460 既視感のある訓練だ
かつての領土戦争の生き残り……。
だから、若い人がいなかったのか。最低の年齢でも60歳そこら。普通なら訓練なんてせずに奥に引っ込んで命令をしてそうな年齢の人たちばかり。
ただ年齢的にそうなだけで、体つきは現役も現役。今が最高の体だと言われても納得できるほどだ。
「なので、アイリスには仮想転生者ではなく、実際に転生者として振る舞ってもらいたい」
「それは何故ですか」
「そっちの方が、こっちにとって利があるからだ」
どんな利ですか、それは。
「転生者の恐ろしい所は、常識が通じない所。そして、その馬鹿げた能力だ。凡人がいくら努力をしても到達できない領域に彼らはすぐに到達をしてしまう。だからこそ、賢者でありながら【武闘賢者】という呼び声が高い君を招待した。全力で戦ってもらいたい」
「……話は分かりましたが、複雑です」
「まあ、君にとっても利がある訓練でもある。楽しみにしておいてくれたまえ」
豪胆に笑われ、それ以上質問をするのは止めた。もう諦めよう。
「若い奴らはさすがに反感があるでしょうからなあ」
「如何にも。口が軽い者もおりましょうて」
(なんでもう僕が転生者だという認識になってるんですか)
談笑をする皆に苦笑いを浮かべた。
どんな顔していいか分からない。仮面をつけたい。
「では、この二度と叶わないと思っていた巡り合わせに感謝をしよう。その初日の訓練は──」
え、まって、初日って言ったか……?
あ、誰も何も言い出さない。
これ、もしかしてナグモさんが昇級の話を持ってくるまで僕とアンは訓練の可能性があるってこと?
「魔素を使わずに山の中でバトルロワイヤルだ」
うわあ……どこかで聞いたことがある内容だあ……。
そんな顔で僕を見てウィンクしないでください。知ってるだろう? って顔ですね。知ってますよそりゃあ。
そうだよな。ティナ先生の兄弟子だもんな、やったことあるよな。
またあの地獄をすることがあるとは思ってなかった。
「はい」
「なんだね、くそったれの転生者様」
おいおい、泣くぞ。
「魔素を使わないと魔法とか治癒魔法とかを使えないんですが……」
「それは明日以降だ。初日こそ、素の実力を確かめておきたいからな!」
そうですか、分かりました。諦めます。
絶対にあの日の鬱憤晴らしじゃんコレぇ……。
なんで、転生者への恨みつらみを僕が引き受けなきゃいけないんだよぉ……。
「では、右から三人一組で組んでいけ。人は一戦ごとにどんどん変えていくからな!」
となると僕の最初のチームはアン……あ、アンとはギリギリ違うらしい。
端っこに案内されなかったのはこのためか。色々と考えられてるんだな。
その後にルールの説明がされた。
武器は普段の武器で良し。卑怯な手も良し。
魔導士隊と治癒士隊が控えていて、バトルロワイヤルのサポートをしてくれる。
結界が森全体を覆っていて、結界外には出られない。
魔素の検出をしたら該当者を転移させる仕組みがある。
「勝敗はこの棒を奪った方が勝ち。棒がない奴は結界内でマークされるようになってるから、結界外に転移させられる。こっちの棒じゃないからな」
赤色で塗られた棒──アイスの棒よりちょっと大きいくらい──が渡され、皆が指定の場所にしまっていく。
手慣れてるな。みなさんはこの訓練をいつもしてるのか。
兄弟子だもんな……僕も同じ場所に入れておこう。
で、こっちの茶色の棒は適当な場所でいいのか。
「たくさん怪我してくれたら治す練習にもなるので、死なない程度にがんばってください」
「最悪、死んでもすぐなら蘇生もできますから」
治癒班がそう言ってくれた。たいへん心強いです。
この棒が何かの魔素を発してるのは分かるけど、それを奪われたら転移っていうのはどういう仕組なんだろうか。
(…………あ、刻印魔法……?)
そういうことか。
茶色の棒が転移魔法が刻印されていて、魔導士さんがトリガーになってる。
赤色の棒がそれを邪魔してるので、その棒がなくなることで転移魔法が発動ということか。
面白い仕組みだ。
赤色の棒がノイズを発している。魔素を惑わす効果があるってことは……やっぱりそうか。
魔王領地の付近にある樹木でつくられたモノだ。森人の森にもある奴。これがあると魔素感知やら何やらが惑わされて、奇襲がし易い──ってのを勉強会で学んだ。
一方、こっちの茶色の棒は魔素通りが良い霊木で作られたモノだ。
刻印魔法は鉱人の技術。わざわざコレを作る辺り、貴族の財力というのは恐ろしい。
「では、戦場へ移動しようか」
──そうして、今。
僕の部隊はやたら狙われ、1人が欠け、今はリバーという男性兵士と僕だけで行動をしていた。




