459 領土戦争の英雄
覇軍。
俗称では「戦冠」とも呼ばれている。
冒険者ギルドの勉強会で聞いたことがあった。
かの領土戦争において、味方部隊の楯であり鉾であった部隊だと。
デュアラル王国の王国軍を凌駕するほどの兵力と組織力。
国家間の戦争においても、当時はまだ元帥ではなかったマールベリーとエスタという称号Ⅰ持ちの下支えをし、最前線で奮闘をしたと聞く。
戦において必ず敵将を討ち滅ぼし、その冠を奪い取るという獰猛さ。
戦の王と呼ばれても誰も異を唱えないほどの功績。
それらのことから、彼らは戦冠と呼ばれているのだと。
覇軍の時点で「うわ、めっちゃ戦闘強い軍隊じゃん……」ってなるのに戦冠ってなると、もうなんか手に負えない気がする。
「戦争で死傷者0ってすごいですね……」
なんて当時のクラディス少年は思っていた。
丸さんもそんな僕の好奇心を読み取ったのか、年号を指差しながら。
「伝説と呼ばれてる軍隊だけど、もう現役は退いてるの。何十年と活躍をしてきた部隊だから」
「そうなんですね……」
だから、絶対に会うことがない人たちだと思っていたんだけど。
……そんな人達と一緒に訓練をするとは思ってもみなかった。
「野戦は慣れてないかヒヨッコ! 転生者もどきなんだろう!」
「ゼェッ……ゼェッ……!!」
前言撤回。
これは訓練じゃない。
広大な敷地でひたすらにバトルロワイヤルを繰り返す、地獄の模擬戦闘だ。
◇◇◇
話は遡って。
リリーさんに連れて来られた場所は入り口広場。僕とリリーさんを乗せた馬車が入った時にチラッと見えた場所だ。
学校のグラウンドほどの大きさで、山奥にあるというのに平坦に作られている。
城の形なんかは山の形に沿って少しいびつに作られているというのに、ちゃんと土地を均して作られたんだ。
……貴族の城だもんな、そりゃあそうか。
「キミが噂の転生者か! よろしくな!」
屈強な老練兵が掴みかってきたと勘違いして、思わず後ずさり。
それが、握手を求めてきたのだと分かると僕も手を伸ばした。
「転生者じゃないです。賢者です。間違えないでください」
「心配するな。我々は転生者になんの感情も抱いてはいない。我々よりも弱い童なんぞに興味はないからな!」
「そういうことじゃなく……まぁいいです」
僕が出していた手を両手でガッチリと握ってきた。横にいたアンとも握手を交わしていた。
(これが、覇軍の全部……じゃないか)
いくらかは本拠点というか、いつもいるであろう都市部にも残してきているだろうけど、多いな。
すごい『アナタに私達は興味がありますよ』って目で見られる。
それも皆の年齢的に現役を退いててもおかしくないほどの歳だ。
「それで、僕らは何をしたら?」
「これから訓練に行くんだ。なに、そんなに難しいものじゃないから大丈夫さ」
こういう人の難しいものじゃないってのは「慣れたらそんなに難しくない」だからなぁ。
話をしてくれた人が他の人に呼ばれて向こうの方に走っていったのを見て、耳打ち。
「リリーさんは何を企んでるんですか?」
ここの城に来てから話がトントン拍子で進みすぎだ。これは事前準備の香りだ。
「あの副職員長さんが今、キミら2人の等級を上げるための話をしているんだ」
「……ナグモさんのことです?」
「そう。まだ二次試験中だったろう?」そういえば、そうだったっけ。「次の試験の手はずが整うまでキミらを自由にしていてもいいが……放っておくといろいろな問題事ばかり引っ張ってくるからこうして捕まえている訳だ」
「人を問題児みたいに言わないでください」
「そうだぞ」
「うるせぇ、問題児2人。あと金等級になったら次は中位ダンジョンだ。すぐに行ってもらうぞ」
中位ダンジョン? なんで?
「これ以上目立つようなことは控えた方が良いと思うんですが」
現状、レコードホルダーっていう要らない肩書がある。
それだけでも少し知名度があって大変なのに。
「何が目的だ」
「私じゃない。冒険者組合からの要望だよ。まぁ、また話があるだろうからその時に聞きな」
「──やぁ、またせたね」
後ろからハートレイさんの声。なんと、動きやすい格好に着替えていた。
「その服装は、もしかして」
「ああ、訓練に参加させてもらうよ」
とんでもない人だな……。一番、ご高齢じゃないのか。
「じゃあ、イレネロ。この2人をしばらく借りるぞ」
「ああ。どーぞ。好きに使ってくださいな。扱いにくいから気をつけるんだぞ」
「面白い人間で扱いやすい人間なんぞいないさ。さぁ、動きやすい服に着替えなさい」
パンパンッと手を叩かれて、収納袋に入れていた服をアンにも手渡す。
いつもの装備……って、アイリスの装備はアレか。
チラッとリリーさんを見て、服を持ち上げる。
「ああ。サイズがアレか」
クラディスの服はアイリスで着るのが難しい。
支給されてるのは魔法使いよろしくな服しかないから。
さすがに、今からクラディスになる訳にもいかない。
そうして女性用の軽装を持ってきてもらった。
袖を通すと少し胸周りがきつかったけど、着ることができた。
すると、覇軍の人たちに混じって並ばされた。
(体格差えぐい……)
大人と子どもだな。隠喩とかではなく、文字通りの意味でだ。
「よろしくね」
「どうも……」
それにしてもフラットなんだよな。もっと、こう、軍隊的なアレをイメージしてたんだけど。
背筋伸びてて「サー イエッサー!」っていうふうな感じ。
まぁ、でも、顔はまっすぐ前を向いてるし、一人一人が人を射殺すような目をしてる。
「全員揃ったな! 今日の訓練は豪華だぞ! なんとアイリス国定魔導士が訓練に参加をしてくれるらしい!」
皆に横目で見られてる気がしたので横の大男の影に隠れると、猫のように持ち上げられた。
おおおー、という声が刺さる。あまり目立ちたくないのに。
「話は既に通しているが彼女は賢者であり、ティナ嬢の弟子だ。仮想転生者としてうってつけの実力を要している」
わー、ハードルが上がっていく。
仮想転生者。言い換えたら、何をしてくるか分からん奴って意味かな。
物理、魔法、治癒魔法なんて使える奴がいたらそりゃあ対処しづらいか。
「そして、アイリス」
ハートレイさんは僕の方を見て、誇らしげな笑みを浮かべた。
「この場にいる全員、領土戦線の生き残りだ」




