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468 魔王くらい強くならないとか


 掃除を終わらせたタイミングで侍女頭さんが訓練用の服を持ってきてくれた。

 それに着替えて、覇軍の訓練に参加をすることになった。

 

「傷は癒えたか?」


「ええ。なんとか」


 治癒班がいると心強いとか言ってたけど、僕の体って特殊な体になっちゃったせいで他の人の治癒魔法が効きにくいことを思い出した。

 結局、自室に戻って治した。ずっと治そうとしてくれたあの人には申し訳ない。

 

「それで、今日使うのはソレか。短剣は良いのか?」


「距離のことを考えると剣(コレ)も使っておいた方がいいと思ったので」

 

 上背があるアイリスは剣の練習もしておいた方が良い。

 双剣っていう体じゃない。槍とも考えたけど、使いこなせる気がしない。

 扱える獲物が増えるのは良いことだけど、器用貧乏にはなりたくもないし。


(それに、アイリスにはこの剣を渡されているからな)


 僕が握っているのは【白銀の剣】だ。

 冒険者が持つにしては上物なソレは雪の結晶で作られたかのように冷ややかで、鋭く、人を殺すのに一切雑念を介さず殺すことが可能な代物。

 アイリス用に拵えられたらしいコレは、アンを処刑するときに持っていた武器だ。


(話を聞く限り、王国が準備をしたモノらしいし)


 アイリス+この剣はワンセットだと考えられてるようだ。

 勇者には勇者の剣、賢者には賢者の杖があるように、その人にはその人足らしめる何かがあるのだろう。

 だから、使う機会があるなら触れておいて損はない。


「じゃあ、訓練を始めるぞ」

 

 始まった基礎訓練は思ったよりもなんだか異世界らしくないメニューばかりだった。

 素振り。

 走り込み。

 荷物を抱えて山登り。

 デカイ岩を全力で押して移動させる。

 模擬試合の勝ち抜き戦を1vs1から1vs2や2vs2などに人数を変えながら行った。 

 そして、そんな中でも異色だったのが。


「この円の中から出ないこと」


 ガリガリと訓練場の地面に円を書かれて立たされた。

 そして、離れた所に立っている皆さんがカチャと武器を構える。

 

「え」


 それは弓であり、銃であり、手持ちの投石器(スリング)だった。


「速度の違うこれらをその円から出ずに凌ぐ訓練だ。じゃあ、行くぞ」


「……死にません?」


「武器を使え」


「スキルは」


「使うな」


 というのだから驚きだ。

 こんな訓練もティナ先生はする予定だったのかな。

 まぁ、いいか。

 瞳に影をかけて、剣を持つ手に力を込める。


「撃て──」


 一斉に発射されるそれらを最小限の動きで避け、無理なものは弾いた。

 できるかな、なんて思っていたが、案外いけるもんだな。

 視えるし、動ける。

 前に『オマエは目だけは良いな』って誰かに言われたけど、体も伴ってきたのかも。

 

(最近、自信をなくすことばっかりだったけど……転生者らしくはなってきてるのか。複雑だけど)


 あと、この武器、案外扱いやすい。女性が持っても振るえるようにちゃんと調整されてる一振り。見た目重視の武器じゃなくて良かった。

 そうして、すべての攻撃を捌き、フゥッと息を吐いて捨てた。


「お粗末様です」


「その実力があるのに驕らんか」


「負け星ばっかりなので」


 リバーさんに呆れられ、アンと交代した。

 別の円の中に入っていく彼女を目掛けて遠距離武器が斉射。

 30秒ほど続いたその集中砲火は、アンの拳と脚によって防がれた。


「叩き落した……?」


「円から出なければ良いのだろう? ならば、どう対処しても良いはずだ」 

 

「おおー……」ぱちぱちと拍手を送った。

  

 素早い攻撃を得意とする拳術家(モンク)だからこそ出来る芸当だ。

 でも、あの拳殻もボロボロになってきたな……。クラディスの方で使う短剣も武器屋で大量買いした質素な短剣だけだし。

 タルトさん達のところに行かないとな~……全然いけてないや。

 冒険者に登録してるから使用感やら何やらの連絡は取り合ってはいるんだけど。


「じゃあ、次は山での戦闘訓練をするぞ。各自準備をしておくように」

 

 こうして2度目の戦闘訓練へと入っていった。

 アンがいるチームに負けたのが1回と、リバーさんにしつこく狙われて負けたのが1回。あとは、戦っているときに2部隊に狙われて捌ききれずに負けたのが1回。

 そして、後の2回は勝つことができた。

 勝敗の要因は、飛ぶ斬撃の感覚が分かったからだ。コツがあった、アレ。

 自分の魔素を使うのはダメだから宙の魔素を殴って固める。

 だから一発一発の形や威力は違うけど、やりようはある。

 

(だけど、それじゃあまた一緒だ)


 能力にかまけて勝っているだけだと、すぐに対応をされる。


(覇軍の人たちは皆強い。学べる所は学ばないと)


 連携。攻める時のタイミング。周辺の部隊に注意をして戦う。

 場所的な有利で待つのも良し。奇襲のやり方も勉強できた。

 1vs1ではなく3vs3。連携力が低い方が負ける。

 ただ2人に合わせるのではなく、主体的に動かなければならない。

 足りない部分が多すぎるな。今まで一人で動いていた弊害だ。

 

