457 二大貴族の目立たない方
ハートレイ公爵領地は王国の最西に位置していて、ロベル王国との国境に面していることから王国の玄関口となっている大都市だ。
王国ほどの領地面積を持っており、交易も盛んに行われている。
そんな大都市から遠く離れた東方の山中にその城はあった。
二大貴族というのは都市の中の他に、こういった閑散とした場所に城を立てるが好きなんだろうか。
城の目的としては確かに攻めにくく護りやすい場所に建てるとは聞くけどさ。
戦争中でもあるまいし、都市内部の城に居てもいいんじゃないか、なんて思ってる。
(いや、ロバートも山奥の屋敷だったから……戦時中ではないが、色々と警戒をしてのことか)
あー、変なことに気づくんじゃなかった。
大きな権力を持つ二大貴族だ。命の危険なんてのはついて回るか。
そんな感じのことを思いながら、今日はハートレイさんとの初対面の日。
あの日はアンに連れ去られたから挨拶なんてできなかったし。
案内されたのは、客間のような場所。
中には、アンと僕とリリーさんとハートレイさんと思われる4人がいる。
「──初めまして、二大貴族の目立たない方です」
自己紹介をしようと思ったらそんなことを言われて、思考がフリーズした。
(そういう系の人……?)
茶目っ気ですか。そうですか。困るな、どうしよう。
突っ込んで良いのか……? いや、さすがに二大貴族だし、ダメだよな。
「ほら、言ったろ。すぐに顔にでるって」
「本当だな。反応に困ってるってのがよく分かる」
大人どもめ……。それを狙って事前に話をしていたのか。
「からかうのは辞めてください……緊張してるんですから」
「あるじ、緊張なんてしなくても大丈夫ですよ」
「うん、ありがと……」
なんだか、久々のこのゆるい感じでちょっと落ち着いてきた。
「自己紹介をやり直そう。グレイス・フェスケイト・ハートレイ。デュアラル王国で公爵をやってる」
(やってるって……そんな気軽な感じで言えるような役職ではないですよ)
「ほら、アイリス。挨拶、挨拶」
「……アイリスです。デュアラル王国の国定魔導士を拝命しております」
「聞き及んでいるとも。賢者なのだろう?」
「はい。といっても、まだまだですが」
「いや、それで良い。称号Ⅰ持ちとは一度、死ぬ気で戦ってみたかったのだ」
そう言って、ハートレイさんはソファの横に立てていた剣を抜いた。
が、それよりも早く、アンが拳殻を装備し彼の顎下に触れる。
「──っ」
拮抗。
少しでも動けば彼の顎骨は砕けるだろう。
アンは上手く剣先を拳殻で受けているから、状態はアンの方が良い。
「なんのつもりだ、クソ貴族」
「言っただろう。死ぬ気で戦ってみたいのだと。それに……動かないか」
「殺気は無かったので」目線でアンに控えろと伝える「戦いたいというのは?」
「文字通りの意味さ」ハートレイさんも剣を収めた「戦いたい」
「賢者と戦っても面白くはないのでは?」
「いいや、私の見立てによれば君は転生者に近い存在だ」
──カチャッ。
「誰が転生者に近いと?」
威嚇の意味を込めて、ソーサラーにカチャッとコップを置いた。
「君だよ。魔法を扱うだけでなく、武芸にも秀でている。紫ということは治癒魔法も扱えるのだろう?」
だが、ハートレイさんは試すようにそう言いかえしてきた。
「それで、なぜ転生者に近いと仰ったのですか? 煽りのつもりでしたら撤回をしていただきたいのですが」
「気分を害したのなら謝罪をしよう。ただ、撤回はしない。我々は転生者と戦ってみたいのだよ」
膝上に肘を着いて、前のめりになったハートレイさんは目元を笑わせた。
「だから、我々と戦って欲しい」
「お断りします」
「そういうと思っていた。だが、君は首を横には触れないとも。賢い君なら分かるだろう?」
……話に乗ってはみたが、この人はクセが強いな。
顔の向きは僕に向けたままだというのに、隣のアンまで含めるように少し身を引いたのだ。
──世話をした相手の頼みを断るのかい?
これ以上、転生者と言われたことに憤慨するのは好ましくはないか。
「分かりました」
引き下がろう。相手は上位貴族。この王国の権力者だ。
こんな場所で対等に話すことですら憚れる存在。
アイリスという存在はこういう奴です、という認識ができただろう。
(それにしてもとんでもない人だな)
転生者を殺す立場にあるアイリスに対して転生者らしいと言うだなんて。
この世界でその言葉は禁句に近いだろうに。……まぁ、だからこそ少し強気に返答をしたみたんだが。
機嫌は損ねてはいないみたいだから、対応としては合っていた様子。
……試していたのかもしれないな。敵と味方を正確に認識をできているかどうか、みたいな。
恐ろしい人だ。二大貴族なら、貴族らしくもっと腹のさぐりあいをしてくるかと思ったが。
腹の中身をかっ開いて確かめるようなやり方をしてくるとは。




