてきた仲間に応じた。
「称号Ⅰ持ちってのはもっと楽しそうに生きてるもんだと思ってた」
彼の記憶に残っている転生者は、広場の壇上で薄っぺらい胸を張りこちらを見下すような目をしている男達と、どこぞの貴族の令嬢のような面持ちを浮かべて男にすり寄っている女達だった。彼らは少なくとも楽しそうに生きていた。
出会ったことのある勇者も賢者も、自由気ままに生きてその力を誇示し、周囲を圧倒していた。
彼ら称号Ⅰ持ちは自信があって、この世界を謳歌し、まるで自分がこの世界の中心なんだと豪語するような勢いがあった。
が、今、先程まで話していた彼女はどうだ。
「…………アイツ、ふと見せる時の表情が大人びてる……というか、すり減った兵士のような顔をするんだよ」
人を何人も殺してきたような目元。
幼気の残る美しい顔の上に乗っかっている心象は果てして。
「アイリス。あのまま放っておいたらどこまでも堕ちていきそうな気がする」
民衆からの期待。
称号Ⅰ持ちとしての側面。
発展途上で強い人達に囲まれているプレッシャー。
どれだけ努力をしても上には上がいる。
「大丈夫だろう、称号Ⅰ持ちは天才で神から異能をもらってるんだ」
「……そうか」
「俺ら凡人の測りじゃあ分からんこともあろう」
「そうだな」
神から異能を授かったその体はたしかに立派なもんだ。
だが、もしも、心の内までは俺たちとなんら変わりないのだとしたら。
「アイツは天才だものな」
それはとんでもなく、ヒドイ話だ。




