464 新たな戦闘スタイル
「遠距離攻撃って……でも、魔法は使えないから」
その言葉を否定するように、ハートレイさんの攻撃が僕に届いた。
風を切り裂く攻撃。空を飛ぶ斬撃だ。
それをかち上げている間に、木々を移動して連続で斬撃を繰り出してきた。
一つ一つが地面をえぐり取るほどの威力。
これが、魔素無しで出来るって……!?
「アイリス! 俺の後ろに来い!」
盾を構えるリバーさんの背後に逃げ入り、息を整える。
体中が痛いし、頭はろくに回ってくれない。
「リバーさん、すみません……足を引っ張っちゃって」
「さっきの話を覚えてるか?」
「なんのことです……?」
「派手な戦い方じゃなくても良いってことだ!」
「……派手……ですか?」
「ああ! アイリスの戦い方はある種の自己満足みたいな戦い方なんだよ」
いつもなら泣いてしまいそうな圧でそう言われ、僕は唇を噤んだ。
僕の戦い方が自己満足だって……?
あの戦い方のどこが自己満足なんだ?
繰り出される斬撃を避けながら岩や木陰に身を隠しながら距離を取る中、リバーさんは声を張り上げる。
「お前は足が早い。攻撃も早いな! だが、勿体ない戦い方をしてるんだ!」
勿体ない?
でも、僕は短剣を使ってる。短剣の戦闘距離は近距離だ。
それ以外じゃあ、弓とか投石機とかの方が優位になる。
それは当然のことで、その武器を選んだから諦めるしかなくて。
「オマエの機動力があって、遠距離の攻撃があれば誰にも負けない武器になる」
「……!」
「機動力でも相手のところに突っ込んでくるって分かってたら、待ち構えてたら良い。脚が早くても何をしてくるかわかってりゃあ、それに武器をかちあわせたら良い!」
「だから……僕が習得すべきは、遠距離での攻撃手段……」
「ああ! ただ、簡単じゃあないぞ! だが、できたらお前はもっと強くなる!」
この世界は元の世界と違う所がある。
魔法やモンスターがいるとかいないとか、そういうところじゃない。
この世界は不思議で、弓兵や銃兵がいるのに遠距離攻撃が猛威を振るっていない。
その理由は、近距離をテリトリーとする人たちが固く、早く、防御する術があるからであり、遠距離の攻撃が通りにくいからだった。
(アンも耐性が強すぎて近接の武器ですら通さないことがほとんどだもんな)
遠距離をテリトリーにする人は耐性が低い。一撃の威力は高くなるのだが、それも近距離の人たちにとってそこまで脅威ではない。
ただし、魔導士は別だ。
魔導士も遠距離をテリトリーにしているが、防御魔法を使って敵の攻撃を弾くことが出来る。
それに物理攻撃に耐性が有るものは多いが、魔法耐性を得るためには魔法を扱う者と戦わなければならない。
だが、モンスターで魔法を使う存在はカテゴリーが上の方になってこないと出てこないことから、魔法耐性を獲得しているのは中級者以降に限られてくる。
だから、弓兵や銃兵よりも魔法兵の方が優遇されてる。
これがこの世界の戦争の歴史だ。
もちろん遠距離攻撃は牽制の役割も担っているから、必ずしも致命傷にならなくても良い。だけど、少人数のパーティー規模で考えると優先順位が低い。
上級冒険者に弓を扱う者や銃を扱う者が少ない理由はコレだ。
これを知った僕も「じゃあ、やっぱり近距離戦闘のほうがいいのか」となった。
だが、それは、パーティーを編成した時の優先順位での話になる。
(マーシャルさんは確か銃火器使いだ。そして、あの人は単独で依頼を熟すのだと聞いた。自己完結型のアタッカーだ)
つまり、個々人で完結する戦闘においては遠距離攻撃の優位性はまだ高い。
攻撃手段が増えることが悪い訳がないのだ。
だから、遠距離攻撃の方法は確立をしておいた方がいい。
だけど──と僕は短剣を握り治した。
(そこで止まったらダメだ……! そこまでなら誰でもたどり着く)
最近の僕は停滞感は無視できない。
自分の強さというのが全く伸びていない。
負けっぱなしだし、戦い方も何も変わっていない。
この戦闘スタイルに落ち着いたのは、勉強会で身につけた知識と訓練での戦い方が理由だ。
だが、それから脱却をするためには──1度、思考を検める必要がある。
(遠距離の攻撃手段がないのもそうだが、物理耐性と魔法耐性が強い相手への攻撃手段すら持っていない)
ノアがそれだった。物理も魔法もなにも効かない相手。
上位魔族に今のままでは対応できない。
(今の僕は自分よりレベルが低い人を相手にした時にしか発揮できない)
遠距離攻撃と近距離攻撃に加えて、僕だけの戦闘スタイルを確立しないと。
(…………あれ?)
