462 年甲斐のない
それは嵐のようなものだった。
「この場にいる者全員、修練が足りんな」
それは突如として現れて、二部隊を相手にして暴れ回った。
ハートレイ。
彼は皆が三人一部隊で行動をしている中、一人一部隊で行動をしていた。
「くっそ……」
彼が来る前までほとんど互角の戦いをしていたアンを含む六人は、横槍を入れてきたハートレイによって全滅。
残ってるのはアンのみとなっている。
「気張れよ、娘。私を倒さねば主人まで届くぞ」
アンは魔素を使用せずに闘う訓練を初めてした。
それにしては覇軍の兵相手に上手く立ち回っていたといえる。
だが、それも本物を相手にしたら話が別。
アンは健闘虚しく、結界外に転移されることとなった。
◇◇◇
「転生者ってどんな感じだったんですか?」
「鼻につくクソガキ共だったよ」
山の中で見つけた洞穴の中で話をしていた。
焚き火をして暖を取りたいが、敵に見つかる可能性を考えて無しになった。
暗がりの中に灯りがあったら目立つのは当然だからな。駆け出し冒険者が起こしがちなミスではある。
「自惚れ、侮り、嘲り、慢心。話したくもない相手ばかりだ。自分は強いと信じて疑わず。悪戯にスキルを行使するだけの無能。中身がないし、実体験を伴っていないから言葉も軽い」
「リバーさんって転生者嫌いでしょ」
「そういう奴が嫌いなだけだ。どこかで仕入れた情報のみをべらべらと喋るだけの奴がな。戦場に放り込んだらスコップ片手に震えることしかできんのだ」
その手の話を聞く度に、己の袖はどうなっているのかを確認する。
僕もヒートアップしたらダラダラと喋る癖がある。
深みがあるか聞かれると……うーん。ない気もする。黙っとくか。
「アイツらが元々いた世界は、スキルやステータスという概念が無い世界らしい」
「らしいですね」
「ならば、なぜ、そんなにスキルに頼ろうとするのかが不思議だ。こちらの方が元の世界に近いやり方なはずだ」
「自然ではあるとは思いますけど……逆に不便なんじゃないですか?」
「一度、便利なものを知ったら、という話しか?」
「そうです。お金がたくさんあったら使っちゃう貧乏人なんですよ、彼らは」
転生者がスキルに頼ろうとするのは「それがあるから」ということに限る。
貧乏人が金を手に入れて、上がりきった生活水準を下げることができずに破産をするように、魅力的な能力を手に入れたというのに何故これに頼ったらダメなんだというのが理解できずに身を滅ぼす。
それこそあれだ。金を手に入れただけの貧乏は増やし方や稼ぎ方を知らないから、減るだけみたいな話。
この世界の人は最初から金持ちの状態な訳だから、増やし方も使い方も稼ぎ方も知っている。だから、効率的に使うし、使わないという選択肢を取ることができるのだ。
そこらへんが転生者とこの世界の住人との認識の差なんだろうな、と思う。
「そういう考え方か……」
「わたしも賢者ですが、その気持ちが分かりますから」
「やはり強い魔法を一発撃って解決みたいな派手な戦いをしたいか?」
「したいですね~。かっこよくて、痛快で、魅力的です。でも、そう簡単な話じゃないからこうして一緒に訓練してるんです」
この世界の戦闘はそこまで単純じゃない。
強すぎる力というのは確かに脅威だが、倒し方というものが存在している。
だからこそ、上位魔族であったり、過去には魔王ですらも殺されているのだ。
強い魔法を使う人間が弱いままでは宝の持ち腐れになってしまう。
「さすが、師匠に絞られただけあるな」
「リバーさん達も。考え方がティナ先生みたいです」
「だろう」とリバーさんは誇らしげに笑った。
(そんなに嬉しそうに笑うのか)
この人たちの中でティナ先生に教えてもらったことはそれだけ特別なことなんだ。
「じゃあ、これからの話だ。夜間は俺たちは動かないことにするが、良いか」
「はい」
「アイリスを狙う奴が多い、夜間は動き回るとバレやすい、光源はもちろん使えない。そして、モンスターも普通にいる」
「人数が少ないから動くのは危険ということですね」
丁寧に説明をしてくれるリバーさんの前で正座をして話を聞く。
すると「だが」と言って。
「それは盤石過ぎる選択肢だ。攻めに出るなら今という判断もある。奇襲を最も仕掛けやすいのが夜だからな」
「モンスターに襲わせたり、罠を仕掛けたり、わざと敵をおびき出すこともできる」
「そうだ。そして、圧倒的な強者ってのはこの手の判断はすべて理解した上で動いてくる。──だから、アイリス、構えろ」
「え?」
──その瞬間、音もなく洞窟の入口に白と赤が降り立った。
「はっ──」
武器を構えようとしたが──その人物の剣は僕の体を切り刻んだ。
真っ暗な空間に散る鈍色の血液。
「ぐっ……!!?」
「油断とは余裕だな」
つま先が地面に触れた瞬間、流れるような動きで背後まで到達。
リバーさんは斬撃を防いだらしい。僕だけがマトモに攻撃を……くそっ。
「来るならそろそろかと思ってましたよ、主人」
「ならば警戒を怠りすぎだな、リバー。魔族ならば今ので2人とも死んでいるぞ」
なにも警戒を怠っていた訳ではない。
感知系のスキルは確かに意図して使わないようにしていた。
だが、完璧に遮断することはできない。
だというのに、なぜ、一つも魔素も気配も感じなかったんだ。
「不思議そうな顔をしている。たしか、魔素検知だったか。魔法検知の上位スキル。それが反応せずに困惑をしているようだね」
ハートレイさんは抜き身の剣で地面に線を作りながら。
「私には魔素がないからね。欠陥品なのさ。その証拠に、ほら──」
閉じられていた瞳が開かれると、そこには真っ白色の瞳があった。
「白色……」
──この世界は適性が瞳に現れる。
黒なら剣闘士。青なら治癒士。赤なら魔導士。
そして、白色なら──適性なし、と言われている。
「魔素が無い私をどうやって魔素で検知すると? そのスキルは万能ではないのだよ」
ガリガリと地面を削るようにして歩いてくるハートレイさんは、武器を再び胸前に構えて微笑んだ。
「さぁ、戦おう。年甲斐もなく興奮しているこの体の相手を頼むよ」




