461 アイリスは覇軍に大人気
「やっぱり狙われるなあ! ハッハッハ!」
「笑い話じゃないですよ……」
「さっきまでいた仲間を失ったのは大きいが、なぁに、このまま勝つぞ」
そう言いながら、リバーさんは腕のポケットを叩く。
その中には赤色の棒が大量に入っているのだ。
襲ってきた兵士達を無力化し、全員の赤棒を奪った。僕も戦闘に参加はしたのだが、ほとんどがこのリバーって人が倒した。すごく強い。
(…………)
領土戦線の生き残り、それだけでもこの世界じゃあ評価されている。
そんな中で殿を務めて、魔族を屠った軍隊の人だ。
只者じゃないのは分かっているのだが。
「俺はな、領土戦線ン時にこの軍の第一部隊の副隊長をしてたんだ」
どおりで……。
「リバーさんで副隊長なら隊長はとんでもないですね」
「その隊長がうちのご主人様よ」
「なんで公爵閣下が参加してるんですか……」
「後ろで怯える主人と前で敵をなぎ倒す主人なら、後者が良いだろう?」
良いとか悪いとかの話なのかな。まぁ、とやかく言うのはやめよう。
覇軍の全体のレベルは高い。当然だ。だが、その動きに鈍りが視える。
年齢には逆らえないらしいが、それでも僕よりもみんな強いんだけどね。
──ピク。
ああ。やってしまった。魔素感知に反応した。
感知系はパッシブだから仕方ないけど、ちょっとズルしてる気分になるな。
「来ます。2時の方向」
「そうみたいだな」
森中に異質な光。空を駆ける矢だ。
リバーさんは盾で受けて応戦。
その間に僕は、背後から息を殺していた兵士と打ち合った。
「サポートしやすい距離感で戦うんだぞ!」
「分かってます!」
魔素感知は人が持つ魔素を感知する。いくら魔素を抑えていても分かってしまう。
完璧に魔素を抑えることが出来る人なんてごくわずかだ。動くだけで魔素が生じる、動き続けなければならない戦地で魔素を隠せる奴がいれば……それだけで戦術的な優位性がある。
そんな人、今まであったことがない。……いや、ティナ先生がソレか。
あの人、魔素が全く感じないんだよなあ……。ほんと、何者なんだか。
「転生者ァ! 勝負と行こう!」
「アイリスです! そんな名前じゃありませんので!」
剣がかち合わせると相手の実力っていうのは何となく分かる。
パワータイプか、テクニックタイプか、とか。独特なリズムを持ってる人もいたりする。
だけど、この覇軍に関しては皆同じだ。
──パワーとテクニックを併せ持つ強い奴。
シンプルに強く。シンプルに戦いにくい。
剣なんかかち合わせてみると、気がつくと目の前に剣が迫っている。
僕の剣はいつの間にか相手の体の外に外されて──
「そォら!」
「くっ……!」
顔面に振り下ろされる剣を肩で受け止め、左肩が逝った。
借り物の服のあちこちに朱色の花が咲いてる。もう、ボロボロだ。
が、今更怪我なんて知るか。
距離を取ると隠れている兵の投石が飛んできて、ギリギリで避けた。
「アイリスは弱いなあ! 肩大丈夫か!」
「転生者らしくなくてすみませんねっ! 怪我は慣れてるんで平気です!」
「ハッハッハ! なら面倒はみんでいいか!」
リバーさんが1人を相手にしてる間に、僕は2人を相手にしないといけない。
近距離戦士タイプと遠距離。遠距離を潰したいが、一人で動き回ればリバーさんのカバーを貰えない。
「リバーさん! 格上に勝つためにはどうしたら良いですか!」
「諦めないことだ!」
「わかりやすくて助かります!」
剣を合わせるのはダメだ。技量で負けている。
力でも負けてる。魔素も使えない。どうしたもんかね、これ。
最近、魔素とか魔法とかスキルに頼りっきりだったのが分かるな……クソ。
頭を使え。自分は魔素が封じられたら何も出来ないのか? そうじゃないだろう。
「なんだ! もう諦めたか!」
考える暇も無いか!
男が武器を振り下ろそうとして、こちらも慌てて武器を合わせる。
戦いながら理解すれば良い。
──チラッ。
あ。
目。動いた。
鍔を見てる?
ってこれ、僕のほうが早く振ってるのか。
いや、この人がわざと振るのを遅らせたのか?