それこそ、そうか……アイツと戦った時にやったじゃないか。
僕は魔法でもなく、物理でもない攻撃をすることができる。
(そうか)
魔導士の使う防郭は魔法攻撃を防ぎ、戦士の耐性は物理攻撃を通さない。
ならば、その2つの属性をもった攻撃ならば──そのどれもを貫通をすることが可能。
(そうじゃないか)
僕ならその攻撃を撃つことができる。
遠距離攻撃ですら、致命傷にすることができる。
今までの足りない部分をすべて補うことができる。
「リバーさん……ありがとうございます」
これができれば、僕は格段に成長をすることが出来る。
「ああ、だから遠距離の物理攻撃を──」
「付与術ならば、ハートレイさんを倒すことができる」
「はっ?」
今思えば、ノアの防郭を貫いたのも偶然じゃなかったのだ。
物理攻撃に魔法攻撃を合わせた攻撃は防郭や耐性であっても防げない攻撃となる。
あの日、がむしゃらに編み出した戦い方がまさかここで活きてくるとは。
付与術のやり方は知っている。
飛ぶ斬撃のやり方も知っている。
「おい、アイリス……いま、なんて」
「見ててください!」
僕は片手で握っていた短剣を両手で握り、そこに魔素を重ねていく。
あの時より魔素の使い方を熟知している。
どうすれば使えるのかが分かる。
魔素を纏わせ、ズレを無くして一つへ。
僕はハートレイさんを猛々しく睨みつけて武器を振り上げ──振り下ろした。
「ぶっ飛べ……!!」
「!?」
その瞬間、視界が真っ白に変わり──僕の体は上から落下した。
「ぐぇっ!?」
え、はっ? なにがおきた!?
ここ、森の中じゃない。空が見えるし……。
「はっはっは! 魔素を使ったな! 賢者よ!」
目の前に元々隊の中にいたモルトーさんの顔が来た。
「え……あ、魔素……魔素……?」
「魔素を使ったから転移をしたんだ。分かるか?」
「主人の口車に乗せられたか? 飛ぶ斬撃を見せられたろう。あれを魔素無しで出来るのは主人くらいのものよ」
ガハハと笑う覇軍の皆さんに囲まれながら、赤い棒が壊れていることに気づいた。
魔素を検知したら壊れる仕組みになってるのか。なるほど。そういうことね。
「はぁ……なんだ、そうか。そうかあ……」
頭に熱が籠もりすぎてたみたいだ。
最初のルールを忘れるなんて。
ぶっ飛べって言いながら、自分の身体がぶっ飛んでたら世話ないなぁ。
恥ずかしい……。
「くぅぅぅ…………」
ハートレイさんにまんまと乗せられちゃった。
今頃笑われてるんだろうなぁ。くっそぉ。
「いや、でも……勉強になりました。ありがとうございます」
「おお、素晴らしい向上心だ。もっと励むと良いぞ賢者殿」
「はい」
これが僕が成長をする道か。
付与術。遠距離攻撃。機動力でかき回し、負けずに勝つ戦闘スタイル。
「もっと試したい。明日以降の訓練が楽しみです」
こんな気持になったのは久しぶりかもしれない。




