444 フーシェンのエース
スケアは同じ目線だったけど、この人は……高いな。
青白い獣耳が生えていて、上背があるから余計猫背に見える。顔つきはスケアをそのまま大きくして少し厳つくしたような顔付き。
若いやすく言うと、関わりたくない人種の顔をしている。
「アラシ。失礼だぞ」
「コイツがジロジロ見てきたのが悪ィんだろ?」
スケアの時を思い出すなぁ……目が合ったら威嚇してくるこの感じ。
「あらし……様。初めまして。アイリスと申します」
握手でもしようと手を伸ばすとその手をジロジロと見下ろし──
ペッ。
「……」
手の甲に垂れる泡沫をふくんだ半透明の液体。
唾だ。手に唾を吐いてきたのだ。
……たしか最初に会ったときもスケアには唾を吐かれたっけ。
ポルタルさんが驚いてるのを他所に、僕は少し首を傾げた。
「握手はお嫌いでしたか。申し訳ありません」
なんて言ってやると、顔をズイッと近づけてきて眉を潜めてきた。
「…………オマエ、面白くねぇ奴だな」
そう言い、踵を返して離れて行った。
おもしろくねぇやつ……? え、なにその反応、初めてされた。
ポルタルさんに手ぬぐいを出されたが、自分ので拭っておく。狼人の唾って言っても獣臭い訳じゃないんだ。そこらはさすがに人間のままか。
「申し訳ない。アラシは昔からああで。後で私の方から厳しく言っておきますので」
「いえ、大丈夫ですよ。彼はもしかしてスケアさんと血の繋がりが?」
「ええ。スケアの兄です。アイツはフーシェンのエースなんですよ」
フーシェンのエース。ということは……ムロさんポジションか。
前かがみになった時に胸元にぶら下げていた認識票が見えた。
──蒼銀等級。
上位二階か、上位一階か。どのみち、今の僕じゃ敵いそうにないな。
「あー! もしかしてさ! 君、噂の国定魔導士ってやつでしょ!」
「……?」
デカイ声で人垣を割って歩いてくるのは、見覚えのある髪色の男性と寡黙そうな黒髪の男性だった。その二人を見ると、ポルタルさんは身を引いた。
「違う? アなんとかス国定魔導士ちゃん。あきうす……だっけ?」
ワインレッドの髪を後ろで三つ編みにしているへそ出しの人。
南国の出身か? ここらじゃ見たことない格好をしている。
「アイリスだ。人の名前くらい覚えておけ」
「そーだそーだ、アイリスだ」
その横にいるのは魔法杖を宙に浮かばせている黒髪ロングの男性。
レヴィさん風で、ザ、魔法使いって感じだ。
口調も初めましての時のレヴィさんに似てる気がする。年齢はだいぶ上だが。
「それでさぁ!」
「は、はい。なんでしょうか──」
そうだ、えーと、名前名前。鑑定をして話を合わさないと……。
って、え……?
「うちに来ない? ハインスト! 仲間募集中! 強い子なら大歓迎なの」
「さすがに彼女を誘うのは無理だ。冒険者じゃない」
「それもそっか……残念……」
「あの……えっと」
僕は言い淀んだ。名前のことだ。
レベル差のせいで、名前以外がほとんど文字化けしてるが、名前だけは見えた。
でも、本当にその名前で合ってるのか、どうか。
「あ、名前? 俺の名前はティナ。こっちはウーさん」
「ウィンストンだ。ハインストに所属をしてる」
「俺も所属してる。よろしく」
「あのぉ……ティナって、その……えーと」
髪色が一緒のワインレッド。
やたら性格が明るそうで。
名前がティナ。
これって、もしかして……。
「ティナ先生のお知り合い……ですか?」
そう聞いてみると、ティナさんは目をパチクリとさせていた。
「ティナ……先生……? 先生?」
「これくらいの身長の、女性の」
「ん~?……んっ、あ、あー! もしかして師匠のこと?」
「師匠……なんですか?」
「ティナ・リー・コントラでしょ? 同じ髪色で女」
髪型も一緒だっけ。ちょっと違うか。と三つ編みを持ち上げている。
うんうん、と頷くと、あちらもうんうんと頷いてくれた。
話が見えてきたのか男性は腕を組んで胸を反らせた。
「それ、俺の師匠! 俺はあの人の一番弟子だったんだ!」