相手の人の剣が僕の剣に合わさり、そのまま竹を割るように手元まで降りてくる。
ギギギギギギギギッ! と膂力で押し込まれて──
「──なんだ。そういうことか」
「!?」
相手の剣は僕の鍔元まで降りてきて、僕の剣は外れている。
簡単なことだったんだ。だったら、対処の仕方が分かる。
そのまま手首を狙った攻撃を──剣を引き付けるようにしていなした。
「なっ──」
翻された剣の斜面を下って行く剣の先は地面。
そのまま僕は男性の首元を狙って剣を振り下ろして、止めた。
「降参してください」
「……まさか、二回目で対応されるとは思わなんだ。体が動かなかった」
この人がやっていた技術はシンプル。
相手の剣に合わせて剣を振り、攻撃をしながら相手の攻撃の先を外していたのだ。
僕は相手を見ていたが、相手は僕の剣だけを見ていた。
「って、投石の人からの援護が無かったけど……」
「終わったか、良くやったな」
残りの2人を倒しているリバーさんの姿が目に入り、思わず苦笑い。
面倒は見ないって言いながらちゃっかりサポートしてくれてるし。
「転生者と戦わせろよー、隊長」
「この転生者はまだガキだぞ。大人が寄ってたかって良い訳がねぇ。それに主人が戦いたいって言ってんだ。お前らに倒されないように護らねぇとな」
「だから、隊長と最初に組まされてんのか。くそったれめ、次は絶対潰してやるからな」
三人から棒をもらうとすぐに転移魔法が発動して、外に飛ばされていく。
運が良かったな。相手がこっちを舐めてくれていたから上手く行った。
というか、みんな初戦だからか。──雰囲気がヌルい。
歓迎ムードというか、転生者と戦いたいと言いながらこっちの力量を品定めしている。
お客さんとして案内されている気分だ。
女性の体というのもあるんだろう。技術はそうだが、本気度がない。これが覇軍の実力な訳もない……。
まぁ、仕方ないか。切り替えよう。
「……リバーさん。お聞きしたいんですが、皆さんはいつもこの訓練をしてるんですか?」
「これ以外にもしてるぞ。基礎訓練の方が多い。実地訓練は魔素を使わない形式がほとんどだが、どうした?」
「いや、戦い方がなんというか」
この世界の戦いらしくないなって思った。
さっきのやり方なんてのも確か剣術の類であったハズだ。
『後の先』とかってああいうやり方じゃなかったか?
知り合いが休み時間にふざけてやってたのを見たことがある。
前の世界の知識と紐づいたから良かったけど、知らなかったらずっと分からなかったぞ。
「俺らの師匠の教えさ。スキルに頼るな、魔法に頼るな。それらはあくまで基礎戦闘能力の延長線上にあるモノに過ぎないってな。スキルが悪いって訳じゃない。が、頼ってると体が錆びる。思考や選択肢が狭まるんだよ」
リバーさんは歩きながら話してくれる。山肌を登る時には手を貸してくれた。
それを拒んで、よいしょと上がる。女性扱いせんでもらいたい。
「なんでそんな戦い方をしてるか分かるか?」
「強くなるからじゃないんですか?」
「転生者がそうして負けて捕まった。強いスキルを持ってるからだ」
……なるほど、そういうことね。
「便利なスキルに甘んじてしまっていたということですね」
「俺等は生きてる。戦い方を知ってる。護り方も、負け方も、野宿の仕方も知ってる。それが違いだわな。して、アイリスよ」
振り向いたリバーさんは僕に指を刺した。
「貴様も称号Ⅰ持ちなら俺等よりもそれに気をつけるんだ。せっかくのこの機会、スキルに頼らず、己の体と五感のみで闘ってみろ」
──これは、感知スキルも使うなって言い回しだな。
気づかれてるか、そりゃあそうか。
気配を完全に消している人の奇襲に気づいたんだ。何かしらの術を使っていると感づくのは当然。
「分かりました。私は尻を拭かれないように努力しますね」
「お前みたいな美しい女性のケツなら好きなだけ拭いてやりたいけどな」
「股を開けばなにかぶら下がってるかもしれませんけどね」
「選り好みはせんぞ」
「え」
ガッハッハと笑い飛ばされたが、肌を露出しないように服を着直した。
そうだな、リバーさんの言う通りだ。
せっかくのこの機会、成長をするために使わせてもらおう。
──一方、その頃。
「はぁっ……くそ貴族ッ……!」
アンはハートレイと戦っていた。




