455 鈍感な野郎だな
僕が勝手に計画をして。
勝手に辛くなって。
勝手に泣いて。
僕は本当にどうしようもない奴だと思う。
なのに、助けてほしいだなんて。
そんなこと言う資格なんてないくせに。
優しくてなんでもできるリリーさんに甘えようとしてるのだ。
「……助けてほしい、か」
リリーさんは撫でていた手を止めて、僕の顎を持ち上げた。
「助けてやってるだろうが、今。不満か?」
「いいえ……いいえっ……」
「だろうが! 泣くな!!」
「でもっ……」
「あー、もー」
ズイッとハンカチを出して、僕の涙を拭ってくれた。
立ったままズビズビと泣く馬鹿みたいな僕を。
呆れながら、でも優しい顔のまま。
「少年はさ、前々から思ってたけど優しいんだよ。だから、皆が集まるんだ」
「でも、優しいだけじゃ、何もできなくて……弱いですし」
「この世界ってのは優しくされなかった奴らが大勢いるんだ。騙されて、怒られて、心がやつれてる奴らがいっぱいいる。そんな中、優しくてなんでも任すことができて、頼れる奴がいたらそりゃあみんなお前の元に集まる」
ズビッと鼻をすすると「鼻をかめ」と鼻にハンカチを当てられた。
鼻をかんで、また涙が出てきた。今度は背中を擦られた。
「だけど、一人で何でもやり過ぎなんだ。今回の件だってそうだ。敵城に乗り込もうだなんて……お前は頑張り過ぎなんだよ。なのに、潰れるまで助けを呼ばないだろ? 私がいくら大丈夫かって聞いても大丈夫って答えるだろ?」
「……あい」
「吐き出せ、全部。お前に助けられてる奴、お前を助けようとしてる奴を頼れ」
「あい……っ」
「分かったら、さっさと泣き止め! それともまだ吐き出したりないか?」
「いいえっ……」
「じゃあ、もう良いだろ! ほら、擦っといてやるから」
止めたいのに、涙が溢れて止まらない。
小さな手が、心地良くて。
温かい言葉が胸の穴を塞ごうとくすりを塗ってくれて。
かけてほしい言葉をかけてくれて。
「…………りりーさん、すきです、ぼく」
「だろう。そうだろうさ。わたしも少年が好きだ」
「……うれしいですっ……ありがとう、ございます」
「そうだな。嬉しいな」
「優しくて……あたたかくて……」
「うんうん。寛大さを知ったか。わたしはいい女だからな」
擦っていた手でとんとんと背中を叩いてくれて、涙が徐々に引っ込んでいった。
呼吸も落ち着いて、言葉を遮らなくなってくれた。
だから、改めて、感謝の言葉を伝えよう。
こんなにあたたかい気持ちにさせてくれたリリーさんに。
「あのっ、リリーさん、本当にありがと──」
「──ってアプローチの仕方だったら、アイリスくんはオチた」
「うわ」
ニヤッと笑われ、口をグイーッと引っ張られた。
「心に傷を負った奴は依存をし易いからな。こういう手口が一番聞くんだ」
「……さいあく……」
「商人の血筋を舐めんな。人心掌握の一つ。肯定し、自分は理解者だと演じる。こういう奴、たくさんいるから気をつけろよ~」
「……じゃあ、さっきまでの言葉は嘘だったっていうんですか!」
「鈍感な野郎だな!!」
そういうと、僕に背中を見せて。
「本心だけど! そういう奴がいるから気をつけろって話だろ!! 言わせるな!」
ズシズシと歩いていくリリーさんの背中を放心したように見つめる。
え、あ、リリーさん……。
「早く歩け! 歩くの遅すぎだぞ! 待たせてるんだからな!」
決して振り返ることはせず、ただただ歩いていくリリーさん。
それが照れ隠しのように思えて、僕は隣まで走っていった。
「リリーさんはいい女ですね」
「うっせ。いい女でも相手が一生いねぇんだよチクショウが」
「すぐに見つかりますよ」
「みんなそういう。なら、お前が伴侶になれ」
「僕よりもお似合いの人がどこかにいますよ」
「みんなそういう! いいから早く来い! またせてるんだっての!」
ぽかんと殴られて、頭を抑えながら後ろをついていった。
僕らはロバート邸からどうやって帰るのかって話だが、リリーさんが脚を用意してくれているらしい。
「どこで待ってもらってるんですか……?」
「もーちょい。貴族やらフーシェンやらが後をつけてきてたら面倒だろ?」
「反応はないですけどね」
「ここらはロバートの領地だ。どこから湧いて出るか分からんぞ」
今回の宴の場所はデュアラル王国の南方の山の中にある屋敷だった。
公爵レベルの人がこんな場所を本拠転移している訳がないので、あそこは接待用の屋敷……とかなのかもしらん。
なので今は夜の森と平原の間を歩いている感じだ。周りには気配がない。
「あ、見えた見えた~。よっすお待たせ~」
少し開けた場所にいたのは馬車と御者と思しき人影。
リリーさんの挨拶に会釈を返しているのは、立派な身なりをしている人だった。
年齢は初老といった雰囲気でハットを被っている。バトラーって感じだ。
「えーと、よろしくお願いいたします」
「アイリス様ですね。お待ちしておりました」
「夜なのにすまんね。ロバート閣下のところからじゃあ遠いんだ」
「問題有りませんとも。ささ、長い旅路となりますのでお入りください」
にこにこする御者さんに乗せられ、リリーさんの向かい側に座る。
「あの、どこに行くんです?」
「ふふふ。前に会いたいと言っていただろう? 君の友人がいる所さ」
客車内で外套を脱ぎ始めたリリーさんはニヤリと笑った。
「二大貴族のもう1人。ハートレイ家にご招待しようと思ってね」




