449 強い転生者の生き残り方
「皆さんの表情が固い理由を知っています。それで、私がどのような言葉を発したとしても納得をしてもらえないことも分かっています」
麻央さんは話し始めたが、場の空気は変わらず最悪だ。
リリーさんですらよく出てきたな、って顔をしている。
少しでも空気が崩れたらすぐにでも襲いにかかるような緊張感もある。
「ですが、一つだけ。たった一つだけ、皆様にお伝えしておきたいことがあって、この度、この会に来させていただきました」
麻央さんが深呼吸をしたのが鎧の動きで分かった。
そして、その言葉を口にした。
「……私も転生者が嫌いです」
場は動かない。否定も肯定の声も上がらない。
ただただ、転生者の次の言葉を皆が待っている。
「同情をしてもらいたい訳でもありません。ただ、理解をしてもらいたいだけです。私がここに立ち、なんのために武器を振るうのか。転生者という言葉のせいで、私の夫は死に、娘も殺されかけました。ただの一児の母だった私が、です。今では札付きで、この世界から嫌われる存在となりました」
彼女の境遇は聞いた。
転生者だと疑われ、監査庁によって夫が殺されたと。
娘と離れ離れになり、今も生存報告を聞いているのだと。
「転生者だから当然だろう。当然の報いだ。貴様のせいで大事な人が死んだ。今、この場にいる皆様の中でもそのような思いを抱いている人もいるでしょう。そんな私に向けられている言葉を、私はそっくりそのまま他の転生者に向けましょう。彼らのせいで私は今、こうして嫌われているのだと。生きにくく、大事な人を失い、追われる存在となったのだと」
話を聞いていると、彼女がこの場に来た理由が分かった気がした。
(麻央さんは僕とは別の道を歩くことにしたんだ)
……これは、麻央さんの決断だ。
僕とは違う道で、転生者としての存在を認めさせるつもりなのだ。
「殺します。殺してみせましょう。皆様にとって都合の良い存在となりましょう。転生者を殺す転生者として名を上げ、利用しやすい存在となりましょう。私は私と娘の保身のために武器を振るい、皆様の敵を討ち滅ぼす槍となります。それでようやく私はこの世界で、モーティア・シュヴァルツベートという1人の人間として見てもらえるのだから。……挨拶は以上です」
拍手は起こらない。声も上がらない。
だが、皆の中に葛藤や疑問といった、ある種の感情を植え付けるのは成功をしたのだと感じた。
(それが、麻央さんのやり方なんですね)
転生者として一括りにされている状況を打破するために、転生者の中で新たな派閥を作り上げる。
嫌われる存在でありながらも、国民から利用価値のある存在として認めさせ、地位を確立するのだ。
その地位は平和とは程遠いものだけれど、殺される心配は低くなるから。
転生者と公言してどんな差別を受けようとも、殺されるよりはマシだからと。
強い転生者だからこその生き方だ。
「それでは皆様パーティーに戻りましょうか」
息が詰まるような緊張感がまだ残る中、ハインストのメンバーはそのまま階段を登って奥の部屋へと消えていった。
姿が消えたことで、ようやく呼吸のできる雰囲気に戻った。
皆にとっても衝撃だったのだろう。敵のはずの転生者が利用できるコマとして現れるなんて……想像もつかなかったのだろう。
見つけたら殺す。見せしめに殺す。そうすることで民からの信頼を得て、少しばかりの王政への不満が解消される。そんな世界だ。
普通なら通用はしない。だが、バックにいるのがロバートやログリオといった重役ならば話は別だ。
「…………」
だけど、これで、麻央さんとクラディスは敵になった。
彼女と彼女の娘のために、生きづらくても生きられる環境を整えるつもりなんだ。
娘さん、か。まだ生きてるって聞くけど、一体どんな人なんだろう。
(──って、シュヴァルツベート……と言ったか?)
どこかで聞いた……。
麻央さんのときじゃない。でも、たしかに耳に覚えがある。
シュヴァルツベート……って、誰の名前だっけ。
最近、聞いた気がする。
誰だ……誰──…………。
──「アン・アルジェント。旧姓はアンジュ・シュヴァルツベート。奴隷になったことで、名前が一度変わっているみたいだ」──
がつん、と。頭を殴られたような衝撃が走った。
これ、え。
そんな、嘘だろ。
偶然にしては一致するところが多すぎる。
なんで、今まで気が付かなかったんだ……?
(麻央さんは……アンの母親……)
暗黒森の番人の麻央さん。
分血の暗黒森人のアン。
父親は殺され、娘はいなくなったと話をしてくれた。
アンも父親が目の前で殺され、母親が転移魔法で消えたと話をした。
これって……本当に…………。
「りりー……さん」
「おい、ここでは──」
「もしかして……あのひとは、アンの母親……なんですか?」
「……」
リリーさんからの反応は返ってこない。
だが、口を噤んでいる。否定の言葉が出てこない。
「…………そうなんだ……じゃあ、どう、したらいいのかな……これ」
麻央さんは、自分とアンのために武器を振るうと言っていた。
2人が生きやすい環境を作るために、と。
だったら、僕は……どうしたら……?
「……そんなことってあるのかよ」
分からないことがまた増えた。
分からないことが多すぎて、分からなくなってきた。
ああ、もう、なんで、こんなことばかり起きるんだ。
「──アイリス様」
声が聞こえて、はっ、と僕は後ろを振り返った。
そこには使用人と思しき人物が立っていて、僕に向かってこう言った。
「ロバート様がお話があると。奥の部屋へ」
苦しいことは立て続けに起きるとはよく言ったものだ。
僕の心はもう悲鳴を上げている。




