454 クラディスの本音
この痛みはいつかは収まるんだろうか。
胸の上から擦ってもなくなることはない。時間とともに塞がっていくのか、それとも痛みに慣れて鈍っていくのか。
……苦しいな。
──なんで、僕は転生者なんだろう。
本当に、そう思う。
ただこの世界の住人として生きることができたら、どれだけ良かったか。
寝て起きて称号Ⅰの所から転生者が消えてくれたら、どれだけ嬉しいか。
……そんなことを考えるようになった。
でも、それは無責任で、都合の良いようになってくれという醜い願望だ。
頭が重たい。体がだるい。心が苦しい。
前に進めば進むほど、辛いことが増えてくる。
(立ち止まれたら、どれだけ良いか)
でも、それは痛みから逃げるだけで、幸せにはならないことを知っている。
だから、進むしかない。ゴールがあるかすら分からない道を。ただ、真っ直ぐ。
「──少年は間違ってないからな」
こつん、と。
帰り道をゆっくりと歩いて帰る最中に、胸に手を当てられた。
「間違ってない……って、言われても……」
「悩んでるんだろ」
「いっろいろ悩んでます。……今、すごいいっぱいあります」
こーんなにと手で表すと呆れるような目で見られた。
空元気なの見破られたかな。あ、仮面してないからか。
「それらとの付き合い方が今のままで問題ないって話だ」
「……ホントですかあ……? もう、訳わかんなくて……」
今の僕、ひどい顔をしてるんだろうな。
目元すら重たい。何日も寝てないみたいな倦怠感が瞼に乗っかかってる。
「敵を作らないことが今は重要だからな。今はまだ『王国に突如として現れた謎が多い美少女賢者』で良いんだ。王国を主としても各方面への緩衝材になってくれりゃあ不満も分散する」
「……」
「おいおい、竜騎士の話を聞いてから顔がず〜っと死んでるぞ。そろそろ戻れ」
「……そんなにひどいですか?」
めっちゃひどい、と歯を見せて笑われた。
「私やケトスは君の人間性が転生者よりも勝ってたからこうして共にいる。あの少女のことや竜騎士のことで色々悩んでるんだろうが、都合の良い解決方法なんてないし、最短のルートなんてないんだよ。分かったか?」
胸を執拗に叩かれ、口をモゴモゴとさせた。
「不安か? よぉし、不安を解消してやろう。言っておくがな、君以外の転生者なら会った瞬間に殺してるからな? 生きてるだけで正解だと思えよ」
「でも、それはケトスの友人だからって」
「人間は醜い生き物だぞ。ケトスがいなくなった今、君を生かしている理由がどこにある? 殺して任務中に死んだと言えば片がつく話だ。だが、私はそうしない。転生者は嫌いだが、君なら良いとしたからだ」
分かったか? と言われて口を尖らせた。
「それでも……今までのやり方でもエヴァーチェとは上手く行かなかった。説得はできなかった。殺されかけた……。今、生きてるのは運が良かっただけです」
「それは時間が無かったからだ。話をするようになってからは仲良くなったんだろう?」
「……はい」
「沈みすぎたぞ、面倒くさい。メンタルケアまでせにゃならんのか? もー」
と言いながらもリリーさんは、僕の頭を撫でてくれた。
「少なくとも、転生者を殺す転生者なんぞいい死に方はせんよ。良いように使われて死ぬのがオチだ。だが、君は私の仲間だ。こうして手の届く場所にいる君をそんな死に方はさせないよ」
「……ほんとですか……?」
「本当さ。私は嘘なんてつかない」
「……約束してくれます……?」
「約束だ」
「ぼく、よわくて、よわいくせに色々やろうとして」
「そうだな」
「それで、どうしたらいいのかわからなくなって、こわくなって、ともだちもいなくなって」
涙が溢れてきた。
こんな道の真ん中で。
だれもいないから良かったけど。
惨めで、ださくて、情けないけど。
「……助けて……ほしいです」
言いたかった言葉を初めて口にした。




