↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

465/550

447 英雄達は大罪を抱える


 パーティーの盛り上がりがピークから段々と落ち着いてきた頃。

 僕は柱の側に立っていた。

 ワインのおかわりなんてのも勧められるが、飲めたもんじゃない。

 胃袋の上らへんに髪の毛の塊でも絡まってるみたいだ。気分が悪い。

 

(…………イブはいないのか)


 でも、ハインストが監査庁の組織になったんだったらイブも当然そのはず。

 あの時の誘いは、本当にイブが勇気を振り絞ってしてくれた最後の誘いだった。

 ……それを断ったのに、今、こうして僕はここにいる。

 まだ、アイリスとしてだったら仲良くなれたかもしれないのにな。

 ぐちゃぐちゃだ。今の僕。立場も感情も頭の中も。


「お集まりの皆様。パーティーは楽しんでいらっしゃいますかな」


 ロバートの声掛けによって、また皆の注目が集まる。

 今度はログリオさんは席を外しているみたいだけど……。


「先程今宵の参加メンバーが全員揃いましたので、そのご挨拶をと……」


 というと、ロバートは次の話を勿体ぶる。ログリオさんと同じやり方だな。


「参加メンバー……?」「誰だ?」


 貴族らも事前に聞かされていないのか、ざわつき始めた。

 これから起こることは本当にサプライズらしい。

 それらの様子を階段上から見つめるロバートは満足げな笑みを浮かべた。


「なんと、本日はハインストのメンバーが全員、私の館に集まっているのです!」


「なっ!」


「それは本当なのか!」


 貴族たちは大興奮。歓声も上がり始める始末。

 さっきも普通にハインストのメンバーいたけどな。

 

(全員参加……か)


 だったら、イブもいるのか。

 いたとしても会って話をすることもできないか。


(はぁ……僕ってつくづく……)


 気づかないようにしていた胸の隙間に風が掠めながら通っていく。

 イブが監査庁に行ってしまい仲間がいなくなったことをまた実感をした。

 

(……。寂しがり屋なんだな)


 でも、情けない姿を見せる訳にはいかない。切り替えよう。


「では、皆様少々移動をお願い致します。真ん中の道を開けてください」


 手を左右に少し広げるロバートに貴族の人らも笑いながら移動を開始。

 エントランス部分に集まっていた人が左右に分かれた状態に。

 これで入り口の扉から、ロバートのいる中央の階段までの道が開かれる形になった。

 

「準備が整いましたので、ハインストの皆様、どうぞお入りください。皆様、拍手でのお出迎えを!」


 拍手一音。そこから、なだれ込むように拍手の音が広がっていく。

 みんな嬉しそうな顔をしてる。パレードを心待ちにする子どもみたいだ。

 隣にいるリリーさんも拍手をしながら、貴族の人垣の隙間から通路を見てるし。


(イレネロさんも見たことはないんですか?)


(全員揃ってるのは初めて見る。レアだ。私が生まれる前からログリオは英雄だったからな……楽しみではある)


 あのリリーさんですら楽しみなのか。

 じゃあ、100年そこらしか生きれない人ならそれこそコレはすごいことなのだろう。

 誰しも知っている英雄達の凱旋か……。

 そして、その時は来た。

 

 扉がゆっくりと開かれていく。

 大きな扉の前を押してきたのは招待状の確認をした黒服の人達。

 そこから、ゆっくりと歩いてきたのは、ログリオさんだった。

 奥にも人が見えて、一人一人と間隔を開けて真ん中の通路を歩いてくる。


「雰囲気があるな、さすがに」


「ああ。一国の総戦力よりも強いのだ」


 貴族たちやフーシェンの声を聞いて、それが誇張された表現だとは思えなかった。

 一国の総戦力。……確かにそうだな。


「……迫力が違う」


 ログリオ──黒翼等級(ネロブランシュ)。

 ウィンストン──白翼等級(エルブランシュ)。

 ティナ──白翼等級(エルブランシュ)。


 元帥級の実力者が三人。

 そして、その後ろにいるのが、僕の友人。

 紺色の肩よりも下に伸びている長髪を揺らし、切れ長の瞳を前にだけ向けている。まるで周囲にいる人間なぞに一抹の興味すら抱いてはいないような様子で。


 イブ──称号Ⅰ持ち(インファンテ)の転移者。


「……!」


 一瞬だが、バチッと目が合った気がした。

 すぐにふいっと視線が外されたけど、今、完全に目が合った。


(僕だって気がついた……?)


 いや、仮面を被っている。逆にそれが目立ったのだろう。

 ……さすがに、大丈夫だとは思うが。

 

「これで全員か……?」


「ハインストの総人数は確か五人だと聞いていたが……」


「あと1人はどこに? 揃っていないではないか」


 という困惑の声を貫くように、一番前を歩いていたログリオさんが振り返った。

 

「最後の1人はシャイでしてね。それに、皆様に約束をしていただきたいことがあるため、遅れて来ていただくことにしたんです」


「約束……?」


「ええ。決して『手を出さない』という約束です。彼女は札付きですので」


 にこりと微笑むログリオさんの言葉に貴族たちは反応を示す。 

 札付き。懸賞金がついているということだ。

 ハインストの血盟のメンバーで、札付き……。

 皆が沈黙を返す。それを肯定と取ると、ログリオさんは呼びかけた。


「それでは、入ってきてください。ハインストの最後のメンバー」


 その時、金属が擦れるような音がかすかに聞こえてきた。

 見えない。夜に溶け込むように、その姿が見えない。

 だが、音が近づいてくるのが分かった。

 鉄靴が地面と擦れる音。

 ヘルムが胸当てに擦れる音。

 歩く度に揺れる金属の音。フルアーマーの証明だ。

 ──ガシャンッ、と音が館の中に響いてきた。

 夜から姿を表したのは、同色の鎧で体を覆っている人の影だった。


「えっ……」


 おもわず声が漏れた。

 静寂の中に、僕の声だけがぽつんと残る。

 が、それもすぐに他の群衆の声にかき消されることになる。

 雨が降り始めた時のように、徐々に大きくなっていく声。

 だが、それは歓声ではない、困惑の声だ。

 だって、今、目の前をゆっくりと歩くその人物は。


「紹介しよう! 彼女はモーティア。札付きの転生者だ」


 僕がこの世界で初めて出会った転生者だったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。