458 兄弟子
そこからしばらく話をした。
あの日の演説のこと。あれをハートレイさんは見に来ていたらしい。
そこから王国とハートレイとの関係や、お団子先輩の調子などを聞かれて答えていった。中々王国に顔出しができていないのだと言っていた。
(公爵ともなれば忙しいのは当然だろうけど)
男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵とあって、この人は公爵。一番上だ。
そこの領主ともなれば王国の王様みたいなもんだ。それだけの領地面積があるし、手掛けていることも多い。二大貴族と呼ばれて多くの派閥を有するしな。
文官のロバートでもあれだけの貴族を有しているんだ。武官のハートレイの派閥は僕が想像するよりも大きいだろう。
「なるほど、アイリスくんのことが良く分かったよ」
「そうですか」
「だが、ティナ嬢に聞いていたよりも強情で強気な少女なようだ」
「……ティナ?」
なんだ、聞き間違いか?
僕は首を傾げていると、ハートレイさんも首を傾げてきた。
「聞いていないのかい? 私や私の軍はティナ嬢に鍛え上げられたのだ。君の兄弟子になる」
「……へ? え、本当に……? ティナせ──あの人に?」
「らしいです。わたしにもそう言ってきました」
貴族は変な人が多いと思っていたが、この人は特別だな。
ティナ先生から訓練を受けた二大貴族。
王国軍の軍事顧問だから、ハートレイさんの軍に指導をするのも考えられなくもない……のか?
「では、先の転生者と戦いたいという意味の真意は」
一応、確認を取ってみる。
僕のこと転生者って知ってるんですか? という裏言葉だ。
「言葉のままの意味さ。ただ、転生者なんぞ捕まえるのは私が生きている間にできる確率は低い。だから、転生者に最も近い存在であり、ティナ嬢に鍛え上げられたキミに目をつけたということだな」
というとハートレイさんはリリーさんに目配せをした。
「前々からの約束だったんだよ。悪いなアイリス、付き合わせて」
「いえ、別に……」
「私の寿命なら捕まえることくらいできただろうが、コイツはあと十数年後には骨になってるだろうから」
「なに、向こう数年なら体は動くさ」
僕のことは転生者だと知らない様子だ。
じゃあ、なんでこの人はそんなに転生者と戦いたいんだろう。
恨みを持ってるという風ではないんだけど……。
そもそも、僕はハートレイさんに関して知らないことが多い。
ロバートと仲が悪いのは知っている。ということは、フーシェンや監査庁とはそこまでの関係はないということ。
アンを匿ってくれていたのもそれだろう。あと、ティナ先生とリリーさんが噛んでるクサイ。
じゃあ、状況的に……アイリスっていう奴と戦わせてやるからアンを匿ってくれ、的なことは……話してそうだな。
……本当に僕が転生者ってことを知らないのか?
(…………)
いや、変に自分を出すのはやめよう。
僕が転生者ってことを伝えてるなら、リリーさんが教えてくれるはず。
ただ、僕の中でこの人に対してのハードルが少し下がったのは事実。
じゃあ、伝えておきたかったことを伝えておこう。
「では、さっそく訓練場に行こうかアイリス君」
そういって、ハートレイさんは立ち上がったので。
「その前にちょっと……よろしいでしょうか」
「どうしたんだい? なにか不安なことでも」
「閣下、彼女を匿ってくれてありがとうございます」
僕は感謝を伝えておきたかった。
「様々な事情があったかと思います。彼女はたしかに転生者ではなかった。ですが、それを証明するために私は色々な方面に迷惑をかけました。あの日の後、対応に追われていた私は彼女の安否を気に掛けることはできませんでした」
アンを匿うことで、フーシェンやロバートとの関係が更に悪化してしまう可能性があった。
僕が手が回らない所でこんな大物が動いてくれていたのだ。
本来ならば、僕がアンを匿う場所を手配して鎮火を待つべきだった。
なのに、こうして力を貸してくれた。感謝してもしきれない。
「何か、私ができることがありましたらなんでもさせていただきますので」
頭を深々と下ろした。
変人ではあるが、感謝してもしきれない。
転生者と戦いたいという目的に僕の実力で見合うかどうかはわからないけれど、誠心誠意努めさせてもらおう。
「ほお。なんでもとな」
と顎に手をやるハートレイさんは侍女さんを呼んで何やら話していた。
話が済むと侍女さんは部屋からそそくさと退室。
「ならば、色々なことをやってもらおうじゃないか。まずは予定通り私の軍との訓練に参加してもらおう」
「軍、ですか……?」
「ああ。ティナ嬢に扱かれた君の兄弟子達だ。キミも加わると良い」
リリーさんに「場所は分かっているな?」と話をしてハートレイさんも出ていった。
どうやら、何か準備をするらしい。取り残された僕とアンは顔を見合わせる。
「軍との共同練習って何するんだろ」
「あのクソガキに扱かれたと言っていましたが、敵じゃあないです」
「うん、敵じゃないよ。味方ね、味方」
貴族の軍。言い換えたら私兵か。
ってなると騎士団とかだよな。そういう系の人たちとの訓練ってのは初めてだ。
なんか、どっと疲れたな……。
「じゃあ、道案内を任されたから行くが。気をつけろよ、2人とも」
「?」
「ハートレイの軍はそんじゃそこらの兵じゃないからな」
リリーさんがそんなことを言うなんて。
「もしかして、あれだけ転生者に固執するのと関係があります?」
「ああ。ハートレイの家騎士共は、領土戦線で転生者のせいで総崩れした隊列を整えるため、殿を務めた部隊だ」
「殿……最後尾で一番キツいとこの……」
だから転生者に恨みがあって、戦いたいって思ってる……ということか。
なるほど、それなら納得だ。
「だが、死者数は0。全員が撤退するまでの時間を稼ぎ、上位魔族を複数体滅ぼしている」
「え、は……?」
殿を務めながらも、上位魔族を倒した……?
それも死者数0で? どうやって……?
あのノアとかそういうレベルの魔族を味方を守りながらって。
待て、聞いたことがあるぞ。
領土戦争で殿を努め、部隊死者数0を打ち立て、被害拡大を防いだ影の英雄達。
「もしかして……ハートレイさんの軍って、あの英雄の」
「そう、アイツの軍隊の呼称は『覇軍』。転生者が汚したケツをキレイに拭き取った部隊だ」