(ミスを少なくしないと。僕は戦闘能力が低すぎるんだ)


 味方の癖を見抜いて、ソレをサポートしながら活かすような立ち回りをしないと。それをするためにはコミュニケーションが必要だ。調子や筋肉の付き方、性格。扱う武器からもどういう戦い方なのかも分かる。今は訓練だから戦いながら修正するのでは遅い。始まる前から皆の癖を見抜いてソレを欠点にしないようにしないと。その時に、自分の戦い方の癖も一緒に把握をしておく必要があるからもっと自己分析が必要だ。強い人、強いチームの理由を分析するのも大事だけど、勝った相手になんで勝てたのかの方程式も理解しておかないと今後に活かせれない。


(たとえば、アンは……)


 アンは確かに強いけど、あまり勝ててはいない。個人での戦闘能力が高くて周りがソレを上手く活かした時に勝ってる印象だ。さすがに闘技場で最長連勝記録は伊達じゃない。彼女は対人のスペシャリストだ。けど、連携力にムラがあって、他人の意見を聞く力が弱い。リーチがないのも弱点になりうる。遠距離攻撃の相手を倒すために距離を詰める必要がある。その速度はあるけど、相手にも『脚』があった場合は一方的にやられてしまう可能性がある。ハートレイさんに負けたのも遠距離攻撃だって言ってた。あと、勝ちに急ぐというのは改善点だ。アンの性格だと冷静な相手だとやっぱりガス欠気味になるのもある。相手が乗ってきた場合は強いけど、出方を伺う冷静なチームに負けてるっていうイメージがある。


(じゃあ、リバーさんは……)


 リバーさんはなんでも出来るオールラウンダー。弱点らしい弱点がないが、それを自分自身も理解をしているのか気を抜く瞬間というのが時々ある。情報の取捨選択が上手いんだろう。だが、自分は動けているから良いが、反応が遅い味方がいた場合に注意するのに遅れて後手に回ってることがある。奇襲をあまり好まないのは自分たちが領土戦争の時にされた戦法だからなのか? 後は副隊長を務めていたこともあるから、勝ちに慣れている部分と率いるのが当たり前になっている部分が見受けられる。勝ちに慣れるっていうのは勝ち方を知っているということだが、慣れすぎた結果、戦闘スタイルが確立されて柔軟な対応ができていないと思えた。人を率いる部分では指示命令が他の人よりも秀でている。そこは素直に評価されるべきだけど、言うことを聞かないタイプの人間とチームになった時に切り捨てようとしている気がした。弱い味方ほど厄介な敵はいないということか。転生者の時もそうだが、リバーさんは使える奴と使えない奴の見極めが鋭い。だけど、使えない奴であっても活かす立ち回りというのは可能ははずだ。自分の中の100点満点の戦い方から人身的な理由でマイナスが生じたら、ソレを除外して、残ったメンバーでの100点を計算。だけど、それは本来の人数の100点よりも低い100点なんじゃないか。あれだけ人を率いることができるんだから、連携の部分から除外をするんじゃなくてもっとその人の癖を見抜いて「使う」という点に意識をおいたらリバーさんはもっと強くなるんじゃないかって思う。


(だったら僕は──)

 

「顔が暗いぞアイリス」

 

「…………リバーさん」


 訓練が終了して泥まみれの状態で帰っていると、リバーさんが肩を叩いてきた。


「賢者にも悩みがあるんだな」


「同じ人間ですよ……」


「とてつもなく強く、勇者や転生者に並ぶ称号Ⅰ持ち(インファンテ)だ。悩みなんて力で解決できるだろ」


「私をボコボコにしておいてよく言いますね」


「後半の二回は負けたけどな。成長が早いのなんのって。それに主人のあの技をもう会得したじゃないか」


「たまたまです。もっと強くならないといけない」


 僕に足りない所は上げるとキリがない。

 戦闘訓練で勝ったからと言って浮かれて良い訳がないのだ。 


「強い奴は強いやつなりの理由があるか……」


「だから、僕は強くないですって」


「オマエは強いよ」


 その言葉に、いつもより肺が多くの空気を吸い込んだ気がした。

 耳障りの良い言葉っていうのは嬉しいけど、なんだか虚しいんだな。

 強い、か。どこをどう見てそう思ってるのやら。


「逆に誰よりも自分は劣ってると思うんだ?」 


「……アサルトリアの皆さんと……ハインストの人達。リリーさんにも敵わない。それに上位魔族にも」


「上位血盟と英雄達の巣窟。解析士で首切りの異名を持つ嬢ちゃんと、魔族側の称号Ⅰ持ち(インファンテ)か。じゃあ、ソイツらに勝てるやつはどんな奴だと思う?」


「……想像も付きません」


「いるとしたら魔王くらいだな。英雄を何人も殺し、武冠者(ラターナル)や魔司者(オベラル)みたいなバケモンを従うことができるのはアイツらだけだ」


「魔王…………か」


 ──左手にある力の種が疼く。

 そうか、僕が目指す先にはちゃんと誰かいるのか。


「そうですね。頑張ります」 

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